第144話 きな臭さ
あれから二週間が経過し......そこら辺に生えている木を使って、建てては崩し、建てては崩しを繰り返していたが、大して成長が感じられずに完全に行き詰まってしまった。
そこに追い討ちをかけるかのように、雪がチラつくようになってきた。はい、もう完全に冬ですね。
建築の練習はここで一旦終了となった。
正確な暦がわからないからなんとも言えないが、これから今の比じゃない程雪が多くなると思われる。春になるまでは生産的な行動をするのは難しいだろう。
そしてこの二週間の間に、牛のオスが五頭、メスが一頭が牛肉にクラスチェンジした。
メスは進化前だった。
無念だ......オスが殺られて逆上したと思われる。ていうか、食うのサボってやがったなメス牛め。
解体に慣れるまでは収納の肥やしになる。全てこちらに任せてください、なんて言っていたアラクネの口車に乗るんじゃなかった。
建築、解体と、これから覚える事はアホほど多い。しかも独学。
いっその事......召喚ガチャしてみるか?
............いや、面倒だ。それは最後の最後。どうしようもなくなった時の手段としてとっておこう。
......そんな事より、雪化粧された草原を走り回るハスキー(大)が神々しすぎて胸が苦しい。これが......恋なのだろうか......
コタツでぬくぬくしながら胸を押さえる。父性がとめどなく溢れてきて止まらない。
あのジジイのダンジョンみたいな人工的な雪じゃない天然物の雪ってところがまたいい。
日本の歌にこんなのもあったような気がする。
確か、犬は喜び庭駆け回り、蛇はコタツでとぐろ巻く......だったかな。いい歌だよね、うん。
ダイフクはコタツの上でせんべいをつついている。
鳩サブレを与えてから、歯ごたえのある焼いたお菓子を好むようになった。甘い物もしょっぱい物も関係なく、ボリボリと音を立てながら満足気。
ツキミちゃんはコタツの中で蕩けている。せめて顔くらいは出して欲しいと思わなくもないけど......満喫しているっぽいから放っておこう。
ヘカトンくんは寒さを感じないらしい。さすがにあの雪エリアでボスをしていた経験のあるモノは凄いな。
アイテムだからっていうのもあるかもしれないけど。
牛は雪が降り始めてからは大人しい。コンテナの中で何かをしている。交尾など。
妊娠していたメス牛はかなり腹が大きくなっている。魔物だからなのか、日本の基準では有り得ないスピードだ。放っておいても勝手に出産、育児をしそうなので、その時になったら考えようと思う。
はい、これが近況報告となります。現状を整理したとも言う。
骨喰さんはこの前ガッツリ暴れたからか、王都で購入した刀掛けがお気に召したのか......よくわからないけど、とても穏やかな刀生を送っている。
たまに俺の鍛錬で振ったり程度。大人しすぎて不安になって訊ねてみても、『満たされているから』としか言わない。
信用しておくから、急に妖刀モードに戻らないでね。急に『真っ白な雪原を、愚か者共の血で真紅に染めあげてやろう』とか言い出しそうだから。
物騒な方向に思考が逸れたけど、平和な時間って素晴らしい。
鳥ちゃんズのレベル上げは春になったらやろう。そうしよう。
冬の間に狩りとかレベル上げのおねだりをされたら、その時は全力で応えさせてもらおう。
思考に一段落つけた俺は、コタツとマブダチになっている皆に問いかける。
「俺はあんこのところに行ってくるけど、一緒に来る?」
フルフルと首を横に振るピノちゃん、ツキミちゃん、ダイフク。息ピッタリやんけ。まぁどうせ行かないって答えが返って来る事は知ってたからショックはない。
「じゃあ行ってくるけど、火傷とかはしないようにしてね......焦げ目が付いちゃった君たちを見たくないから」
しっぽと羽根が左右に揺られる。いってらーって事なんだろう。
俺が外に出た事に、速攻で気付いたお嬢様がこちらへ向かってくる。少し前にこんな光景見たなーと思わなくもない。
それにしてもハスキーは雪景色が様になる。秋田犬とかサモエドとか......雪国に適応したわんこは須らく可愛い。
その中でも可愛さと凛々しさと人懐っこさ......全てが融合しているハスキーが最強。
ソワソワしているあんこに少しだけお待ち頂いて、足元のコンディションを確認。
これくらいなら問題なく動き回れそう。
「お待たせー。あんこは何かしたい事ある?」
そう聞くと上を向くあんこ。お空になんか居るの、倒していいかわからないから聞いてみた。と教えてくれた。
目を凝らして見てみるも、黒胡麻が二つ飛んでいる様にしか見えない。
視力を強化して再度確認。
......怪鳥、羽の生えた爬虫類、不思議生物。この三点が最初に頭に浮かんだ。
なんだアレ?
こちらを見ている......気がする。
鳥肉だよね、多分。でっかいトカゲみたいのも前に食べて美味しかったし......
「お肉はいくらあってもいいから狩ろうか。あんこが殺りたいなら殺っていいよ」
任せて!!
可愛い鳴き声と共に、そう伝わってきた。血気盛んだなぁ。
真剣な表情になり、倒し方を考えているように見える。俺は黙ってその横顔を眺める。
氷で出来た十文字槍が二つ、恐ろしい速さで形成され、そのまま射出されていった。多分一秒も掛かっていない。
初めての超長距離射撃。
一体は仕留める事が出来たが、もう一体は避けられてしまい、尻尾を切断しただけに留まった。
まぁアレよね。これでもかなり優秀な成績なはずなのに、あんこは満足せずに悔しそうにしている。
残った一匹は逃げ出してしまったが、あんこは凹んでしまって追撃しようとしない。あんこの獲物なので俺はスルーしておいた。
そんな落ち込んでいるあんこに後ろから抱き着き、褒める褒める褒める......追撃で更に褒め倒す。
落ちてくる鳥らしきモノは、糸で受け止めて地面に転がしておく。あんこが大事。
「初めてやったんでしょ、あの攻撃は。それなのにあんな遠くにいたヤツに当てることが出来て、仕留められるなんて凄い事だよ!!」
素直な気持ちをぶつける。落ち込む必要なんて無いんだよ。
ウゥゥーと唸りながら俺の腹へ顔をグリグリ。本当に悔しかったんだねー。
『次は当てるもんっ!』だって!!
可愛すぎて禿げそう。でも攻撃はえげつない......そのギャップがまた堪らない。
機嫌の治ったあんこを撫でくりまわし、スパッと切断された尾と、貫かれたような傷と、切り裂かれた傷がミックスされている鳥トカゲの死体。
ルンルンなお嬢様を抱っこして、このまま拠点まで帰ろうかなーと思っていた俺だけど、鳥トカゲはどんな味なんだろうと好奇心が湧いてしまい、帰る前に鑑定してしまった。
鑑定結果を見て、さっきのトカゲを遊び半分で相手をしてしまったことを後悔するのだった。
▼スカイワイバーン
鳥とワイバーンのハーフのような外見の飛竜種
とても目が良く知能も高めだが、戦闘能力がほとんどない
他種族の庇護下に置かれて、上空からの監視、偵察要員として重宝されている
肉は淡白な味わいで脂肪分が少ない
鍋や煮込み料理に向いていていい出汁が出る▼
あー......そういえば倒した後や、仲間にした後だと鑑定がより詳しく出るんだったな。
......煮込みや鍋か......うん。水炊きとかいいかもしれない。
いや、目を背けてちゃダメか。そんな事よりも気になる説明があった。
偵察要員......高高度からの監視に向いているとか、衛星みたいなもんなのかよ......
さて、こうなると一匹逃がしたのはマズッたかな......
何処の誰に見つかったかはしらないが、この場所が割れてしまった。何かが攻めてくるか、コンタクトを取ってくる可能性が出てきた。
アラクネではないだろう。
こんな偵察要員がいたんなら、もう少し軍事方面が強いはず。
ここは魔族の領域と亜人族の領域に挟まれ、人族の領域にも隣接している。候補が多すぎてどうしようもない。
あんこのお腹に顔を押し付けてグリグリして心を落ち着かせる。急に様子の変わった俺に困惑するあんこだけど、さっきあんこも同じ事をやってきたからお相子です。
「なんの為に俺がこんな山中に引きこもったと思ってんだよ......きな臭さがやばいよやばいよ。厄介事が起きるフラグがぁぁぁ」
「くぅーん......」
「あ、違うよ、あんこは何も悪くない。悪くないんだよ」
もう一度お腹をグリグリ。ぷにゅぷにゅの腹肉とふわふわな毛が気持ちいい。
「面倒なのはもう嫌なんだよね......うん、これからは違和感を感じたら即消す。疑わしきは罰する。幸せな生活を脅かす恐れのあるモノは全て排除してやる」
物騒な決意をし、顔中であんこを感じながら拠点に戻っていく。視界が無くても探知でどうにかなるのはいいよね。
寒くなってきたから、皆でゆっくりお風呂に浸かろうねー。アハハハハ......
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