第141話 リスタート

 拠点まで帰ってきた俺は、情けない声を出しながら草の上に寝っ転がる。


「あ゛ぁぁぁぁ......だっる......」


“人”と名のつくモノは所詮“人”だという事を痛感させられた。魔族であろうが、人間とは多少意識の差があるだけで、根っこの部分はそこまで変わらないみたいだ。

“魔族”と言っていたけど、アイツら分類的には“魔人”と言った方がしっくりくる。


「最初の印象がよかっただけに期待しすぎたなぁ......一部を見て全体を評価するのはおかしいけど、頭がアレじゃあアラクネ達とは遅かれ早かれこうなってたっぽいけど......」


 難しい顔でもしていたんだろうか、心配そうな顔をしたあんこに肉球のスタンプをおでこに押される。プニュッとしてて気持ちいい。


「うーん、客観的に見れば俺が与えすぎだったんだろうけど、俺にとっても充分すぎる程のリターンはあった。ここらへんも価値観の違いだよな......俺にとってはただの捥ぎ放題不味い実ってだけだし。

 それに、こんな事になってもビックリするほどショックが無いし、清々しさが勝っている......これでよかったんだろうな。全滅させるって選択肢が生えてくる前でよかったと思っておこう」


 それはそれとして......下から見上げるあんこの体はこれまた素晴らしい。このまま顔面にお座りしてくれてもいいんだよ。




 とまぁ変態的な思考は一旦置いといて、残っている問題を早めに片付けてしまおう。それが終われば俺は自由になれる。


 幸せを味わっていたい自分を律して立ち上がり、歩いて牛ゾーンへ向かっていく。




 あ、いた。


「メイドちゃんお疲れさま。ちょっと話があるからこっち来てくれる?」


「はーい。すぐ行きます」


 笑顔でこちらに向かって走ってくるメイドちゃん。これからの事を思うと心が痛い。


「えーっと、急にごめんね。アラクネの国と揉めてしまったから、君たちとはもう今まで通りの接し方はできなくなっちゃった。

 だから......うん、こっちの都合で色々と振り回しておいて申し訳ないんだけど、解雇って事になる」


「えっ......」


 鳩が豆鉄砲くらったって表情をしている。まぁそうなるよなぁ。

 悲しいけどこれ真実なのよね。個人的に、働き者でいて素直なこの子は気に入ってたけど、このまま雇用継続はお互いにとって良くない。


「俺の依頼した品物を掠め取ろうとしたり、犯人グループに王子がいたから助命を願ってきたりと、ふざけた思考回路が俺とは相容れなかったから仕方ない。

 急にこんな事言われて頭の整理がつかないだろうけど、どうか納得してほしい」


「わかりました......」


「あー......でも、君のことが嫌いになったわけじゃないから、ほとぼり冷めたら呼ぶ事もあるかもしれないけど......まぁあまり期待しないでね」


「......はい。あの、今までありがとうございました。貴重な経験をさせてもらえたのもありますし、何よりここでの生活は楽しかったです」


 ......こうさ、俺の中に誤差程度に残っている良心を抉ってくるような態度やめてほしい。


 それからは......命じてから二週間経っていなく、まだ食いきれていなかった残りの実を返却され、メイドちゃんがあんこたちとのお別れもふもふするのを待ち、踏ん切りをつけられたメイドちゃんをお国へ送還した。今まで本当にありがとう。


 あの実を合計三十個食べていたので、かなり魔力は増えている。これであの国にいるヤツら程度の力ならば、ここから先何があってもあの子は大丈夫でしょ。多分。


 アラクネ三人娘も嫌いじゃなかったけど、あの時の対応を見ればもともと俺らとは住むべき世界が違ったって事だ。気にしても仕方ないし切り替えよう。


「あんこたちも協力してくれてありがとう。それと、嫌な思いをさせてごめんね」


 愛しの我が子たちをギュッと抱き締めると、俺を慰めるように体を擦り付けてくる。愛おしいなぁ。


 やっぱり......そうなんだよなぁ。うん。

 俺の傍にはこの子たちだけが居てくれれば......それだけで幸せ。



 さってと、色々と頑張ってくれたこの子たちにはご褒美のお時間だ。今日出すおやつ......気に入ってくれるといいな。


「色々あったしお菓子でも食べて休もっか。食べたい物のリクエストがあれば聞くよー」


 地面にレジャーシートを敷いて寝転がる。

 最近色んなものを食べている影響で、前ほど偏食じゃなくなったウチの子たち。


 それでも好きな物は好きなのか、各々最初に好きになった物をリクエストされた。


 ジャーキー、煮卵、レモン&ハーブのソーセージ、チョリソー。

 うーんとってもカオス。

 でも喜ぶ顔が見たいからあげちゃうっ!!


 口に運んであげるとね、ダイフク以外はとっても嬉しそうにするから可愛いの。

 でも、ダイフクも実は素直じゃないだけってわかってるから微笑ましい。


 そんな俺の今日のおやつはひよこ饅頭、鳩サブレ、そして花菜っ娘。

 本日は関東のお菓子で攻めてみる。


 若干パサつきがあるけど、安定の美味しさと可愛さのひよこ饅頭。

 知らない人はいないと言える鳩サブレ。お土産で貰うと飛び跳ねて喜びます。

 そして、うん、まぁ知らねぇって人が大多数だと思う。

 しっとり食感の黄身餡、バターの香るふっくら生地、そしてホイルに包まれているってお菓子の花菜っ娘。南房総の銘菓。


 ご当地銘菓はどれも素晴らしいと思うのよ。色んな場所の色んな菓子を食べ尽くしたい。


 可愛らしい見た目のひよこ饅頭を、可愛らしいウチの子たちが食べている姿に若干の興奮を覚えつつ、他のお菓子も与えていく。


 花菜っ娘は包装を解くだけでいい他のお菓子と違って、中のホイルまでどうにかしないといけないのが面倒だけど、ホイルを剥がした時の広がる香りが心地良い。


 黄身餡被りやバターの風味被りはあったけど、どれも好意的に食べてもらえた。

 ピノちゃんはひよこにご執心で、とても美味しそうに食べていた。中身がパサパサしてるのが好きなのかね......大きく口をあけてて齧り付く姿が可愛い。


 鳥ちゃんズは鳩サブレをツンツン。

 共食い......と言いそうになったけど、クッキーとかも好きなのかな?


 あんこは全てひとくちずつ食べた後は、ジャーキーをもりもり食べている。

 もう少し興味を持ってくれたら嬉しいかなー。美味しそうに食べる姿は麗しいからいいんだけど。





 ......ほんわかする光景、甘いお菓子、のんびりした空気。久しぶりにまったりした気分になる。最近働きすぎでしたわ。


 それと、とっても頼もしいからついつい頼りすぎてしまったけど、本当はこの子たちには血なまぐさい事をさせたくない。でも、何かあるときは頼まないと拗ねちゃう。

 それらは今後上手く調整していこう。


 とりあえず今後数日はダラダラ過ごそう。これはもう確定事項。


 そんで、真冬になる前にある程度は鳥ちゃんズのレベル上げをしよう。他の数値はわからないけど、上げられる箇所は上げておいて損は無いだろう。




 ......他にはあるかなーと考えたけど、あれこれ考えるのは今でなくていいと気付く。うん、もうおしまい。

 フリーダムな生活に戻った今を楽しまなきゃ!




 ◇◇◇




 日が暮れて真っ暗になるまでイチャイチャ。大変有意義な時間だったのは言うまでもない。


 あれからも、あげたおやつをバクバク食べていたウチの子たちはお腹いっぱいになったらしく、夕飯はいらないとの事。おかんが居たら怒られる案件だけど、こういう日もあっていいと思います。


 牛も今のところ落ち着いているらしいので手があまりかかっていない。ヘカトンくんは監視の傍ら文字の勉強に勤しんでいる。

 勤勉で偉いなぁって感想しか出てこない。


 牛はコンテナの中に収容してやる事がないので、ヘカトンくんも誘って全員でお風呂へ。

 仲間はずれにしているつもりはないけど、こういった事にあまり混ざれていないヘカトンくんはすっごい喜んでいた。


 自分の精神が汚れているのを自覚しているからか、こう......なんていうか、ピュアッピュアな反応が眩しい。


「いつも面倒な仕事を真面目にこなしてくれてありがとう」


 と言いながら体を洗ってあげた。親しき仲にも礼儀ありというか、感謝はしっかり伝えていくスタイル。今後も継続していこう。



 俺が背中を洗っていると、お湯に浸かっていたはずのヘカトンくんが上がってきて背中を流してくれた。

 この子やばい......すっごい健気。孫に背中を流してもらっているおじいちゃんの気持ち。


 その光景を見て、あんことツキミちゃんが何やら決意したような顔をしていた。

 何をしてくれるんでしょうかねー(棒)

 とりあえず次回のお風呂タイムが楽しみになりましたよ。えぇ。



 大満足なお風呂の後は、夜も更けて来たのでそのまま解散。

 今後、ヘカトンくんの住処もグレードアップさせてあげないといけない。もうこの子は、この拠点になくてはならない存在になった。


 それじゃおやすみなさい。

 皆ァ、これからもダメな男のお世話をよろしく頼むよ。

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