第140話 起爆
「......シアン殿、何故その者を殺したのだ。説明してくれぬか」
王よォ、今言うかそれ......無いわぁ、それは違うだろうよ。お前、王ってガラじゃねぇよ。感性の違いかなコレも。見りゃわかんだろうが。
ド田舎の領主とかだったなら、ピンズドで良い領主になれるだろうけどさ。
「そんなどうでもいい事は、全て終わったら説明しますよ。今はめんどくさいので。
それよりもまず、貸してた魔道具......アレ全然使ってないみたいなんで返してくれません?」
「あ、あぁ......すまない」
納得してねぇなぁ......
「......はぁ、あのですね、俺はこの世界で生きるに当たって、一つだけルールを決めているんですよ。悪意を向けてくる敵には殺意で返すって」
シーンとした会議室っぽい部屋。ゴクリと喉を鳴らす音だけが聞こえる。
気に入ったモノには寛容になる俺だけど、さすがにこの状況はいただけない。
最近俺に慣れすぎている王女さんにも、一度気を引き締めてもらいましょうか。
「それでですよ......なんで国の危機を救ったはずの俺が、救った国の連中に悪意を向けられなければならないのかって事ですよ。
俺の預けた宝石をどうにかして手に入れようとしているアホ共、どうにかして俺らに危害を加えようとしているカス共、監視なんかつけてくるゴミクズ共......有罪確定なのに、話を聞こうとしたのに喋らないなら、生かしておく必要ないじゃないですか。
ㅤそいつらは全員許す気はないので、こちらでキチンと処分させてもらいます。あ、ちゃんと行動やら密会とかを確認しているから、冤罪は有り得ませんのでご安心を」
返答は聞かずに即座に動く。俺のセリフを聞いて青褪めた人蜘蛛を縛り上げ、隅っこに放置。
あとは俺の宝石類。職人はしっかり加工してくれていたみたいだけど、多分今日受け渡す前までに奪おうとしてたんじゃないかな。
「縛り上げられた皆さん、どんな計画を立てていたのか......今から皆で聴きましょうねー。監視はできても会話までは拾えないから、内容は今から確認です」
ピノちゃんがボイレコを渡してくれる。息ピッタリすぎて嬉しい可愛い大好き。
......ゴホン。ではポチッと。
移動しているのか、早回しで再生。しばらく生活音みたいのが続いた。
......あっ、コレの回収した時に職人も一緒に回収してきてもらえばよかったんじゃね?
......もう遅。来るまで待とうか。あっ、会話が始まっちゃってる......ここら辺から再生でいいか。
『着いてきてもらおうか』
職人は拉致されたんですねー。しばらく不毛な問答をした後にまた移動しているっぽい音が流れる。
それからまた早回しした後に、ようやく聞くべき会話が始まった。
『あの人間から渡された宝石類、それを我らに献上せよ。さすれば悪いようにはせぬ』
『ふ、不可能です。私は既に見張られているので、彼を裏切った瞬間に殺されます。貴方様方は、思い通りにならない私はどうしますか、今殺しますか?
どちらを選んでも死ぬのなら、私は最高の素材を最高の作品に仕上げてから死にたいですね』
......職人△!!
脅しが効きすぎたのかな。うん、でもまだ生きてるって事は上手くここから解放されたんだね。
『......ふん。財政を預かっている私と、第三王子殿下の命令を断ったからには、今後この国で安全に商売ができると思うなよ』
あっさり引き下がったね。完成した品をパクればいいやってなったんだろうか。その後はあまり有用な会話は無く、ここで一度確認を終わらせる。
「あんこちゃん、ダイフクと一緒に職人をお迎えに行ってくれないかな。早めにこっちにきてほしいから」
「くぅん......」
い、行きたくなさそぉぉぉぉ......
「今日は俺の護衛だもんね、無理言ってごめん......じゃ、俺は今からあんこと一緒に職人を迎えに行ってくるから、ピノちゃんたちはここで待っててくれるかな?」
皆とても良い子で、愚図る事無く頷いてくれた。
ではわたくしめは職人を拉致してきます。
まぁこうなるよねってくらい呆気なく捕獲され、放心状態の職人を部屋まで運んだ。
◇◇◇
部屋まで戻り、職人から品物を受け取る。頼んでいた物は全て揃っており、仕上がりも納得いく物だった。
帰り道に襲われるかもしれないから、片がつくまでここに居てもらう。
ついでに王から魔道具も返還された。
「さて、さっきのボイレコの再生を王様も聞いてた思うけど、今回の事に王子が絡んでいた件や、部署のトップらしきヤツが絡んでいた件について、そちらの言い分があるならどうぞ」
「......無い。無いが、最後に息子や首謀者と話をさせてくれぬか。それと......どうか、命だけは取らないでほしい」
あぁ、ダメだこれは。ただ単に平和ボケした種族なのか、生産に全振りしてしまって非情さが皆無な種族なのか。
......そこら辺はわからない。わからないけど、これはもうダメだ。俺とは相容れないわ。許さないって伝えたじゃん。
アラクネの生産力を失うのは惜しいけど、喉元過ぎれば恩を忘れて、調子にノるヤツらが増える。そしてその後は狡賢いヤツがのさばっていくだけの現状。
そうじゃないかもしれない可能性もあるけど、俺はそこまで聖人になれそうにない。
この世界で生きていく為に必要な物を作って貰った恩は、既に返せたはずだし......もういい、めんどくさい。
「そっか。それならもう部外者は去るよ。今まで世話になったね」
「な、いや、待ってくれ」
「価値観が違うからどうしようもないよ。これ以上はお互いが嫌な思いをするだけ、それでも後顧の憂いは完全に断たせてもらう。
依頼していた品物は、作成途中でもいいから引き取るよ。お世話になりました」
クレカソードを置き、あんことピノちゃんに合図を出す。
この部屋の中にいる関わっていたヤツらが氷像になったり、炭になったりした。お疲れさまでした。
王女辺りは縋りついてくるかなと思ったけど、泣き崩れているだけ。
メイドを呼んで、頼んでいた物を全て引き取った。作業途中の物も含めて全てを。悲しそうな顔をしていたけど、諦めがついていたのか大人しかった。
お代は既にお釣りがくる程払ってあるからこれでキレイさっぱり関係解消。仲良くしていたと思っていても、所詮は国に仕えている連中だったって事だ。
「この件で俺を恨むのも、報復として襲ってくるのもお好きにどうぞ。それでは」
愛すべき家族をギュッと抱きしめ、部屋から出る。そこから走って国外へと脱出し、あんピノ玉を起爆。これで悪は滅びた。
適当にポータル石の位置登録変更して投げ捨てる。次回下界に降りたい時は、きっとこの付近に来れるはず。
よし、帰ろう。ダイフクごめんね......女の人は諦めてくれ。
異文化交流って難しいよな。知的生命体との交流は、これからあった場合には最低限に留めなきゃな......はぁ......
この子たちともいずれお別れしなきゃいけない時が来たりするのかな......それだけは無いと願うしかないか。
◇◆◇
~王城~
「すまない......儂が対応を間違えたみたいだ......息子も、臣下も、救世主も......全て失ってしまった。シアン殿から話があった時......あの時にすぐ断罪していればよかった」
「今回は最悪の対応でしたわ。どうにかしてあの方に謝りたいところですが、もうどうしようもないでしょう。今更謝罪しても遅いでしょうし、息子たちは戻ってきません......あの時私たちは動きたくても威圧が凄くて動けませんでしたわ」
王と王妃が頭を抱えている。息子や国の重鎮を失っているが、その事だけを悲しんでいられない状況になっていた。
ㅤ城内、国内で不審な爆発が十数件報告されていて、その内の数件で被害者と思われる肉片が発見されていた。詳しく調べたところ、賄賂等の証拠が出てきており、今回の件の犯人達であると結論が出た。
「あの子も部屋に篭もってしまいましたし......この問題はアナタがどうにかしなさい」
「あぁ、やるしかないな......対応を間違えると相手を殺してしまう魔道具。それを使って城内の浄化をする事を躊躇っていた所為で、この国にとっても、我らにとっても大事なものを失ってしまった」
「王ともあろうものが、下手人の中に息子が居たとわかった程度の事で茫然自失となってしまうとは......情けないですわね。
非情な王になれとは言いませんが、甘いだけで非情さを併せ持てないのなら、早く息子達の誰かに王位を譲りなさい」
「すまない......どうにかしてこの国を建て直すからそれまでは儂を支えてほしい。それが終わったら引退して、一緒にゆっくり暮らそう」
「今は国の建て直しが先決です。それが終わった後に、アナタの意見が認められるか認められないか......という話になってくるのですから、しっかりと励みなさい」
「わかっている。娘や侍女たちには恨まれているだろうが、失敗の責任は負わねばな......
もしシアン殿が、またこの国を訪れてもいいと思えるような国にしなければならない」
そう決意し、王妃と共に茨の道を歩む決意をした王であった。
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対応を間違えたせいで王城が針のむしろになった王様~今更王としてしっかり頑張ると言ってももう遅い。恩人は山奥でスローライフを満喫しているので謝罪すらできません~
ハードモード王様の心境を、流行りのタイトルで表すとこんな感じでしょうか。難しいですね。長いタイトルを考えられる人って凄いです。
熱中症になりかけてクーラーをケチるのをやめました。真夏日とかシンドい。
皆様もコロナや熱中症にお気を付けて。
皆様の評価や反応がモチベになっております。これからも頑張っていきますので、当作品をよろしくお願いします。
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