第139話 愚か者へ贈り物

 王城に到着した俺らは、即座に行動を開始する。


 速攻で幻影と空間隔離を使い、ダミーの俺らを隔離した空間の壁に映して、空間の中へ入っていく。


 俺の服の中に入っていたピノちゃんとダイフクを、服から出して野に解き放った。

 それではこれよりミッション開始となる。皆、よろしく頼むよ。


 ちなみにコソコソやっていたけど、気分的な問題なのでバレたらバレたで問題はない。

 だってダイフクならともかく、本気になったピノちゃんを止められるヤツなんて......多分この世界に俺とあんこ以外にいないもの。


 そういえば闇魔法を使えるようになっているウチの子たちだけど、ピノちゃんが一番使いこなせてる。

 きっと悪企みとかが好きな方が上手くなるんだろう。収納も糸も今では上手に使いこなしているんだけど、何故かブラックホールやクラヤミっぽいのは使えないらしい。

 まぁあの子はピノ玉が使えるから殲滅力では俺と大差ない。うん、気をつけて行ってらっしゃい。




 はい、ではこちらも動き出しましょうか。


 護衛のあんことツキミちゃんを抱きしめながら、隔離空間から出る。

 あんこの鼻息が荒くて可愛い。護衛って立場が嬉しいんだと思うけど、頼もしいってよりも可愛い。むしろ可愛いしかない。

 無意識なんだろうけど、しっぽは誤魔化せてない。だっこされているのが嬉しくてブンブンしている図になっているよ。


 それでも今回の件はちょっと怒っているらしいから、この子たちや俺にちょっかい出してきたヤツがいたら、相手は多分......一瞬で氷像になるか、氷弾を撃ち込まれて穴だらけになる。

 ツキミちゃんも同様に、ご機嫌な中に剣呑さが見て取れる。それでも可愛さは損なわれていない。



 呑気に城内を歩きはじめると、早速監視の視線が飛んでくる。

 上手く隠れているつもりなんだろうけど、俺らにはバレバレンティン。


 コイツもヤツらの仲間と確定しているから、今すぐにでも消しちゃっていいんだけど、一応まだ放っておく。

 でもこの子たちはかなりイライラしてるから......早めに不快な視線をどうにかしないと死ぬよ。


「まだアイツは殺らなくていいからねー。今からピリピリしててもしょうがないよ」


 抱っこしている状態では撫でにくいから、指だけを動かしてくすぐると少しリラックスしたようだ。ハイパー可愛い。


 いつもならすぐに来る出迎えが、今日に限って無いのはなんでだろうねー。不思議ですねー。

 探知しながらアラクネが多く固まっている場所へと向かっていく。



 数分でアラクネが固まっている場所へ着くと、扉越しなのにギャーギャー騒いでいる声が聞こえてくる。

 王族も大体のヤツらがいるみたいだし、バカの公開処刑にはちょうどいい。


 ......言い争ってる内容をひとまず聞いてからにしよう。すぐ中に入ろうかと思ったけど、王族はあまり監視していなかったのであちらのスタンスを確認しておこう。



「............っ!」


「ならんっっ!!」


「何故ですか!?」


「これが手に入れば王としての威光がっっ」


「威光とかどうでもよいのだ。貴様らはこの国を、アラクネという種を......シアン殿の手で滅ぼさせようとしているのかっ!!」


「何を仰いますか。私は王、そして国を大事に思った上で申しております」


「この国の救世主に対し、私たちの意見を無視して貴方方は弓を引くと申すのですね」


「国を大事に思っている者からは、そんな言葉は出て来ぬよ......この者を即刻捕らえよ」


 ......俺に弓を引くだと!?

 それ以外に出てきたキーワードはこの三つ。


 ・王の威光

 ・国滅亡

 ・アラクネ滅亡


 下二つは俺がキレた場合だろう。うん、王の威光の部分がわからん。

 てか、俺をキレさせるような事をほざいていても、捕らえるだけで済ますとかヌルすぎやしねぇか。


 もういいや、乱入しよう。礼儀なんて知らん。


 頑張ってゆるーい雰囲気を醸し出しながら中へ入っていく。あ、どうぞそのまま続けてくださいませ。

 黙らなくていいんですよ。さっきまで言い争いが白熱してたじゃないですか。


「シアン殿......今日は何用でこちらへ......?」


「頼んでいた品物の受け取りに来たんだけど、誰も迎えに来なかったから人が多くいる場所へ来てみたんだよね......なーにを言い争いしていたのかな?」


「す、少しだけ会議が盛り上がってしまいまして......えぇ。あの、大事な会議の最中ですので、別室でお待ち頂けませんか」


 知らねぇおっさんが話しかけてきた。誰だお前!!

 と、言いたいところだけど......なーんかどこかで見た事あるようなないような......


 ......あっ!


 このおっさん、監視で見たことあるぞ!


「あ、お構いなく。俺の名前が中から聞こえてきていたから部外者じゃなさそうだし......それに、前回来た時から見張られているもんで、その事についても聞きたかったからちょうどいいかなーって」


 あ、王が目を閉じて天を仰いだ。そしてフーッと深いため息。

 俺と面識があるメンツは、空気になろうと必死に目を逸らしている。


「それで......王の威光やら、俺がこの国やアラクネを滅ぼすとかを話していた事について詳しく。あ、あんこにお願いしたいんだけど、監視を捕らえてきてくれないかな?」


「わんっ」


 可愛い。いいお返事だ。

 大きくなったあんこが走っていった。可愛い。

 あんこは賢くて偉くて可愛いのに、アラクネはダメダメだなぁ......だーれも喋ろうとしない。


「誰でもいいんだけど、じゃあ絡んできたおっさん......色々知ってそうだし、俺に教えてくれよ。もう一度さっきしていた会話をするだけの簡単なお仕事だろ?」


「あ、いや......その......」


 ......国とのお付き合いはもう止めた方がよさそう。ゴミカスとの絡みがめんどくせぇ。

 まぁ元から喋るとは思っていないから、今は別に黙秘しても構わない。


「......面と向かってだと話せないのね。じゃあ俺は居ないものとしてさっきの議論を再開してくれればいい。俺は端っこの方で待ってるから。王様、制作を頼んだ職人をここに呼んで、端っこで商品を受け取っていいよね?」


「......あ、あぁ、許可する。その者を呼んできてくれ」


 呼びに行くアラクネと入れ替わりにあんこが戻ってくる。ちゃんとお使いできて偉いねー!


 口以外を縛って端っこに転がし、ドヤ顔のあんこを褒めまくる。わしゃわしゃよしよしもふもふ......


 ふふふ......気持ちいいなぁ。





 ......さてと、品物が届くまで話し合いをしなくては。


「こんにちは。ずーっと俺を見てたけど、誰に命令されてやったのかな?」


「............」


「睨むだけじゃわからないよ。ねぇ、その依頼主と俺はどっちが怖い?」


「............」


「俺の蹂躙劇は見てなかったのかな? 話す気にならないのなら、優しくする気は失せていくよ。今のうちに喋ってしまえば幸せな方なんだけど......どうかな?」


「............」


 コイツの飼い主は調教するの上手いんだなぁ。ヘカトンくんの忠誠度をマックスまで上げてみたくなってきた。鑑定さんお願いします......どうにかしてその項目を数値化してくれ。


「じゃあこれからは言葉以外で責めていくからよろしくね」


 煩くなる事が予想されるので、口も縛ってから捻れた槍を取り出す。捕虜君の人の手の部分を床に固定して、爪に槍を突き刺す。


 合計十箇所、全てに。


 手の甲にも突き刺してから一度意思確認。


「喋る気になったかい」


「............」


「強情だなぁ......じゃあもういいや。お前はもういらないから死んでもらう。

 ここで喋っていたら、君の雇い主に対して他からの温情があったかもしれないけど、もうここからは俺が独断で動いて、全て消していくから。




......君の雇い主や取り巻きも、皆仲良く殺してあげるから安心してね」


 収納から毒蛇の針を取り出して刺す。隔離壁を展開して血が飛び散らないようには配慮。雇い主達と、取らぬ狸の皮算用をして高笑いしていたのを見てるし何も感じない。


 壁を解除すると失血死したアラクネがご降臨。場はパニックになるけど、俺に対してお前らがコソコソ企んでいるからだろうに。


「なんでそやつを殺したっっ!!」


 絡んできたおっさんがまた絡んでくるが、正直鬱陶しい。


「何故か......そんな事は、お前らはよくわかってるだろ?」


 俺がそう言い放った後に扉が開く。職人が到着するよりも早く、ピノちゃんとダイフクが帰還した。早かったねー。


 今日まで監視をして、バカのバカな行為に加担しているヤツをしっかりと確認してきた。顔はうろ覚えな奴が多いけど......

ㅤそして、この場には数人足りない。一人は王子なんだけど、王はその事をしっかり把握できているんだろうか。助かったかもしれない道筋から勝手に逸れていったんだから、俺は遠慮しないよ。



 チームホワイトから報告を聞くと、容疑者の服のポケットには漏れなく、あんピノ玉を忍び込ませてきたらしい。

 この子の企みは凄いね。俺は家とか隠し部屋を破壊する目的で渡したのに......



 うん、優秀な我が子たちのおかげで、全ての準備は終わったみたい。しっかりボイレコも回収してきたみたいだし、本当にこの子たち賢いわ。俺よりも賢いかもって思ってしまった......

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