第138話 出陣

 意識が覚醒してくると、自分の顔がモフい物で挟まれている事に気付く。

 呼吸による動きと、毛と肌の温もりを感じるので、これは俺の顔をサンドしながら添い寝してくれている状況らしい。優しい。好き。愛してる。


 このモフみは......きっとあんことツキミちゃんだろう。というかダイフクが特徴的すぎるので、すぐにわかる。実質二択の状態なクセに、解答用紙の空欄枠は何故か二個ある......こんなん誰でもわかるよね。


 うん......脳も痛みや熱さは無く、完全に冷えている。

 よし、体調バッチリだ。起き......



「........................」



 ......たくないな。

 さっきは寂しい思いをさせられてしまったから、このまま......この状態でもう少し俺を癒してほしい。欲を言えば誰かが起こしにくるまではこのままでいたい。


 飽きるなんて事や、倦怠期なんてあるはずが無いんですよ。永遠にこの子たちを愛でていられる。


「こんな時なんだから、ピノちゃんやダイフクの野郎も来てくれていてもいいのに......

 贅沢言いすぎかなぁ......いやでも、こういう時だからこそどちゃくそ甘やかしてくれたっていいじゃないか......ハッ!!」



 天啓が降りてきた。

【千里眼】と闇糸の使い方を少し理解した今だからこそできる......!


 これはもう、やれって事だろう。やってやんよ!!


【千里眼】を使用して、ピノちゃんとダイフクの現在地を確認......


 いたね。探知してもいいんだけど、オフショットが見たいから仕方ない。



【千里眼】を解除して、お次は闇糸を伸ばしてー伸ばしてー......ピノちゃんとダイフクへ貼り付ける。


 後は骨伝導や糸電話みたいに、糸に俺の音声を乗せるッッ!!

 言いたい事や言葉が伝わらなかったら、その時は大人しく闇糸を巻きつけて拉致しようと思います。


「もしもし......わたしシアンさん。今、貴方から結構離れた場所にいるの......」


 ......返事はない。

 紙コップが無いと声は届かないのかな......イケると思っていたけど、骨伝導なんて代物は無理だったのかしら......


 まだ諦めるのは早い。もう一度試してみよう。


「もしもし......わたしシアンさん。今とっても寂しいの......」


 ............。


 ダメらしい。うんともすんとも言わへん。

 闇糸の気配には気付いてくれてるはずなのに......動こうともしない。悲しい。

 ......ハハッ、急に声がしたから驚いちゃっただけかな?


「パパキトク、スグカエレ・・・シアンヨリ」





 あの子たちはパパが危篤って言っても駆けつけてくれないのねっ!

 よし、もう諦めてハイエースしよう。


 決意するや否や、ピノちゃんとダイフク体に巻き付けて、こちらへと引っ張り込む。急だけど、二個目の案が強硬策なんて事になってごめんなさい。


 急に拉致されて驚いた顔をしていたけど、抵抗は無く素直に引き込まれてくれた。

 可愛い。いつもありがとう。


 このすべすべの蛇肌も、もちもちの羽毛も大好きだ。



 しばらく家族団欒を味わっていたら、あんことツキミちゃんがお目覚め。

 かーらーのー、愛すべき我が子たちからお説教タイム。



 皆心配していたんだから、しっかり反省しろと言い放つピノちゃん。ごめんなさい。


 急に血を出してびっくりしたんだと、ツキミとダイフクが言う。今日のお風呂で羽根を綺麗にするから許してね。


 今までにない量の血の匂いを、プンプンさせて帰ってきてびっくりしたとお嬢様。わたくし、貴女の為なら血を全て失ってもいい覚悟であります。

 ......いや、うん。心配かけてごめんなさい。



 それからしっかり説明。


 視線が不快だったし、アホなヤツらが何かを企んでそうだったから【千里眼】鍛えてみようと思いつく。

 そして【千里眼】を使用しながら動けたりしないかなーって色々と試していたら、脳に負荷がかかり過ぎたのか鼻血が出ました。アホでごめんなさい......と説明。


 やれやれだぜ......って感じのチーム辛辣。何か企んでるのは確定なのかとピノちゃんに聞かれたので、確定ですと返答。

 ピノちゃんこういった悪企み系をするのが好きよねー。何かしらいい案が思いついたのか、すっごい黒い笑顔になってる。可愛い。


 次に血を出したらわたしたちが拭うからね!! ってフンスフンスしてるチーム甘えんぼ。

 ......穢れが溜まって『少女』から『女』に成長してしまいそうだからやめて。普段からスリスリしてくれていいから。血はやめましょう。


 ......なんでそんなにシューンてしてるのさ。耳もしっぽも羽角も垂れ下がってる......なんでよ、血だよ、染みになっちゃうんだよ!?


 ......わかった。もし、そんな時があればお願いします。

 言い負かされる残念なパパン。いつの世も肩身が狭いもんですね......あはは。


 いい感じに会話が落ち着いてきたので、ここら辺で強引に方向転換してやる。俺に全員が抱っこされてる状態だし、今度は俺のターンだッッ!!


「はい、これで上手く話は纏まったね。じゃあ今からお風呂行こっか。......フフフ......皆キレイにしてあげるよ。ツキミとダイフクは血が染み込んでるかもしれないから、全力で洗ってあげる」


 ビクッとしてるけどどうしたのかなー?

 赤い物はしっかり洗わないと染みになっちゃうからねー。大変だよねー。


「心配しないでもいいよ。あんことピノもしっかり洗ってあげるからね......フフフフフフ」


 思わぬ飛び火に、「エッ!?」という顔をしている。萌える。

 助かるなんて思っていたのかな......皆を平等に愛するのが、ハーレム維持の秘訣だって誰か言ってた気がする。だから遠慮なんかしないでいいんだよ。





 ――その日はぐったりしてそれどころじゃなかった従魔たち。

 緊急従魔会議が次の日、こっそり開かれた事をシアンは知らない。


 彼のモフテクは既に一流の域に達しているわけなのだが、そこに“例のアレ”が加わるのはヤバい......

 なるべくアレを使わせないようにしようと、被害者の会に似た同盟が成立したとかしないとか......




 ◇◇◇




 次の日、なんかちょっとよそよそしい雰囲気が漂っている気がしなくもない。朝飯後に皆がコソコソと俺から離れていった。



 泣きそうだった。

 戻ってきたエンジェルたちに、やりすぎたかなーとは思うけど......毛並み、肌ツヤ、美しさの全てがワンランク上がったと思わない?

 めっちゃ美人さんだよ!!

 イケメンだよ!!

 ピノちゃんはナイススネイク!!


 なんて褒めてあげたら、満更でもなさそうにしたんだけど、すぐに我に返り、再びちょっと隙間があく。

 もういい加減慣れてください。ほんとまじで。





 そこから時は経ち、とうとうジュエリー受け取りの日がやってきた。

 お留守番のメイドちゃんとヘカトンくんはいつも通りよろしくね。



 情報収集っていうか......監視はしっかり行い、何かを企んでいるヤツらのツラはしっかり把握してある。


 作戦はこうなっている。

 あっちに着いたと同時に、チーム辛辣はボイレコの回収に向かう。

 場所は俺の魔力を辿れば行けるらしいので任せる。幻影やらなにやらでなんとかなるから任せろと、頼もしいチーム辛辣。ちなみに、あんピノ爆弾(極小)を持たせている。

 あの子たちの直感やセンサーに反応するようなイラッとした場所......とかに置いてきてもらう。俺の意思は介入していない。

 最近辛辣さが減ったから、チームホワイトにでも改名しようかなと思っている。


 チーム甘えんぼは護衛。

『今日はずっと離れないからね!!』と意気込むお嬢様とツキミちゃん。今日だけじゃなく、ずっと離れないでいていいからね。ずっとだよ!!




 はい。では行きましょうか。

 あの戦争から一ヶ月以上経っているのに、ゴミクズの処理をしっかり出来ていない王様。

 代償は支払ってもらいます。あの魔道具を預けてあるのに......ヘタレめ。

 平和ボケしすぎなんだよ。非情さも、危機管理能力も、決断力も足りていない。


 俺の戦闘力をアテにしてる状態を続けられるのは気に食わないからね。今回は少々痛い目に遭ってもらうよ。

 やる気まんまんのエンジェルたちもいるから、まぁ頑張ってくれ。


 そして石に魔力を込め、アラクネ国へとワープした。

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