第136話 不穏な王城
午前中はゆったりまったり過ごし、メイドちゃんには妊娠牛のお世話をしてもらった。
午後は遊び倒した。キャッチボール、鬼ごっこ、あんこ、ピノ、ツキミ、ダイフク、メイドちゃんVS俺での
アホほど肉を食べたカロリーは、これで大半は消費されたと思う。多分。
そしてその日の夜、後は寝るだけって状態になったあとメイドちゃんとお話。
「アラクネという種族を辞める覚悟はある?」
......こう聞いてみた。ド直球、遊び球無し。
いつものメンツはケルベロスみたいに、三人でワンセットって印象になっている。よく考えた結果、王女って立場だから実験に巻き込むのとかは厳しいと結論が出た。今みたいな関係を保つ方が色々と都合がいい。
それに比べてこの子は普通にいい子だし、俺の専属という立場。関わる機会が一番多い。
ウチの子たちからの印象も全然悪くない......むしろ好意的だし、ヘカトンくんともいい関係を築けているから。
......うーむ。一度整理してみよう。
・専属という立場から異動とかされるのは困る
・知らないヤツと一から関係を構築とかめんどくさい
・アラクネの国とは友好的に行くスタイルは崩したくない
・この子がいればむっつりなダイフクも嬉しいと思う
・もし俺が何もかも嫌になって逃げ出したとしても、一人で生きていけるくらいにはしてあげたい
・いつものメンツより気が楽
......うん、やっぱりアラクネやめてもらいたい。
さぁ返答はどうでしょうか。
「あの......アラクネをやめるってどう言う事でしょうか?」
「進化してアラクネの上位種族or特殊個体になってほしいって意味。君が一生懸命やってくれてるのを高く評価している。なので、このままずっと俺らの専属でいてほしい。仕事は仕事できっちりしてくれれば、恋愛とか結婚とかは自由にしてくれていいから」
「え、あ......はい。でも、進化ってどうすればいいのでしょうか」
メイドちゃんの前に45個きっちり例のアレを置く。ぎこちない動きと、不安そうな目ででこちらを見てくるメイドちゃん。
そんな目で見ないでほしい......ゾクゾクしちゃうじゃないか......
「ヘカトンくんは約40個食べて進化して、牛は約50個食べて進化......ここまで言えば何となくわかるよね?」
「えっ......あっ......はい。で、でも......あの......」
「このままだと君が......牛に殺られちゃう可能性が高いと思うんだ。俺がここを留守にする事も少なからずあるし、安心して出掛けられるように強くなってほしいんだよ。
それと、結構機密事項っていうかヤバい情報を握っている自覚を持ってね。君が攫われてこの拠点の情報が漏れたり、ここで知り得た情報が漏れたらヤバい事になっちゃうと思うんだよ......特に俺が。世界滅亡のきっかけになりたくないなら、諦めてそれを食べてほしい」
マッシュしたポテトに衣を付けて揚げたアレみたいな名前の芸人みたいにコロコロ表情を変えるメイドちゃん。
直接俺の力を見ていないアホな国の権力者は、俺の情報を知れば血眼で探しに来ると思うの。ちょっとこの前派手に動いちゃったし、噂になる程度は覚悟している。
「あのー......それは、今後も私を専属として雇ってくれるって事でよろしいでしょうか?」
決意したといった感じの表情で俺に確認をするメイドちゃん。
「(本当に進化するのかの実験的な部分も大いに含んでいるけど......)そう思ってくれて問題ないよ。いや、違うな。これからも専属として働いてほしい」
都合の悪い部分は大人の事情によりカット。こちらを裏切る心配はあんまりしていないけど、可能性は極力低くしておくに越したことはない。
「わかりました。私、頑張りますっっ!!」
おっしゃ!!
「これからもよろしく頼むよ。ちょっと無理させると思うけど、二週間を目安に食べきってほしい。口直し用の甘いものも一緒に用意しておくから頑張ってね」
自前の収納袋に劇物をしまって行くメイドちゃん。そしておやつを出していく俺。その時間を使い、ウチの子たちの意思確認を。
「はーい皆おいでー。明日はアラクネ国に行くけど、一緒に来たい子と、お留守番したい子がいると思う。それでどっちがいいか選んでほしい」
そう言うと鳥ちゃんズが行くとお気持ちを表明し、あんことピノちゃんはお留守番を選んだ。寂しい......
「というわけで明日はアラクネの国に行ってくるから、この子たちと一緒にお留守番よろしく頼むね。じゃあ今日はお疲れ様」
正式に住み込みで採用するかはまた別の話。俺がそう思えるようになったら伝えよう。
おやすみなさい。
◇◇◇
翌日、一通り見回りをしてみて、牛やヘカトンくんに問題がない事を確認。メイドちゃんとお留守番のあんことピノちゃんに別れを告げて出発。
一瞬で到着。最近バラエティでジャンプして場所が切り替わるアレやらなくなったよね。
到着した俺は迎えに来てくれたメイドさんに連れられ、ジュエリー職人の元へ案内してもらった。
頼んでおいたおかげで、スンナリ事が進む......素晴らしい。多分マイナスされてしまった評価を、再度上げようと必死なんだろうけど。
ダイフクはメイドたちと一緒に居たがるかと思っていたけど、俺の右肩に乗って退屈であろう打ち合わせに付き合ってくれていた。ツキミちゃんは左肩に。
一緒に居てくれて嬉しいよ......でも無理してない?
そっか、無理してないならいい。ありがと。
◇◇◇
白熱した打ち合わせは、二時間以上かかった。
俺用のアクセに十分。
あんこ、ピノちゃん、ツキミ、ダイフクで百分。
メイドちゃん、ヘカトンくんで十分。
いやぁ......とてもいい話し合いが出来たよ。余は満足じゃ!
内容は内緒。
ツキミとダイフクに厳重な口止めをしたのは言うまでもない。サプライズすんねん。
ジュエリー職人に鉱石や宝石を渡し、変な気は起こすなよと釘を刺しておく。
ダイフクの能力を説明。いつ何時、何処にいてもお前らを監視&抹殺できると脅した。
いくら王家の紹介でも、大事な素材を預けるにあたり、初対面の奴を100%信頼するなんて無理だ。やりすぎとは思わない。
何故こんな事をしたかというと、監視してきているヤツがいる。城に来てからずっと監視されてる。
今日俺が来ると情報を伝えたのが王女、それを聞けるヤツ......なんて時点で、王族の中に何かしら企んでるヤツがいるのは確定。まぁ前回の帰り際に睨んできた王子だろうけど。
王族に命令されたら逆らえないだろうけど、いつでも消す事が可能だと脅されたコイツがどんな行動に出るか少し楽しみ。
ダイフクもその事に気付いてたから残ってくれていたのかな?
めんどくせぇけど、手を出してきたら遠慮なく潰す。
別れ際ジュエリー職人のポケットに、こっそり小型のボイレコを喚び出して忍ばせておいた。
こっちに来た時に視線が不快だったから、幻影でカモフラージュしながらこっそり召喚。魔力がある限り録音し続ける小型のボイレコ。強度も高い。
アラクネ達程度では絶対に壊せない強度になっているだろうし、捨てるか放置するしかない。それを後で回収すれば証拠ゲット。
勝手に楽しんでくれたまえ。お代は生命払いのみとなっとりますが......ハハッ。
絶対に紛失しないように、そして絶対に見失うなよ。と、王女に忠告しておく。ただのポンコツじゃないって証明してくれ。
どっかに運ばれでもした場合に探すのが面倒だから、行方だけはしっかり掴んでおいてね。
はぁ......アラクネの国、だいぶ面倒だなぁ。これからこういった交渉事は全てメイドちゃんに頼もっか......
ますます手放せなくなっちゃったやんけ。
観光する予定だったけどその時間を減らして、しばらく両肩に乗っているモコモコな鳥ちゃんズに癒してもらおう。
一緒に居てくれたお礼のソーセージだよ。ほら食べなさい。
手に乗せたソーセージを啄む姿に癒される。
「これからもよろしく頼むよ。ありがと」
任せろっ! って感じに翼を広げるツキミちゃんと、ホーと一言のダイフクが可愛くて、ついついソーセージをいっぱいあげてしまった。
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