第130話 ハイスペック用心棒

 ここを拠点にすると決めてから色々ありすぎたので、柵を既に作っていた事が頭からすっぽり抜け落ちていたわ。

 一から作らなきゃなと思っていたものが、ほぼ完成していたのは大きい。助かった。



 柵の強度だけをガッツリ調整。

 その後、牛の寝床作りに取り掛かろうとするも、どんな作り方をすればいいのかわからずに現時点では建てるのを断念。


 牛放牧地のど真ん中にコンテナを運んでから、扉を開けてから牛の解放に取り掛かる。

 足を縛っている糸を解いて自由にしてあげた。睨み付けてくる牛肉......警戒心MAXなのはいい事だよ。


 うん、その方が情が湧かなくていい。


 コンテナから逃げるように出ていく牛共。それを見送ってからコンテナの中を改装。

 まぁ召喚した大量の藁を敷き詰めるだけなんだけど。



 飼育環境の整備、後はトイレと水場かな?

 水場とかは魔法で一気に作れるから後回し。


 牛の餌は、前々から画策していた事を実行するだけ。そう、あの劇物を与える。

 不味かろうが嫌がろうが......口に詰め込んででも食わせる。これは決定事項。


 貧弱で軟弱な日本人だった俺ですら数ヶ月食い続けたんだから、君たちもきっとできる。

 味にさえ目を瞑れば、完全栄養食であり、魔力も増える禁断の果実。是非とも栄養と魔力をたっぷり含んだ美味しいお肉になってくれ......


 ちなみにあの憎き軟体生物の時のように、魔力を含ませた水を与えて魔力増幅なんて軟弱な事をする気はない。

 あんな物より実を摂取した方が効率が断然いいし、健康管理にもなる。



 藁の敷き詰めが終わり外に出ると、牛が柵に体当たりしていた。逃げようとでも思っているのかね......


 糸で補強しているし、高さもそれなりだから逃げるのは無理だよ。でもそういう行為はダメだね。何かしらのペナルティは必要だ。



 ......おっ!


 ボディガード兼管理人として、最高のアイテムがあったじゃないか。

 見た目以外は完璧なアイツに、この牛共のエリア管理を頼もう。



 収納から取り出して、ヘカトンケイルミニに魔力を流して起動する。

 こいつ、細かい命令とか受け付けたりしてくれるのかな?


「この柵の内側に侵入するモノは遠慮なく叩きのめせ。俺と俺の家族以外は何人たりとも侵入させるな。

 この柵から逃げ出そうとした牛には、絶対に逃げられないぞと刷り込め。出来るか?」


 沢山ある腕が一斉に敬礼した。案外知性あるし、愛嬌あるのねコイツ。


 ただなぁ......見た目だけ......見た目だけどうにかなんねぇかなぁ......

 魔力充電はここに来る度に分け与えればいいだろう。





 ............


 ........................ッッ!?



 そういえばこいつ......口あるよな?


 口がある=物を食べられる。

 物が食べられる=劇物を摂取可能。


 閃いたッッ! あったまいい~!


「なぁ、お前って食事する事は可能か?」


 俺の問いかけにコクンと頷くヘカトンくん。

 ステップ1は突破、続いてステップ2。収納から実を取り出して目の前に置く。


「コレを食えば魔力が増える。お前の味覚がどうなっているのかはわからないけど、クッソ不味い。それでも食べてみるか?」


 意思があり、食事をするドロップアイテム。ファンタジーを体現している存在だなぁ......


 クッソ不味いの部分で躊躇いを見せたヘカトンくんだったけど、食べる事を決意したようで劇物に手を伸ばした。強制はしていないのに偉いわぁ。


 どの口が食べるのかを脳内会議しているんだろうけど、ホッとした顔をするモノ、青くなるモノ、喜ぶモノ......色々な顔があってなかなかコミカル。


 どうやら哀れな犠牲者が選出されたようで、一つの顔が絶望している。南無南無......


 沢山ある腕がソイツの顔を固定し、劇物を手に持って口まで運んでいく......

 おいやめろ。そんな捨てられた子犬のような目で俺を見んな。




 ◇◇◇




 五十ある顔の内の一つがお逝きになった。ステップ2終了。


 残りの四十九の顔があからさまに「助かった!!」ってなっている状況を見て、ここの警備をするのなら十の顔が残っていれば余裕だよね......と考える。


 多分黒い笑顔を浮かべていたんだろう。俺の顔を見てビクッとしたヘカトンくん。

 そんな態度されると傷付いちゃう。あー悲しいなー。


 三十九の劇物をヘカトンくんの目の前に置いた。はい、これからステップ3です。


「不味いものㅤみんなで食べればㅤ怖くない」


 ............縋るような目で見ないでおくれ。


「遠慮することはないよ。お食べなさい。警備するだけだから十も残っていれば平気でしょ」


 ......おい、ドロップアイテムが涙を見せるなァァァ!!


「君らには最高の用心棒になって欲しいんだよ。だから頑張れ! ヤればデキる!」


 諦めたように俯くヘカトンくん。多分今、脳内でバトルロイヤルが開催されているんだろう。


 がんばえー。


 こーして俺は、用心棒の強化を楽しんだ。




 ◇◇◇




 ヘカトンくんが劇物をしっかり食べ切るのを見届ける。

 五十ある内の四十の顔が死んでいるのを見るのは壮観だった。


「よく頑張ったね。あ、無事な顔達は安心している所悪いんだけど......他の顔が回復したら今無事な顔にも食べてもらうから。仲間はずれ良くない」


 起動してからそんなに時間は経っていないのに、随分表情豊かになったね。最終ステップ、誰も助からないんだよ。

 あの劇物を四十食べ、後に計五十個も食べるコイツ......売るとしたら幾らくらいになるんだろうね。ハハッ。

 君らはもう、生き物と言っても差し支えないよ。


 ただ可愛さが圧倒的に足りてないから、情に訴える方法は逆効果だ。

ㅤ追加の果物を十個置き、回復したら食ってないヤツに食わせてねと言付けを残した。死んだ目をしているけど意識はあるみたいで頷いてくれた。


 じゃあお仕事頼むよ。帰り際にヘカトンくんの鑑定結果を見た後に、ソッ閉じ。実を食っただけでハイスペックになりすぎだろうお前......



▼ヘカトンジェイラー

 テリトリー内に許可されていないモノが侵入てきた場合には、相手が死亡するまで絶対に攻撃を止めず、テリトリー内の者は決して逃がさない

 アイテム扱いだったが、大量の魔力と知性を得て新種の生命体に進化した

 肥大化もできる▼


ㅤまた俺はやらかしたみたいだ。あの劇物はマジで何やねん......




 ◇◇◇




 拠点まで戻ると可愛さで天下統一できると思わせられる程のプリティな子どもたちがお出迎えしてくれる。


 牛、それと不気味な生き物と長い時間接していたから余計にそう感じる。


 ベッドに寝転がりながら触れ合っていると眠気が全力を出して襲ってくる。

 まだ寝るのは勿体ない......今日という日、この瞬間のウチの子たちとの触れ合いは一期一モフなんだ。寝るのはまだ早い......


 まだ癒しが足りん......


 この程度の徹夜如きで眠くなるとは貧弱極まりないッ!

 寝ていない時間が二十四時間を超えてからが本番と言っても過言ではない生活をしていたのに......


 ブレーカーが落ちるまでは沢山モフろう。撫でよう。スキンシップしよう。


 さぁ君たち......撃沈する覚悟ができた者からかかって来なさい。俺は逃げも隠れもしないぞ。


 俺様の指技に酔いな!


 この後無惨な姿を晒す羽目になる哀れな子羊ちゃんが四匹、一斉に襲いかかってきた。


 先ずは一番厄介になるであろう、子羊ちゃん一号のピノちゃんに狙いを定める。


 俺の狙いを読んでいたのか、子羊の皮を被っていたあんこが、子羊の皮を脱ぎ捨てる......

 身体を大きくして俺の視界を遮り、ピノちゃんの姿を隠す。


 付き合いが長いだけあって狙いを読まれてしまった事を悔やみ、意識を即座に切り替えてお嬢様にタゲを移す。


 自己犠牲の精神は素晴らしいが、身体を大きくしたのは悪手だったな!!



 ――お嬢様に魔の手が届こうとした瞬間、左手にピノちゃんが噛みつき、右手にツキミがくちばしを突き刺す。

 作戦会議をする暇など与えていなかったのに、息のあった素晴らしい連携を魅せられて、驚きから一瞬動きが止まる。

 その一瞬の隙を逃さず、今まで気配を殺していたダイフクが飛び出し、俺の喉仏に会心の一撃を喰らわせた――



 ここから逆転する手などある筈もなく、その後はイタズラっ子たちのオモチャとしての責務を全うし、最後には皆を強引に抱きしめてから目を閉じる。


 大袈裟に語ったけど、これはお遊びの延長だ。一つだけ言うとしたら最高の時間だった......と。

 これしか言えないよね。


 これならいい夢が見れそうだ。おやすみなさい。

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