第129話 牛を求めて......3
本日で捜索も三日目、今日頑張ればこの近辺全ての調査が完了する。これで見つからなかった場合には、泊まりがけで遠征しなくてはならなくなる。
出来れば今日見つかってほしいけど、まぁそこら辺は牛次第なので諦めよう。
さて、今日のお供はピノちゃんだけになった。この子が立候補してくれるとは思わずびっくり、でもこの子が単体で来てくれるのは中々無いので嬉しく思った。
「今日もお留守番お願いね。行ってきます」
行ってらっしゃいと送り出してもらうのは嬉しい。君たちの為にお父さんは頑張ってくるからね!!
◇◇◇
意気揚々と出勤し、サクサク進んでいく。
十三箇所目、ハズレ。
十四箇所目、ハズレ。
十五箇所目、ハズレ。
残すは拠点から北~西のエリアのみとなる。探索ポイントは後五箇所。
逆時計周りで進んでいれば初日に見つける事が出来たエリアということもあり、今の俺は悲しい気持ちになっている。
でもこういうのって時計回りに回りたくなるのが人の性だろうし、あんこの決定にケチはつけられない。全ては俺が悪い。
そんな俺らは、現在早めの昼食タイム。次の場所が少し離れていて、そちらへ到着する頃には昼を過ぎそうだからという理由から。
ご飯を食べながらだけど、ピノちゃんが俺を慰めてくれているので、この珍しい出来事を満喫しようと心に決める。
「優しいピノちゃん大好きだよ。いつもありがと。この探索が一段落したら一緒にご飯作ろうねー」
俺がそう言うと、約束だよ! と返事があった。
俺も楽しめるから約束を破るわけないじゃない。ふふふ......ピノちゃんと一緒に何作ろうかな。
でももう少し慰めていてほしい。幸せな時間は少しでも長く味わっていたいんです。
よし、元気でた。残りもサクサク調べていこう。
俺のわがままで十五分ほど余分な時間を使ってしまったからね。
◇◇◇
十六箇所目はハズレで、いよいよ後が無くなってきた感じもしていたけど、十七箇所目に向かっている最中にピノちゃんのテンションが上がってきた。
ま、まさか......次が当たりなのか!?
「ピノちゃん......ど、どうしてテンション上がってるのかな?」
クールに聞いたつもりだったけど、ソワソワしてしまってダメだったみたい。
なにかはよくわからないけど、いい獲物がいそうな気配がする......らしい。
だいぶ野性味が失われていると思っていたけど、ちゃんと野性は残っていたピノちゃん。
もうこれは確定だろう。この子たちの勘はバカにできない。
もし本命である牛と違っていたとしても、次の場所に居るのは美味しい獲物で間違いない。
「ありがとうピノちゃん。ずっと見つからなくて心が折れそうだったけど、次が本命っぽいね......美味しいお肉に仕上げる予定だから、完成したら皆で食べようね!」
気合いの入った俺は目的地まで急ぐ。
逸る気持ちが抑えられない......くっ、疼いてきやがった......鎮まれッ俺の欲望ッ......!
五分程度でポイントに到着。
盆地みたいになっているエリアには、角が立派な牛の群れが居た。
違う牛ではありませんように......鑑定さん頼んます!
▼ミートブル
食事で魔力を蓄えながら成長していく魔牛
どこを食べても美味しく、内包する魔力が多いほど肉質があがる
内包している魔力量は角を見れば判別可能▼
解析でましたっ! パターン牛......肉ですッッ!!
欲望全開になっている俺の顔を見たんだろう。ピノちゃんも、初めてのピノ玉を出した時のように悪どい笑みを浮かべていた。
もうね、小躍りしたい程テンションが上がっていますよ。
......これからコイツらを捕獲して牛の畜産に入るわけだけど、絶対にしてはいけない注意点がある。
コイツらに情を移してはいけない。
食肉の加工をしている......そう思わないとダメだ。
今まで見てきた俺らとは絶妙に相容れない生物と違って、コイツらは角が立派なだけで普通すぎる。
・テイムはしない
・情を移さない
・ちょっと動いちゃってる牛肉と思え
・なるべくウチの子たちにはお世話させない
これを胸に刻む。
いくら俺が無情になっても、あんこたちが懐いたら食えなくなるから、お世話するのは俺だけでいい。
ウチの子たちは結構ドライな面があるから大丈夫だとは思うけど、一応不安の芽は摘んでおく。
「俺が気絶させていくから、ピノちゃんは逃げそうなヤツを逃がさないように対処しておいてほしい。
余裕があったら糸で足を縛っていってほしいんだけど......イケそう?」
ノータイムで頷いてくれたので、大まかな作戦はこれで確定。この子の事だから不測の事態が起きても、その都度臨機応変に対応してくれるだろう。
これより【肉牛の捕獲】クエストを開始する。
「ヒャッハーここは通さねぇぜー!!
お肉を収穫だぁぁぁぁぁ!!」
気分は棘の生えたモヒカン。火炎放射器はないけど、手から糸を放射する事はできる。
糸で足を縛ったり、首トンしたり、首をキュッてしたり......気絶させたり転がしたりしていく。
牛にも首トンって効くんだね。人間相手だと危険な行為らしい。気絶しないらしいし。
リアルだとフィクションだとしても、効果あるならそれでいい。
牛は四方に散らばって逃げようとしている。そこそこ賢いなオイ!
俺から離れている位置の逃げ出そうとしてる牛の足を、ピノちゃんは楽しそうに糸で足を縛っていっている。頼もしいわぁ。
お、糸で足を引っ掛けて転がしてる......
頭いいなぁ......なぜこんな簡単な事を、俺は思いつく事ができなかったのか......
こっちは早めに終わらせて応援に向かわなきゃな。
◇◇◇
十分程度で全ての牛を捕獲できた。今日のMVPはピノちゃんで決定。
「ピノちゃんのおかげでとても楽に事が済んだよ。ありがとー!!」
手を翳すと、ハイタッチ風に尻尾を俺の手に当ててきたピノちゃんが可愛い。やり切った感がすげぇ出てる。
......さて。
「予想よりも牛がいっぱい居たなぁ......どうしよう......」
悩んだ末に大型トラックを、物が沢山積めるように願いながら召喚。
魔力をごっそり持っていかれたが、俺の望み通りのトラックが魔力通販で届けられた。
空間拡張の付いているコンテナを装備した大型のトラック。
大型を運転した事ないから運転はやめておく。どのみちこの悪路では無理だろうし。
牛を全てコンテナに積み込み、扉を閉める。
試しに収納しようと試みるも、生物入りはやはり収納できず。
寄生虫とか居るのも収納できないのかな?
......わからん。入れられた物には寄生生物はいないと思っておいた方が気が楽だ。細けぇことは気にしたら負けだって思おう。
トラック部分からコンテナを切り離してトラックは収納。
コンテナを担いで拠点へと向かって歩き出した。
俺があまり早く進めないので、ピノちゃんは俺の前を歩いて先導してくれる。
蔦や枝、薮などを取り除いて進みやすくしてくれる優しさに全俺が泣いた。
いつもは素っ気ないクセに、内面は気配りも出来る優しくて可愛い子。萌えるわ。
ピノちゃんの優しさに感動しながら、聖帝〇字陵の天辺部分を運ぶあの人のように、コンテナを担いで拠点に向かって運んでいった。
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
◇◇◇ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
コンテナの中で牛が酔ってリバースしないよう、慎重に慎重を重ねて運び、ようやく拠点に着く頃には周囲は真っ暗になっていた。
「遅くなっちゃってごめんね......ただいま!」
拠点から離れた位置にコンテナを下ろし、愛しの我が子たちの元へ向かう。
遅くなった事を咎めず、暖かく迎えてくれた可愛い子どもたちに癒される。ピノちゃんには全力で感謝の気持ちを伝えた。
ご飯をあげて一通り撫で回してから、牛のハウス作りに取り掛かる。
今夜は徹夜になる事は確定。だが、これも必要経費なので割り切る。
美味い肉で焼肉パーティーをする為なら、俺はいくらでも頑張れる。
まずは柵からだ......やってやんぞ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます