第131話 牛+‪α‬観察日記・上

 なんとあれから、一度も目が覚める事なく朝を迎えてしまった。寝続けたおかげで体はとてもスッキリしていた。


 起こしてくれてもいいのにと思ったけど、そんな考えはすぐ吹き飛ぶ。

 きっと気を使ってくれたんだろうってのがわかったのと、皆大人しく添い寝していてくれた事を嬉しく思う。


 これが伝説の朝チュンか......最高だぜ!


 この子たちが自然に目を覚ますまで大人しくしていよう。

 くりんくりんのおめめもキュートだけど、目を閉じているお顔もソーキュート。


 鳥ちゃんズは夜行性ではないのだろうか。無理してこちらと行動を合わせようとしてくれている感じはしないけど、気になるから起きたら聞こう。



 慈しむように撫で続ける事三十分......よく眠っていたお嬢様が一足早くお目覚め。

 起きたら撫でられていた事が嬉しかったらしく、寝惚けたまま頭を手に押し付けてくる。

 キスをしたり、ハグをしたり、スキンシップをしたり、愛を囁いたり......付き合いたてのバカップルのような事をしながら、他の子が起きるのを待っていた。


 もう旅をする必要無い気がする。この子たちがもっと気に入る場所を求めるなら、いくらでも探すけど......どうだろ?

 とりあえず当初の予定通り一冬過ごしてから考えようか。


「よーしよしよしよし......」


 憑依〇体ム〇ゴロウ。

 異世界でシャーマン修行を始めました。


 鳥ちゃんズは身を隠しやすい夜に行動をしているだけで、特に夜行性という訳ではないらしかった。




 ◇◇◇




 続々と起きてくるマイエンジェルたちとスキンシップを、些か過剰とも思える量をこなしてから朝食をとる。


 可愛い子が嬉しそうにご飯を食べている姿はいつ見てもいいものだ。

 ダイエットなんていらん。

 少食アピールなんてもっといらん。


 昔なんかのCMでやっていたけど、「いっぱい食べる君が好き」ってやつ。本当にその通りだと思う。

 スタイルの良さよりも、触り心地の良さを重視している......ちょっとムチってる方がいいと思うんだよ。

 人も、動物も。うん。


 好みや自分の理想は人それぞれだからとやかく言うのは違うんだろうけど、無理して痩せる必要なんてないのに。勿体ないよなぁ。


 ムッチムチになったあんこや鳥ちゃんズは絶対に可愛いと思う。

 ヘビはムチってしまったら色々心配になると思うけど、ピノちゃんはなんか太らなそうだし、そこら辺の管理はしっかりとやるだろう。


 ガッツリ朝食を食べた後は自由時間。お出かけするのも許可してるけど、ソロで行くのは止めてねと一言添える。

 じゃあパパはこれからしばらく畜産家にジョブチェンジするから、お留守番よろしくね。


 可愛い子どもたちに見送られて出勤。行ってきます!




 放牧地へ着くと、目が死んでいるヘカトンくんがお出迎えしてくれた。ちゃんと言い付け通り全員仲良く犠牲者になったようだ。


「おはよ。あれから牛は脱走しようとした?」


 一度頷いてからVサインをするヘカトンくん。

 ......牛の脱走を阻止してやったぜって事なのか、牛が二回脱走を試みていたのか。

 ......うん、どっちかわからん。けど、しっかり仕事してくれたヘカトンくんにはご褒美をあげないと。


「よくやってくれたね、ありがとう。そんなヘカトンくんたちにはご褒美をあげるよ」


 ご褒美と聞いて一気に目に光が戻ってきたヘカトンくん。

 こうも露骨に喜ばれると一度落としたくなるよね。


「これを食べて、これからもしっかり働いてね」


 劇物を取り出し、それを手渡そうとすると一気に目から光が消えた。五十もある顔なのに全て同じ表情。


「冗談だよ、はいコレ。みんなで仲良く分けて食べるんだよ」


 あげたのはサク〇ドロップス。ヘカトンくんの口にちょうどいいサイズなので。

 胃はどうなってるんだろうね......あの劇物を五十も腹に納めるなんてすごい。


 これからこのプリズンファームの看守兼用心棒として頑張ってくれたまえ。





 ◇◆◇




 ☆Day1


 寝床はコンテナと、囚牛はちゃんと認識していたので、明るくなったら中からゾロゾロと外へ出てきた。

 寝床の横、少し離れた場所に穴を開けて、そこに藁をぶん投げていく。排泄はここにするようにと説明。

 ここ以外で垂れ流したらヘカトンくんによる躾が待っていますと言うと、牛が頷く......ちゃんと理解したらしい。話が早くて助かる。


 餌は劇物で固定。その他には草とか食べてもいいけど、一日一個食べないとペナルティ有り。

 どうしても嫌になり、ここから逃げ出したいと思ったら俺に挑んでこい。代表牛でもグループでも。

 ここにいて逃げ出そうとしない限り、しっかり守ってやる。


 そう説明した。


 ある程度強くなったと思えば挑んでくるだろうし、きっと強くなるまでは我慢しながら魔力を蓄えてくれる。


 何日目に挑んできたかで、牛が強さに自信を持ち始める大体の魔力量と、その肉質のチェックが同時に出来る。

 挑んできたヤツは当然殺る。


 さぁ楽しくなってきたぞ。


 ヘカトンくんはとても張り切っている。

 一顔に二粒ずつ渡るように渡した飴はもう食べちゃったみたいで、またご褒美を貰えるように! だってさ。



 ☆Day2


 牛は今のところは模範牛。

 コソッと確認してみたけど、ボスらしき牛が自らの子を庇って実を我慢して食べていた。

 劇物を食べさせない気遣い、それと魔力が上がるのを確認した為の行動と思われる。

(魔)力を貯めて支配から脱しようと思っているらしいので見なかった事にしてあげる。

 初日はコンテナの藁の中に排泄していたみたいだったけど、二日目からはしっかりトイレでしたいた模様。


 ご褒美として水場を作成した。



 ヘカトンくんの攻撃方法をチェック。

 石を手元に生み出して投擲するのと、ヘカトンパンチ。それと肥大化。


 ロマン技として肥大化したヘカトンくんに、大岩を上空にぶん投げる技を伝授。

 合計百個の大岩が上空から降り注ぐ......いいよね。【流星群】と命名すると、ヘカトンくんは歓喜していた。




 ☆Day3


 ボス牛の行動を真似てオスの親牛が我が子の分を食べている。

 仔牛は牧草を食べて過ごしていた。


 初日に比べるとボス牛の角が少し立派になっていた。

 牛角って単語が思い浮かび焼肉が食べたくなったので、その日はこの前解体した肉で焼肉をした。


 ピノちゃんと一緒に調理を楽しんだ。幸せ。


 食後にヘカトンくんに焼肉のお裾分け。

 ご飯を食べる必要は無いらしいけど、飴と鞭ならぬ、飴と劇物を与えた所為で食に興味が出たらしい。


 頑張るからまた飴をくれと、ボディランゲージで必死に伝えてきた。何かしらの意思疎通の手段が欲しいかも。




 ☆Day4


 ボス牛の目に火が灯っている。まだ早いから挑もうとしてこないで。

 ......もうしばらく美味しさ......いや、魔力を溜め込んでからにしてくれ。


 ここまでずっと我慢してきたんだから、完璧に仕上がったと思ってから挑んできてね。フフフフフ......



 仔牛から円な瞳で見つめられた。やめろ、そんな瞳で俺を見るんじゃないっ!!


 モヤモヤした気持ちのままヘカトンくんを観察してたら気持ちがリセットされた。ありがとう。

 サクマ〇ロップスを追加してあげたら喜んでいた。


 意思疎通を円滑にする為に、バラエティでよく見るような表と裏に○と×が描かれたアレを渡す。


 ソレを渡されて嬉しそうにクルクルと回しながら、俺の言う事に頷いていた。そういう時に○を示せばいいんだよと教えると、サムズアップするように○を向けてきた。


 見た目と行動のギャップがエグい!!

 ま、まぁこれからも頼むよヘカトンくん。




 ☆Day5


 牛がぶつかり稽古みたいのをしている。

 牛にも属性があるらしく、ボス牛は雷を角に纏っている。

 一緒に稽古しているのはナンバーツーなんだろうか、角に炎を灯しながらボス牛と渡り合っていた。


 ズキューンとはしないけど、ヒ〇カの気持ちが少しわかったかもしれない......

 早く仕上がって挑んできてほしい。



 俺の質問に○×で返答できるようになり、比較的こちらが知りたい事は楽に知れるようになった。

 しかし、ヘカトンくんの伝えたい事はやはり必死のボディランゲージ。


 考えた結果、ホワイトボードとペンを与えた。文字はおいおい教えていこう。

 なんか書いてみなと言ってみたところ、サクマド〇ップスの缶を描いた。


 なんとなく微笑ましかったので、取り出して与えた。喜んでいたのでこれでよかったと思っておこう。


 ......うん。



 拠点へ帰ろう。あんこたちに会いたい。

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