第126話 牛を求めて......1

 今日からは本格的に肉探し。


 参加するしないは個人の判断にお任せする。ずっとわちゃわちゃしてたし、来たい子だけ来てくれればいい。最悪ソロでも......寂しいけど。


「はーい注目ぅ。牛探しに参加したい子はなんかアクションを起こしてね。参加は強制じゃないから、不参加の子は自由にしてていいよ」


「きゃんっ!」


 可愛い鳴き声と共に、プリティなあんよが挙がった。ピンク色でぷにすべの肉球が丸見えです。触りたい欲求に駆られる......とっても気持ちよさそう。


 という事で記念すべき初日は、あんこが参加する事となりました。欲求に負けて話し合いが中断という事態は免れた。

 他の子たちはゆっくりしたいらしいので、本日は自由行動。

 骨喰さんは、魔物避けをこっそり出しそうなので車の中でお留守番。王都で買った刀を飾る台座へ乗せた。


「今更俺が心配する事でもないだろうけど、危ない事はなるべくしないでね。時間がかかるかもしれないから、ご飯は多目に用意していくから後はよろしく。

 じゃあお留守番頼むねー。行ってきます」


 あんこを抱っこして出発。久しぶりの完全なる二人きりが嬉しいらしく、お嬢様のしっぽがいつもより振れている。


 小さくない生体反応が固まっている所に片っ端から赴いて確認していくローラー作戦になる。ラブラブデート、時々牛探しに出発ですよ!!




 ◇◇◇




 一箇所目、拠点から南。

 結構離れた位置にあるが、ここが拠点から一番近かったので、始めはそこへ狙いを定めて向かっていく。


 思ったよりも緩やかな道なのでお嬢様を下ろして一緒に走って進んだ。


 大型犬サイズになったお嬢様が楽しそうに、そしてかなりの早さで走っていく。

 俺があんこを追いかけたり、あんこに追いかけられたり、競走したりと楽しみながら進んでいたらいつの間にか着いていた。楽しい時間は過ぎるのが早い。


「うわぁ......」


 ............そこに居たのは目的の牛ではなかった。

 なんかよくわからんムッキムキの豚。


 ▼サイドチェス豚

 肉体改造が趣味の豚

 肉質はカチカチで食えたもんじゃない▼


 ......次行こうか。なんかここら一帯ムワッとしていて湿度が高い気がする。あんこもなんとも言えない表情。

 主食は鶏ササミとプロテインって言いそうな豚さんグッバイ。




 ◇◇◇




 二箇所目、筋肉豚の巣から更に南へと進んでいく。

 あんこはあの豚が生理的に無理だったみたいで、あれからずっと抱っこされている。可愛くて癒されるから、ずっとそのままでいてくれても問題は無い。


 ゴツゴツした岩場が多くなってきていたけど、もう慣れたもんで苦もなく進めた。

 そして現場に到着。到着したんだけど......うん。



 ............一応見た目は牛。そう、一応分類的には牛ではあるんだけど、コレジャナイ感が一目で伝わってきた。


 ▼ミルクミノタウロス

 母性溢れる牛型の魔族

 ミルクは絶品だが、とても腐りやすく劣化が早いので直飲み推奨▼


 冬になる前に子どもをおっきくしないとだもんね。

 爆乳に群がっている子ミノと、パツンパツンに張った爆乳が重いらしく寝そべっているママミノ。

 パパミノはエサ探しかな?子育て頑張ってください。

 この歳でミノタウロスの母性に充てられて、ミルクを直飲みとか......絶対に無理。開けちゃいけない性癖の扉は、このままずっと閉じたままでいてほしい。




 ◇◇◇




 ここで一度休憩。あんこ可愛いよ、あんこ。しゅき。


 いつもより三倍甘えてくるあんこが愛おしい。でっかくなって全身で絡みついてくる。

 身体中で毛並みを味わいながら一緒にランチ。


 いつも皆のお姉ちゃんをしてるから、こういう時には全力で甘えてきてください。俺も幸せなので。



 イチャイチャしながら作戦会議。このまま南下しても次の生体反応までは遠いので、西に行くか東に行くかを相談。時計回りか反時計回りかの相談だね。

 ローラー作戦なのでいずれ牛にぶち当たるはずなんだけど、俺にこういった決断を任せると余りいい事が無い。


 どっちがいいかなーと聞くと、東を選んだお嬢様。


「じゃあ午後からはあっちを探そうねー」


 方針が決まったので、食休みを兼ねたイチャイチャを続けていった。




 ◇◇◇




 捜索再開予定時刻をオーバーしてしまったが悔いはない。大幅に遅れてはいないのでセーフだ。



 後一つか二つ回って今日は終わりだろう。

 あんこは走りたいみたい。それじゃあ行きましょうか。



 三箇所目、南南東くらいの位置にある岩場へ到着。


 ......うん、居ない。見当たらない。

 でも生体反応はしっかりある。


 というと......まさか地中なのか?

 うーん、ここはハズレかぁ。ある程度の大きさの地中生物となると、モグラ辺りかね。これまでの経験上どうせ碌でもない個性を持つモグラなんだろうな。


 ......放置でいいや。地下帝国を作って住んでいる牛なんているはずがない。

 もしそうだった場合には素直に危機管理能力を賞賛しよう。




 ◇◇◇




 四箇所目、南東にある傾斜の多い地帯。そんなに数はいないけど、そこそこ強めな生体反応があった場所。


 ......ここに居るのは牛じゃないっぽい。けど一応確認しておかないと。


 あー、鳥だわ。どれどれ......



 ▼アンディスピューテッドチャンピオンホーク

 とにかく強い鷹

 肉は筋が多くて食用には不向き▼



 ......チッ......この世界でもタカは強いのかよ......

 今年もウサギの生皮を剥ぐんだろうか。


 ちょっと去年までを思い出してピリピリしたけど、心を鎮めて移動を始める。きっと今年こそは鳥類の頂点+六匹の動物の争いでの頂点、そして十二匹の動物の中で頂点を取ってくれるはずだ。

 わざわざここで鷹を倒す必要なんてないだろう。今年こそはきっとやってくれるはずだから......




 ◇◇◇




 五箇所目、東南東らへんの湿原っぽい場所に到着。

 ちょっとぬかるんでいるのであんこは抱っこしている。


 生体反応がある場所へ近付いていく。


 ............ここもハズレ。くそぅ。

 湿原に居たのは鋏が異常に大きいカニだった。


 今日の探索は全部ハズレか......

 発見は次回以降に持ち越し。まぁこういった事ですんなり見つかるなんて運を、俺は全く持ち合わせていない。

 地道に足で稼ぐしかないのだから、これくらいでへこたれてはいけない。


 さーて、このカニさんはどんなモンですかなー?


 ▼ローミートクラブ

 挟む力が異様に強いカニ

 鋏肉は生肉の様な見た目と味わいで、忌避される事が多いが一部熱烈な愛好家がいる▼



 ............よし、狩ろう。絶対に狩ろう。


 抱っこしていたあんこには悪いけど、定位置に入ってもらい、カニの鋏乱獲作戦を始動。


 カニって一部が欠けてもまた生えてくる......とか、それらしい事を聞いたことがあった気がする。それなら時間さえあければ延々と収穫できるだろうし、これは試してみる価値があると思われる。

 どうなるかわからないから、今は片方の鋏だけ頂いていって、しばらくしてから結果を確認しにこよう。

 その時に再生していたら、定期的に採取。再生していなかったら、もう片方の鋏を貰おう。

 胴体や脚などの部位については、鑑定さんの一言メモに出てこなかったから多分不味い。



 さぁ、鋏をもらおうか。ユッケが食べたい。桜ユッケじゃ満足出来なかったんや!

 レバ刺しやユッケの規制は本当に悲しかった!!

 何でもかんでも規制すればいいってもんじゃない。それなら生牡蠣だって規制すべきだと俺は思うのですよ!!


 悲しい事に代替品になってしまうけれど、それに近い物を食べれる機会は逃すわけにはいかぬ。


 この湿原に居るカニ達よ、オラに鋏をッ......


 鋏を寄越せェェェェエ!!



 定位置で困惑しているあんこに謝りつつ、鋏をどんどん集めていく。


 今夜はユッケ祭りじゃあー!




 ◇◇◇




 内心カニに謝りながらも、食べたいという欲に負けて鋏を集め終えた頃には辺りは暗くなり始めていた。


 熱中しすぎた事を反省しながら急いで帰宅。

 帰り道のあんこは後頭部に張り付くという今までに無いスタイルだった。後頭部にあたる感覚が新鮮で気持ちよかったです。



 拠点に戻って皆に報告。

 明日もお出かけする予定なので希望者の募集をかけると、あんことツキミが立候補。


 チーム辛辣はマイペースだなぁ......まぁいいや。

 明日もゆっくりしていてね。


 この日、皆はいつも通り好きな物を食べ、俺だけがハイテンションな夕食だった。


 ウチの子たちは生肉は余り好まないらしく、一口食べて見向きもしなくなった。

 君たちはあんこ以外元野生だろうに......


 ちなみに卵黄をたっぷり絡め、ユッケのタレと混ざりあったカニ肉はとても美味しかったです。レバ刺しに酷似した味の生物どっかいねぇかなぁ......

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