第119話 過剰すぎた戦力
「娘よ......アレは何だ?」
「わたしも初めて見ました......」
「お話中失礼します。あれはシアン様の武器から顕現させているモノらしいです。初めて見た時に私は死を覚悟しました」
「......あんなのを出せる武器とかヤバすぎであろう。シアン殿の正体は本当に魔王ではないのだな?魔王と言われた方がしっくりくるぞ」
「初めて会った時を思い出しますね......人の形をした魔力でしたもの。魔王ではないと思いますが......人でもないと思います」
「貴方!絶対に彼と敵対してはなりませんよ!国内のバカ共を完全に掌握してくださいね」
「あぁ......バカなのに野心だけはあるヤツらを相手にするのは面倒だが、やらねばならんな」
この時、あんこは久しぶりの龍さんに興奮し、鳥ちゃんズは初めて刀の本領発揮を見てビビっていた。
ㅤピノは優雅におやつを食べていて、メイドは興奮するあんこを見て興奮していた。
◇◆◇
黒龍、そして不動明王を突き動かす感情は歓喜......ただそれだけであった。
――薙刀として造られ、後に脇差しとして打ち直された骨喰藤四郎、そして刀身に掘られた彫り物に過ぎなかった龍と明王だったが、妖刀と呼ばれるようになり、逸話が広がっていくにつれて存在としての格が上がり、やがて意志を得ていく。
戦国の時代に生まれ落ち、乱世を駆け抜ける武将達。
後に第六天魔王と呼ばれるあの人物など、様々な人の姿を見ていた骨喰、龍、明王は想った。
『武辺者とか傾奇者ってかっけー!あんな人に振るわれたい』......と。
洞窟内で見せた今の持ち主の黒歴史は、正に願ってもいない言動であった。
しかしテンションが上がってしまい、高笑いをしながら理想の姿になるようにアドバイスをしたのが悪手であった。
バカにされたと感じて収納されてしまう。その後、一度出された時に話をするも何に怒っているのかがよくわからずに、再び収納に仕舞われてしまう。
中から威圧や怒りの念を送るが......しかし、彼には届かず......
時が止まる収納の中に仕舞われても何故か思考が出来ていたので、よく考え、考え、考え......最終的に『不要になったのか?』と言う結論に行きついてしまった。
その事に絶望し、収納の中で呪詛を呟きながら、出される時があれば妖刀としての魅力を用いて彼を魅了し、『一矢報いてやる!』という決意をしながら収納に満ちる魔力を取り込みながら、再び日の目を浴びるのを待った。
人と物......感性の違い等があり、お互い悲しいすれ違いをしていたのだが、数日後......遂に
ここぞとばかりに不満をぶちまけるも、無視されてしまう。だが、次第に現状を把握していき......
「存分に暴れるがよい!一匹たりとも逃すな!!圧倒的な力で蹂躙せよ!!」
これ程の誉れは無い。
所詮自分は武器、そして武器にとって最高の栄誉は敵を打ち倒す事。
持ち主の命令、傍から見たら痛すぎる魔王ムーブにテンションが振り切れる!
二体の獣と一振りの刀......飢えた獣が、持ち主の「さぁ行けっ!!」という号令により、過去最高のテンションで戦場に解き放たれたのだった――
◇◆◇
黒龍は意気揚々と羽ばたく。
ㅤ持ち主の期待に応えるべく、自身最高の攻撃を繰り出すべく空に登っていった。昔はする事が出来なかった事が出来る喜び......持ち主と一緒の戦場で戦い、持ち主に攻撃を任された事が何よりも嬉しい。
張り切らない理由が無い。
収納内で貯めた魔力を解放し、口に魔力を集めていく。
その余波により周囲に赤黒いスパークが迸り、大気が荒れ狂う。
時間にして一秒程、しかし、自身の逸る気持ちの所為で長く感じた溜めの時間......
ㅤ永劫にも感じられるチャージが終わり......大きく開けた龍の口から“ソレ”が放たれる。
放たれる前は大きかった黒い球体が、縮小しながら敵の塊、その中心へと向かっていく。
到達する頃にはビー玉程の大きさにまで圧縮された“ソレ”は、着弾と同時に膨らみ、弾けた――
戦場にいる有象無象の生命を......無慈悲に、理不尽に刈り取っていく。
四方八方に飛び散る、球体から放たれた無数の黒い短刀。直撃すればもちろん即死、掠っただけでも体中の骨が砕かれ絶命していく兵士達......
飛び散った刃は地面に不思議な円状の紋様を描くように刺さっていく。そして、完成したサークルは間髪入れずに発光を始めた。
運良く短刀に当たらずに生き残れた兵士も居たが、黒い光の柱が立ち上り、兵士を飲み込んでいく。
数秒で黒光の柱は消滅したが、その内部に居た生き残りも全て消滅していた。
チラッと持ち主の方を見ると、口を開けて呆けている姿が見えた。驚かせる事ができた事に満足し、残りの残党共は物理的に蹂躙していこう......そう決めて兵が固まっている箇所へと向かっていった。
一方その頃......機動力で劣る不動明王は、出遅れた事を悔しがっていた。一番槍は自分が!と思っていたのだ。
自身もモチベーションは最高潮であり、早く暴れ回りたい気持ちで落ち着かない。即発動できない自身の力が恨めしい......
その間にも黒龍が大技を決め、多数の兵士を葬ってしまっていたので、発動まで待てずに、不動明王は急いである場所へ向かっていく。
魔力を外へ向けて放つ事はできず、発動までに時間が掛かるが、不動明王は魔力を身体エネルギーや物の強化に変換する事が出来る。
そして現在......彼には無尽蔵とも言える程に魔力が溜まっている。
全身の強化がようやく完了し、それに合わせたように目的の場所へと到着した。
地面に刺さった鉄塊を引き抜き、自分好みの持ち手になるように握り潰しながら強化を施していく。そして、敵が固まっている所へ向けて移動を開始する。
ㅤ不動明王......彼もシアンの魔王ムーブに充てられて、テンションがぶち上がっている。
ㅤ黒龍ばかり目立たせてなるものかと。
◆◇◆
「おいおいおい......これはどう見てもヤバいだろ......チッ!聞いてねぇぞ!!オイお前ら!!撤退の指示は出てねぇのか!?」
「撤退と言ってもどうするんですか?帰還用の魔力は蜘蛛共をアテにしていたので、すぐには帰れませんよ」
「えーっ......ならもう隠れちゃおうよ。どう足掻いてもアレには勝てないし」
「どうにかしてこの情報を、国まで持って帰る事を最優先に考えた方がいいだろうね」
「......ハハッ......おい、もう遅いみたいだぞ......上を見ろ」
「「「は......!?」」」
今にもはち切れそうな筋肉に包まれた巨人が、上空から何かを投げるのを確認した瞬間......彼等は赤い染みへと姿を変えた――
◇◆◇
蜘蛛は味方と認識している不動明王は、このまま走って移動をしていたら亡骸を踏み潰しかねないと考え、それならば飛び越えてそのまま敵陣へ突っ込めばいいと思い至った。
彼にとって雑魚でしかないが、装飾が豪華な物を装備しているのは、何処の世界でも上位者だと相場は決まっている。彼もそう認識していた。
全身くまなく強化していたので、当然視力も強化されている。遠く離れた位置からでも確認できたソレらの居る方向へ向けて跳躍する。
ソレらの真上辺りにまで来た所で、手に持った鉄塊を全力で投擲。
轟音と共に、鉄塊が呆気なくソレらを潰す事に成功した。
その後着地した不動明王は、使徒(笑)を合計八体も潰した鉄塊を、地面から流れるような動作で引き抜き、すぐさま残りの兵共を潰して回っていく。
黒龍よりも、一体でも多くの敵を屠ってやろうと張り切りながら。
◇◇◇
「きゃんきゃんきゃんっ!」
お気に入りの龍の大技を見てテンションの上がったあんこは、王女の膝の上から降りてテーブルの周囲をグルグル回っている。しっぽがちぎれんばかりに振られていて、実に可愛らしい。
「わたしの膝の上ではしゃいでほしかったのに......残念です」
「あんこ様がこれ程はしゃいでいる姿を見れるとは......私はとても幸せです」
「はぁはぁ......心が洗われます......」
王女といつものメイド二人は、あんこのはしゃぐ姿を見て恍惚としていた。
そしてツキミとダイフクは、ピノに骨喰さんたちの事を聞いていた。
鳥ちゃんズが来てから一度も目にする機会は無かったので、詳細を知ろうとピノに質問責めをしていた......
そんな場面であったが、会話の内容を聞く事のできない周囲のアラクネたちからは、とても優しい視線を向けられていた。久しぶりに会う孫を見るおじいちゃんおばあちゃんのような視線を。
あんな戦闘は見ていたらダメだっていう現実逃避の意味もあるが、単純に可愛い小動物たちのやり取りを見て癒されている。
血生臭い戦場を他所に、アラクネ王国の中枢を「可愛いは正義」が侵食していく。
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