第118話 魔王降臨

 ボケーッと戦場のやり取りを見守っていると、ある一箇所で戦況が慌ただしく動き出した。

 アラクネたちが押され始めたのだ。


 多分そろそろ撤退を始める......そう感じたので、若干トラックに似せた鉄の塊を持ち上げる。大きすぎて持ち上げる程度しかできなかった。


 糸を器用に扱い、自分の何十倍もあろうかという鉄の塊を自在に操る。

 なんとなくこのままぶん投げても投擲スキルが仕事をしてくれそう......そんな予感があった。


 八個も作ったのは、もし当たらなくても当たるまで投げればいいじゃない!投げてるうちに上達するんじゃね?という考えから。まぁ予備の弾である。



 ヒュゥゥゥゥとロケット花火独特の音が上がり、アラクネたちが撤退していく。

 予想通りにロケット花火に気を取られている敵が見えて笑えた。


 ピッチャー第一球、振りかぶって......投げました!!


 投げたと同時にロケット花火が炸裂、その音にビビったのか全員が動きを止める。


 狙い通りッッ!!


 あ、この状況は......この言葉を是非とも言っておかなきゃいけないだろう。


「危ないでやんすぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」


 キキーーーーーーッッ(空耳)


 ドカーーーーーーン!!


 ピーポーピーポー(空耳)



 投げ下ろした感じになっちゃったから、鉄の塊は地面に刺さった......いや、めり込んだ。そのせいで二次被害が少なくて残念だ。ただ、大事故だ。事故現場は大惨事になっているので満足。




 その後は、しばらく善戦していたアラクネ軍だが、平和ボケのせいで継戦能力は低くなっていたらしく、あちこちでロケット花火が上がり始めている。


ㅤさーて、そろそろ行きましょうか。


 なんとなく壮大な魔法陣を作り出し、なんちゃって黒炎を魔法陣に沿って発動させて禍々しさを演出。

 ダイフクに魔法陣の中心に光を出してくれーって思いを込めながら目を向けると、ちゃんと意図を汲んでくれて光を出してくれた。


 こんなに離れていても意思疎通が出来るのか、察しがいいのか、以心伝心の仲なのか......どれでもいいか。目と目で通じ合えた奇跡を喜ぼう。



 発光している魔法陣の中心に、魔力の隠蔽を解除しながら飛び込んでいった――




 ◇◇◇




「......見たか?さっきのえげつねぇ攻撃」


「はい......父様、口調が崩れていますよ」


「チラッとこちらを見たのは何だったのかしらね......

ㅤはぁ!?な、何よこの魔力は......」


 あんこは王女の膝の上で、しっぽをぶんぶん振りながら嬉しそうに見ている。

 ピノはあれくらい当然だろって感じで落ち着いている。

 ツキミも嬉しそうに活躍を見ているが、頼られたダイフクに、時折鋭い視線を向けている。

 ダイフクはちょっとビビっていて、怒らせないようにしようと心の中で思った。


 一部はドン引き、一部はいつも通り。

 ここまでは平和な観戦をしていたのだが、シアンが魔力を隠すのを止めた所為で、平和な時間は終わってしまった。




 ◆◇◆




「鉄塊が飛んできたのには焦ったが、あんなのはそうそう用意出来ねぇだろ!おら!ビビってねぇで一匹でも多く殺して俺に捧げろ!」


「チキって逃げてもいいけど、その場合は私達が粛清するからね」


「はぁ......どこかに可愛い男の子いないかしらね」


「......どうでもいいけど、早く終わらないかな?帰って乱交がしたい............っっ!!」


 第九使徒、強姦しながら相手の肉を喰らうのが好きなカニバレイパー。


 第八使徒、既婚女性大好き。旦那を喪ってすぐの女性も好きなクズ。


 第十一使徒、唯一の女性。重度のショタコン。


 そして第六使徒、山羊野郎の同類。本場の儀式に混ざってみたいと思っている。



 彼等の視線の先には巨大で禍々しい魔法陣が光を放っている。そして溢れ出す濃密な魔力。


 戦意を喪失して茫然と立ち尽くす兵と、呆気にとられてしまった使徒(笑)。

 彼等の運命や如何に......




 ◇◇◇




 ......あ、あれ?


 逃げ惑う所か立ち尽くしているクソ共と、撤退を止め、その場に膝をついてこうべを垂れて祈る様なポーズをしているアラクネたち。


 ......早く撤退してほしいんだけどぉぉぉ。

 うぉぉぉぉ......恥ずかしいけど、ロールプレイしなくてはぁぁぁ......


「アラクネたちよ!この場は我に任せて本陣まで戻るがよい!死にたいのなら別だがな」


 俺がそう言うと、アラクネたちは立ち上がり、深く一礼をしてからその場を離れていった。


「さて、人間共よ。指揮官はどこにいる?素直に喋ればすぐ楽にしてやる」


 人間の兵が指差した方向をよく見てみると、ゴテゴテした装備の奴が四人見えた。見た感じ、女が一番ゴテゴテしているから偉そう。


「よろしい。では楽にしてやろう」


 侵食を発動させながら頭に触れると一瞬で砂に変わった。

 どうやら奴らは、威圧でブルって動けなくなっているみたいなので、大鎌を振るって雑兵の首を刈り取りながら、指揮官と思われるヤツらの元へ向かった。


「聞かれた事に簡潔に答えよ。余計な事は話さなくてよい。ここまでは理解したか?

 黙秘してもいいし、嘘を吐いてもいいが、その場合どうなるかは多分理解出来るだろ?」


 赤べこのように首を上下させている。大丈夫そうなので質問開始。


「まず、お前の身分は?

 真っ先にアラクネ国に攻め込んだ理由は?

 お前らのトップはどうやってお前らを扇動した?

 国にとっての有用な人材はどれだけ国に残っている?威圧は緩めてやるから早く答えろ」


「......“十二使徒”という粛清部隊の隊長で、十一使徒の名を賜っている者です......

 質の高い品を作る奴隷の確保と、略奪、それと性奴隷......ひッ」


 おっと......なんか色々漏れてしまった。

 なんだよ使徒って!笑わせようとしてんのか!その後に言った理由はクズいし......笑いと怒りを堪えるのに必死だよバカ!


「続けろ」


「大規模な転移装置が発見されたのは魔族を滅ぼせという神の意志、神の思し召しだと......

 教皇と、その上......それと頭脳ウィズダムと呼ばれる老人達が残っています」


 ......俺の魔王なりきりよりも痛い事しているなコイツら。なんだよ、天使とか使徒とか頭脳とかってさ......


「なるほど、そこの似たような格好をしているヤツらも使徒ってことか?」


「はい......」


「使徒ってなんだ?詳しく話せ」


「黙れぇ!お前はそれ以上喋んn......」


 おっと、なんか生理的に受け付けないおっさんの首が飛んでしまったよ。

 急に五月蝿くしたからね。仕方ないよね。


「続きを言え」


「......ヤりたい放題できる特殊な役職です。犯罪を犯しても神は許してくれますし、教皇様達が揉み消してくれます......」


 ......首輪付きの犯罪者か?もうそれただの無法国家やんけ。滅ぼした方がいいだろ。


「お前はどんな事をしてきた?此処でどんな事をしようとしていた?」



 ......黙んなよ。喋れよ。


「どうして何も言わない?早く言えよ」


 親指を切り飛ばして続きを促す。


「あぁぁぁぁぁ......っ!!言います......言いますので......」


「早くしろ」


「......お、幼い、自分好みの......お、男の......子を......攫って、飼おうとしてました......」


 アウトォォォオ!!ショタコンだったのかよ!!


「は!?じゃあそこの首が落ちたヤツは?」


 ちょっと衝撃すぎて素が出ちゃったじゃないかよ......


「そいつは......強姦しながら人肉を食べるのが好きなヤツです......」




 ......は?いや、もうさ......人の性癖にとやかく言うつもりはないけど。ダメだコイツら......死んだ方がいい。


「使徒は狂ってないとなれない役職なのか?はぁ......もういい、わかった。我が守護する国をそんなくだらない理由で攻めてきたのだな......」


 残った三人を糸で縛り、転がす。コイツらは最後まで残してやる。


「お前らには特等席で自国の軍が蹂躙される様子を見せてやる。存分に絶望するがよい」



 収納から骨喰さんを取り出して鞘から抜き放つ。仰々しく天に向けて掲げて、赤黒いスパークを生み出した。

 なんか呪詛のようにブツブツと言っているが、そんなのは無視。


「来い!黒龍!不動明王!」


 あたかも呼び出したかのようにしながら、彼等を顕現させた。


 さぁ、舞台は用意したぞ。


 謹慎させられていた所為でフラストレーションが溜まっているらしく、チクチクと小言が飛んでくる......まぁこれも無視。


「存分に暴れるがよい!一匹たりとも逃すな!!圧倒的な力で蹂躙せよ!!」


 この魔王モード......恥ずかしいけど、龍さんと明王さん、そして骨喰さんは気に入っているらしく、ノリノリになった。くそぅ......

ㅤこれが原因で謹慎させてたのに......でも、こういった場面では、これピンズドなキャストはいない......あぁぁぁ恥ずかしい!!


「さぁ行けっ!!」


 羞恥に塗れたお披露目の舞台、神の使い(笑)vs怪獣と自称魔王の戦争が開幕した。

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