第117話 大事故

 大変有意義な時間だった。

 ダイフクも今日は大人しく、モチモチ触感をめいっぱい堪能させてもらった。幸せ......どんな素材を使えばそのモチモチ触感を生み出せるのだろうか。

 あんこのお腹も不思議な手触り。もちろんアホほど堪能させてもらいましたよ。


 進撃してくる教国さんさぁ、空気読んで後五日くらい予定を遅らせてほしいんですよ。

 俺の幸せの邪魔はするわ、計画の邪魔をしようとするわで本当に害悪でしかない。そんなヤツらは駆逐してやるよ!この世から......



 触れ合いに物足りなさを感じている俺だけど、お迎えが来ちゃったので仕方なく招集に応じる。

 どうやら斥候がヤツらの姿が見たらしい。ピンポイントで転移できる訳ではなく、ここから二時間程の距離の場所に転移してきたそうだ。


 数は凡そ十五万だって。アホかよ......後先考えず、ガチのマジでアラクネの国を攻め落としにきてる。人材と財力の無駄遣いお疲れっす。

 アラクネの国を攻めると国のトップが言ったから、今日この日は教国敗戦記念日。

 教国の王は歴史的愚王となり、所々血の雨と肉片が降るでしょう。



 会敵予定地はこの国から三十分程の場所にある坂になっている場所になるとの事。


 アラクネの軍で戦えるのは三万未満。軍事を収縮させる事を望んだアホのせいらしい。

 ヤバくなった所で撤退させ、仰々しい演出をしながら俺登場☆って流れになっていると聞いた。


 魔王降臨としてはまたとない場面での登場演出だよねぇ......ちょっとだけ、ちょっとだけだけど楽しみになってきた。

 後々思い返すと黒歴史になりそうなんて後ろ向き事は、今は考えないでおくのが賢明でしょう。



「本気で此方を攻め落とそうとしてるのがわかるな......シアン殿、本当に大丈夫なのか?」


 不安に駆られちゃったらしい国王が聞いてきた。まぁ、そうだよね。未だに俺の実力見せてないもん。


「五大国全てで攻めてきても余裕かなぁ。そんで、これくらいの数の相手なら......あんことピノちゃんのどちらかでもイケると思うよ」


「「えっ......」」



 王と王妃がビックリしている......まぁでも、あんことピノちゃんはこんな狂おしい程可愛らしいのに、そこまで強いなんて普通は思わないよねー。びっくりしちゃうのは仕方ない。


「まぁ大丈夫大丈夫。宴の準備でもしながら待っててくれていいよ。あ、そうそう!ウチの子たちはお留守番してもらうから。いざという時は用心棒として働いてくれるから、身の安全も保証されてるし心配しないで」


「うむ......情けない話だが頼りにさせてもらうぞ」


 別に情けないとは思わないよ。クリ〇ト一人でラスボス倒せって言うようなもんだろうし。俺からしたら生産職羨ましいって感覚でしかないもの。


「自国ノ発展ニ、生産職ハ必須デース」


 俺の尊敬する某スポーツ医学の権威の名セリフをパロった言葉を贈らせてもらった。暴力では仮初の安寧しか産み出せないから、恥じることはない。


「汚れ仕事はゲド〇君にお任せあれ☆それじゃ、約束された勝利の戦を観戦しててよ!後、俺は自分のやりたいように、自由に動くから苦情が来たらごめんね」


 そう言って開戦予定地へ向かう。あぁ、あんこたん......また後でね......

 俺......この戦争が終わったら、いっぱいイチャイチャするんだ......



 ◇◇◇



 シアンが置いていった各々の好物を、嬉しそうに食べている可愛らしい小動物たちを眺めている王族の方々。

 そんな和む光景とは裏腹に、国王、王妃、王女が真剣な顔で話しをしていた。


「......娘よ、よくシアン殿との縁を結んでくれた。感謝するぞ」


「偶然が重なった結果ですが、本当によかったと思います。そんな事よりもお父様......一部の頭のおかしい者達の押さえ込みを頑張ってください。あの方に無礼な言動を、絶対にさせないでくださいね」


「わかっている。今は我々に好印象を持ってもらっているが、それが反転したら......考えるのも恐ろしい」


「王であるアナタ、王妃であるワタシ、シアン様と縁の出来た息子と娘......彼に切欠を貰いましたし、王族の意地を見せる時ですよ。

 これを機に我が国の不穏分子を粛清して、より良い国にする事が我々の役目です」


「そうだな......戦闘以外の事で頑張るとしよう。ここにいる皆にも力を貸してもらう。よろしく頼むぞ」


「「「はっ!!」」」



 ――シアンが去った後の王族の会話。この時にした会話が、絶対にやり遂げなければならない事と認識するまで......そう時間は掛からなかった。



 ◇◇◇




 既に配置についていたアラクネの戦闘部隊。めでたく目の光が戻っていた果物の被害者を発見し、近付いていく。


「さっきぶり!えっと、君にお願いがあるんだけど......コレ!隊の指揮を執る人達にコレを渡してほしい。そしてコレを危なくなったら使用、使用したら即撤退してって伝えてね。

 最大戦力が後ろに控えてるとは伝わってるでしょ?だから多分すんなり通ると思う。従わなかったヤツらは......放置していいよ。アホはいらないでしょ?

 それでコレの使い方と、効果は......」



 渡したのはロケット花火。音と破裂音に俺が気付いて撤退を始めた箇所に魔王の一撃を撃ち込む。

 ちゃんと伝わっていれば逃げ出すので、隊は無事であり、ついでに実戦経験を積め、敵は謎の音に怯んで隙ができるはずだし、従わないようなアホは巻き添え......うん、実に完璧なプランだ。



 数分後、伝え終わった彼が戻ってきて俺に報告をしてきた。

 これでアラクネたちに対してのやる事はやったので、後は出番がくるまで見守るだけだ。





 そして時間は経ち、遂に敵と相対した。


 少なくない数が死ぬだろうけど、そこはアラクネの国が平和ボケしていたツケだから仕方ない。いくら平和でも戦う力は持っていないとダメだ。


 幸い士気は高いので、ある程度はやれるっぽい。愚者は滅びてマトモな者は生き延びてくれるといいな。


「アラクネ軍がんばえー!」


 魔王モドキの緩い応援と共に両軍がぶつかった。




 ◇◇◇




 戦が始まり、一時間。

 やはり数の差は如何ともし難いらしく、ちょっと押され気味。


 教国側にバーサーカーみたいな戦い方をしている隊が複数いて、そこがちょっとやばそう。突出したヤツはいなさそうだから、まだほっといたていいか。



 それにしても......なーんか搦手とか魔法攻撃とかで嫌らしい戦い方をしてくると思ってた。だが現実はどうだろう......肉体言語至上主義みたいな戦い方をしてきていて俺氏大困惑。


 これを契機に是非とも狂国と改めてくださいませ。



 そろそろ撤退を始めてもいいと思うけど、まぁ無理しないでね。引き際を見極めるのも才能ですよ。



 そろそろ俺も介入する準備しておこうかということで、鉄の塊を複数召喚し、コンテナみたいな形状にカットしていく。


 それらを計八個作成。これで下準備はおしまい。


 さっき伝令役にした彼を呼び、顔繋ぎ役に任命。急に見た目がヤバそうなアラクネが出現したらパニックになる事この上なし。


 彼の目の前で魔王フォルムのアラクネに変身し、皆の前に姿を現す。


 装備は今の所は大鎌のみ。真っ黒アラクネが出現し現場はザワついたが、彼が頑張って場を納めてくれた。

 彼には褒美として、戦の後にあの実を与えようではないか......フフフフフ。



 よし、後は救援信号があがるまでは待機でいいね。




 ◆◇◆




「なーんか退屈じゃね?もう俺が出ていい?飽きたんだけど」


 そう呟く第七使徒......生粋の死体愛好家。生物には興奮しないと公言している。


「あー僕もそろそろ暴れたいー!もう行っていい?本音は皆も行きたいでしょ?」


 第十二使徒が便乗する。臓物コレクターであり、内臓にツッコんで扱くのが好きな異常者。


 その場にいるのは第十二使徒、第七使徒、第一使徒、そして第十使徒。

 第十使徒......この中で唯一ノーマルな性癖だった。


 変態十二人は四人毎の三グループに分割、戦場の手薄な所を助太刀する役、縦横無尽に暴れ回る役、軍を率いる役に別けられている


 一騎当千の活躍ができる程に能力は高く、重要なポストに置ける程の器だ。変態であり、何かの拍子に突拍子も無い事を行ってしまうのがネックである。


 第七使徒も、この時性欲が勝ってしまい、ちょっと先走って敵に襲いかかってしまっただけである。

 普段ならば、それでも問題無く他を圧倒できた。しかし、この時はコレが仇となる。


 不意にヒュゥゥゥゥと間抜けな音が鳴り、足が止まる。その隙に相手が脱兎の如く逃げ出していき......そして炸裂音。


 パァンと音が鳴り、不思議な出来事に皆呆気にとられてしまった。そして、彼等にとってそれが致命的な隙であった。



「危ないでやんすぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」


 異常なスピードで飛来する巨大な鉄塊、不思議な声、呆然とする味方。


ㅤㅤ強......速......避......


ㅤㅤㅤㅤ無理......受け止める!?




ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ否




ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ死



 轟音を立て衝突する鉄塊が、四人の使徒を含む教国の軍勢の生命を、無慈悲に潰していった。

ㅤ第七使徒の彼は最期、飛んでくる物体に抗おうとして、すぐに諦めた。


ㅤ音を置き去りにして飛来する鉄塊、仮に避けられていたとしても、衝撃波、そして魔王降臨という理不尽。早いうちに退場出来たのは、彼等にとって、きっと良かったであろう......

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る