第115話 大盤振舞

「んっ......んんっ......」


「ぁんっ......」


「やぁっ......んっ......」



 ......ちょっと敏感すぎやしませんかね。俺はスキルも何も使っていませんよ。


「はぁはぁ......んんんっ......♡」


 艶めかしい声が怪しい部屋に響いていく。





 嘘みたいだろ?まだ脚しか触診していないんだぜ......


 簡単な自己紹介により判明した事実なんだけど、この娘......俺よりも五倍以上歳上なのだ。見た目が歳下というアンバランスさが、余計にイケない事をしているような気分にさせる。


 見た目ロリでちっぱい寄りの普乳、甘ったるいボイス、そして茶髪のショートカットで色白の美少女メイド。下半身は茶色で脚が細い蜘蛛。


 下半身を映さないと、完全に事案。異世界感があまり感じられない上半身なので、いかがわしい事をしている気になってきて心が痛い。ブレザーとか着用させたら激似合うと思う。




 ......うん、やめよう。

ㅤ余計な事を考えずに、蜘蛛のパーツを冷静に分析していく。関節、特徴、フォルム......度々あがる甘い声を無視しながら......




 ◇◇◇




 今俺の目の前には、息も絶え絶えな美少女がベッドの上に転がっている。


 ヒューマンボディとスパイダーボディの境目が弱点だったみたいで、そこを触った瞬間に果てた。フェザータッチや触診で盛り上がり、敏感になっていた身体に会心の一撃を与えちゃったらしい。


「......なんかごめんね。付き合ってくれてありがとう」


 乱れた髪や服装を整えてあげて、そのまま寝かし付けた。


 異常なまでの罪悪感を抱えながらも、しっかりと観察させてもらった。キミの犠牲は無駄にしないよ......



 寝ている女の子から離れて鏡の前に行き、もう一度変装して成果を確認。

 前回のように低予算のドッキリ番組みたいな低クオリティの蜘蛛人間にはならず、禍々しくも立派な黒いアラクネになれていた。



 うし!これで準備は整った。


 アラクネシャドウとでも名乗って、魔王なりきりロールプレイをすればきっと、人間共やその他の魔族はアラクネたちを恐れるはず。

 もし脅威と看做されて、他種族共が結託して襲ってきた場合には、俺が責任をもって対処にあたろう。実に完璧なプランだ。





 ......それにしても、やる事やって冷静になった今、浮気をして賢者タイムになった男が、罪悪感と達成感の狭間で揺れている様な気持ちになっている。


 ウチの子たちが居ない空間に、今日初めてあった女の子が、蕩けた顔をしながら寝ている現実が目の前に。


 ......疚しい事はしていないんだけどなぁ。



 ◇◇◇



 目が醒めてもまだふわふわしている女の子と、話をしながら迎えが来るのを待っている。


 なんとこの子は未経験だったらしい。......まだ今でも未経験のままなんだけど。

 それなのに俺に触らせたりしてもよかったの?と思う人が多いと思う。俺もそう思う。


 だけど、アラクネの文化......ってより、魔物の文化は人間とは違うみたいで、処女や童貞に価値を見出す事はないそうだ。


 例外は王女とかの王族の女性のみ。嫁ぐまでは清い体でいなければならないってさ。血筋が大事な王族らしいね。


 処女よりも経産婦、まぁ子どもを産める体であると証明できている事が大事なんだって。野郎も同じで、孕ませられるって証明が大事らしい。子どもが産めないor作れない体でも、差別されるとか、迫害されるなどの問題はないらしいけど。


 最近は平和ボケしていて、産めよ増やせよって感じは無くなってきているので、結婚はまだかー子どもはまだかーって急かされる若者は減ってきている。それに伴い、未経験の者も多くなっているんだってさ。


 まぁ要するに気にしなくていいらしい。寧ろ、恋愛とか行為に興味が出てきたって感謝された。うーん異文化。

 ちなみにヴァンパイアとケンタウロスだけは、処女童貞信仰がえげつないらしい。そのケンタウロス、額に一本角生えてませんか?



 頭と蜘蛛の胴体部分を撫でられるのが気に入ったらしく、「撫でてください......」とおねだりされ、撫でながら話を続けていた。

ㅤシーツで蜘蛛の下半身が隠れている今、ちょっと危なかった。うん、危なかった。




 頭を撫でたり、一緒に羊羹を食べたり、胴体を撫でたりで三十分程度が経過。

 扉がノックされ、やってきたメイドさんに準備が整ったと伝えられる。


 どうやらこの敏感っ娘も招集されたらしく、一緒にとの事。


 まだトゲトゲしさの残るメイドさんに、先程謁見した場所とは別の場所へと連れていかれた。



 そこは軍の演習場らしい。

 人数が多くなった為に、この場所に急遽変更したんだってさ。中に入って納得。


 王族が六名、文官が二十六名、武官が三十名、兵士が十五名、メイドが十名、生産職が十名。

 俺の知らない王族は、王子が二人とご隠居らしいですね。はじめましてー。


「其方の言うように信頼できる者を集めたが、どうするつもりなのだ?」


 それは今から話しますよと返事をしてから、アラクネの団体に向けて話し出す。


「えーそれでは、今から皆様には生き地獄を味わってもらいます。それと、ここで起きた事は他言無用でーす。一切の情報を漏らさないと今ここで約束してくださーい」



 ......うん、皆さん「は?」 ってなってますねー。無礼な!とかあると思っていたけど、しっかり教育されているみたいで嬉しいよ。


 おーっと、王女さんとメイド二名の顔が歪んでいらっしゃる......これから起こる惨劇を想像出来ている様子ですねー。


「申し訳ないが、詳しく説明をして頂きたいのだが」


 やたら気の強そうなおっさんが話しかけてきた。まず誓ってもらわんと話さないよ。


「生き地獄を味わう覚悟、ここで起きる事を漏らさないと約束してもらわないと話さないから。覚悟が無いのなら、今すぐお帰りくださいませー」


 大人しく引き下がっていったおっさん。ちょっとびっくり、強制退場させないとダメかなって思っていた。




 話し合いを始めたアラクネの群れ。数分後、無事に全員が覚悟を決めたらしい。

 王女さんの目が死んでるのはスルーしとこう。他の王族も察したらしく、顔が引き攣っておられる。。


「ここで起きた事が漏れたら、躊躇なく粛清していくからね。誰が相手であっても。

 あららら......皆さん緊張してますねー。先ずはリラックスする為に果物でも食べましょうか」


 まだだ......まだ笑うな......


 一人一つずつ劇物を配っていく。

 メイド隊はいい匂いですねーとはしゃいでいるし、他のヤツらも美味そうだとか呟いている。


 ......無だ、無になれ。全員が食い始めるまで表に出すな。



「話はそれ食ってからでも遅くないから、さっさと食べちゃおっか。警戒してる人もいるだろうけど、入っていないから安心していいよ」



 それにしても皆さん従順すぎない?こっちは楽でいいんだけど、チョロすぎて少し心配になっちゃうよ。




 ............フフッ


 メイド隊と武官、そして兵士が先陣をきった。何も知らずに思いっきり一口目を食べた方が幸せだったのにね。他の人は慎重さが仇となったな。


 鑑定持ちとか結構居そうなのに、数人しか察知出来ていなかったみたいだ。


「勘のいい人はソレの正体に気付いてると思うけど、しっかり食べきってね。吐き出したり、途中で諦めちゃダメだゾ☆」




 きっと邪悪な笑みを浮かべていたと思う。でもね、仕方ないんだよコレは。


 一番先に食べ終わったのは、既に一度食べている王女さん。次いでメイドさんとメイド。


 根性を見せたのは王と王妃、それと新人っぽい兵士が二名、そして敏感メイドちゃん。



 それに遅れる事数分、メイド隊が食べきり、兵士、王子、ご隠居、武官、文官の順にフィニッシュしていった。


 口を抑えて下を向いている。情けない、情けないぞ貴様ら!三人を除いて全員、食べきった事で気が緩んでいる。



 ......でもね、これだけの事で俺が生き地獄なんていうわけないやんかー。さぁ、おかわりの時間だよ。


 自分でもわかるくらい口角があがっている。展開を知っている王女さんとメイド二人は無になっていた。三人の目の前にソッとおかわりを置いた。


「げっげっ劇物届くよ、劇物すいすいすいー♪」


ㅤスイスイ置いていき、全員に行き渡った。


「はい、では二個目逝ってみようか。


ㅤソレ、世間では伝説になっているらしい実だから、粗末に扱っちゃダメだよ」



 前半を言った時には「いやぁぁぁぁ」「もうやだぁぁぁぁ」「吐きそう......」とか阿鼻叫喚だった演習場が、後半を口にした途端に静まり返った。


「精神鍛錬と思って食べた方が楽だよ。さ、早くお食べ......まだ君たちは地獄の入口に入ってすぐの所に居るんだから」



 ......うん。いい光景だ。

 じゃあ皆さま、良い地獄巡りを。



「一人につき、最低でも五個は食べてもらうからドンドン食べようね♡」


 一斉に目から光を消したアラクネさんたち。


 ......いやぁ、絶景哉絶景哉。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る