第114話 謁見

 まだ夜中なのに、お城の皆さんはアクセク働いている。緊急事態宣言下だから仕方ないのかな。俺だけ緩い空気感を出しているのは申し訳ない気持ちになってくる。

 すぐにトップに会えるとは......下に任せっきりじゃなくて、上もしっかりしている証拠かな。良い国だ。


 まぁ偏にアラクネと言っても、種類はいっぱいいるみたい。

 今まで王女さんとメイドの二人しか見た事なかったからあんまり気にしていなかったけど、まぁ全員下半身は蜘蛛だ。


 王女さんは白、メイド二人は灰色だった。パンツの色みたいな言い方だけど、蜘蛛の部分の色の話。


 女郎蜘蛛みたいな色をした人や、タランチュラみたいにごっついのもいる。ただ、毛むくじゃらなのだけはあかん......

ここで観察した感じ、男の脚はモサモサ、女の脚はツルツルだった。

 リアル蜘蛛に近いのはゾワゾワする。ごめん、差別とかじゃないんだ。ただただリアルな蜘蛛の脚が苦手なんです。よって野郎アラクネはダメだ。



 蜘蛛脚から目を背け、調度品や装飾品を眺めていく。

ㅤ物珍しさにキョロキョロしていると、「そろそろ到着致します」と言われる。お上りさんみたいに思われてしまっただろうか......

 クソ貴族の屋敷しか豪華な所を見ていなかったので、凄くセンスが良く思える。実際センスはいいんだけど、比べるのが失礼な程に違った。


「こちらになります。どうぞお入りください。形式上見下ろされる形になりますが、そこは納得して頂けたらと」


「大丈夫だよ。人間みたいに舐め腐った態度でやられる訳じゃないでしょ?」


「そこは安心してください。とても立派な御方ですので」


 うーん、この差よ。やっぱ人間ってクソだわ。


 豪華な扉の前辿り着くと、直ぐに扉が開かれる。口上とかも無くすんなり通された事に驚いた。メイドさんは入ってこないらしい。


 中には威厳を出す為に髭を蓄えたって感じの三十代くらいの男性、姐さんって感じのこちらも三十代くらいの女性、それと近衛なんだろうなーて兵士が数人。


「其方がシアン殿か!其方の事は娘からよく聞いている。わざわざ来て貰って申し訳ない。どうかこの国を守る為に力を貸してくれないだろうか」


 こっちきて初めて見たよ、とってもまともな偉い人。初対面の人間なんかに頭まで下げてるし人格者なのは確定。

ㅤしかしやっぱり男のアラクネは無理と結論が出る。蜘蛛の脚が今まで見た中で一番ごっつくてモッサモサ。


「微力ながら助太刀させていただきます。人の分際で自分を神の代弁者と思い上がったクソ共を、完膚無きまで叩き潰してやりましょう」


 握手をして同盟成立。うーん話の早さが亜音速。


「儂の名はフリッグ、この国の王であり、この子のパパである。こっちは王妃で妻のフリガだ。些細な事で目くじらを立てる様なヤツはここには居ないから、娘にしてるような態度で構わないぞ」


 娘さんの友達って認識の方が強そうな雰囲気。彼氏です!とかだったらまた違うんだろうな。


「後で無礼だとか言わないでくださいよ。はぁ......それじゃあ堅苦しいのはここいらで終わりにして単刀直入に......

 貴方は俺にどんなやり方を求めてるんスかね?単騎特攻、防衛、遊軍......武力や殲滅行動なら世界トップクラスだと思ってる。その代わり生産的な事は苦手かなー」


 近衛兵っぽいのがザワついたけど、王と王妃は動じていない。ちゃんと俺の取説を読んで理解してるらしい。


「ハハハ!聞いていた通りだな。戦闘を直接見た事は無いが、争えば国が瞬時に消されるって娘が言っていたぞ」


 間違ってはないけど、王女さんにそんな風に思われてたのかー悲しいなーショックだなー。あ、目ェ逸らしやがった。


「まぁそんな訳だから、気にせずに何でも頼んでいいよ。こっちはこっちで王女様とそのお付きのメイドに自分の苦手な生産的な分野の事を頼みまくってる非常識野郎だし」


 年頃の娘、しかも王女を昼夜問わず自由自在に拉致できる奴であり、王女に直接頼み事をしまくっている。

 普通に考えれば国王は怒り狂ってもいいような案件だよね。HAHAHA。



「アラクネ種の弱点もバレている、そして、ここ数十年大きな争いもなく平和ボケした我が国......争えば負けるだろう。

 其方を保険の様に扱って悪いと思うが、最初はこちらだけで応戦させてもらってよろしいかな?軍事収縮を唱える者や、弛んだ兵士共に危機感を持って欲しいのだ」


 俺という完璧な保険があるこの状況でしか出来ない判断。クソダンジョンを半分もクリアできない様なヤツら相手、戦況がどうなろうが、俺が介入するだけでどうとでもなる。


「じゃあそれで。今回の戦争では俺の事は自由に使ってくれていいよ。あ、でも人間として参加はしないから」


「恩に着る。それで、人間として参加しないとはどういう事だ?」


「んー、人間の国でやらかしたばっかりだから、バレたらこの国が余計に睨まれそうかなって。

 だからアラクネっぽく変装して参戦する事にした」


「そこについては何も聞かぬよ。我が国と友好な関係を築いて欲しいとは思うがな」


「もう既に友好な関係と思ってるよ。あー......それで、女性のアラクネを一人、俺に調べられてもいいって子を探して貰えるかな?変装の為に体の構造とかをしっかり確認しておきたいんだけど、男の体を詳しく調べたくはないから」


「そうだな。では、用意させよう」


 王と俺、どちらも苦笑い。野郎の体なんて詳しく調べたくないよね。後、素直に毛の生えた蜘蛛が苦手とは言えなかった。


「無理強いはさせないでいいからね。最悪蜘蛛っぽい新種のモンスターみたいになるから」




 その後、王と談笑していたら何やら人が来て王に耳打ち。すると王が笑いだし、俺に語りかけた。


「調べられてもいいと言う女子おなごが見つかったらしいぞ。部屋まで案内させよう。其方も若者だし、盛り上がったらそのまま楽しんできてもいいぞ」


 王ってより、数年に一回顔を合わせる親戚のおっさんって方が似合うなぁ......バカ笑いしてるけど、娘が冷めた目で見てんぞ。おっさん後ろ!後ろー!


「では後で使いを送る。それまでは自由にしていてくれ」


 うぃ。パパさいてーって言われないといいね。


 俺は俺でメイドさんに連れていかれた。これから俺はモン娘お触りタイム。

 変装や幻影は、俺の知識によって出来がかなり変わる。だから必要な措置ではあるんだけど、なんかちょっとメイドさんの目が冷たい。


「こちらでございます。話に納得しているとは言え、乱暴な行為や強引に迫る等はおやめ下さい。あんこ様方はこちらでお預かり致しますので、どうぞごゆっくり」


 ちょっとトゲトゲしくないっすかね。緊急事態に託けて女の子の体をまさぐりたいとでも思われてんかな......


「あ、そうそう。俺を呼びに来る前に終わらせておいて欲しい事があるから、王様に伝えておいてほしい。


 見所はあるけど伸び悩んでいる若手、忠臣、王、王妃、王女とその傍付きや近衛。武官、文官、生産職問わずに何人でもいいから集めておいて。あぁ、絶対に裏切らないと確信できるヤツだけね」


「???......畏まりました。それではまた後ほど」


 よくわかってない様子だけど、まぁ仕事はしっかりするでしょ。


 ノックをして、返事があったので部屋の中へと入る。




 ......あのおっさんやりやがったよ。ムーディな部屋にくそデカいベッド......緊張した面持ちの若いアラクネが一人。


 だからメイドさんにトゲがにょきにょき生えてたのね。

 ......うん、王が俺をヤリ部屋へと案内したとチクろう。王女さんに。



「えっと、何て言われて来たかしらないけど、身体の構造とかを見させて貰うだけだからね。俺のわがままで女の人でって頼んだのが、歪曲して伝わったっぽい」


「えっ......お抱きにならないのですか?」


「うん。何故こんな事を頼んだか......理由を説明するよりも、実際に見てもらう方が早いか。......笑わないでね」



 犯人スーツと幻影の組み合わせ技【犯人スーツtype人蜘蛛】を発動。



 ......プルプルしてる。笑いを堪えていらっしゃるわ。

 素直に笑われた方がよかったかもしれぬ......


 アラクネの全身が映るようなデカい一枚鏡があったので、自分の姿を確認。


 質の悪いドッキリ企画に使われるような蜘蛛の玩具に下半身を埋め込んだ真っ黒い男が映っていた。



「......こんな風に、詳しくわからない者に変装しようとすると、すっげぇチープになる訳よ。でも、男の身体を詳しく調べるのは気分的にアレだから......うん。

 よく考えると女の子に頼むのも失礼だろうけど、クオリティを上げる為に付き合って貰えるかな?」



「は、はい......恥ずかしいですけど、どうぞ......」


 とてもイケない事をしてる気分になる。やばい。

 あ、後でおやつをいっぱいあげるからね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る