第111話 鬼ごっこ
素敵な居住空間、スタイル、快適性、実用性を兼ね備えている。
ダブルフロア、LEDリヤライト、サンルーフ......どれも美しいね。全体的にもっさりした印象のキャンピングカーだけど、これは洗練されていてスタイリッシュ。
貧弱すぎる俺の語彙では、この車の素晴らしさをしっかりお届けできないのがもどかしい......なんて言うか、うん。珊瑚礁のような美しさだ。
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▼おとまりできるくるま
ガソリンの代わりに貯めた魔力を消費して走行可能
空間拡張効果が施されており、中は倍の広さになっている
メンテナンスや掃除は、中に誰もいなくなると貯蔵魔力を消費して自動で清掃される▼
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名前がふざけてるだけで、俺の憧れて止まなかったキャンピングカーが目の前にある。一千万超のキャンピングカーなんて夢すぎて、手に入れられるとは思わなかった。
やっぱりこれもカスタマイズされているみたいなので、半永久的に使えるだろう。道交法も、車検も、クソみたいなドライバーも、何も無い世界。たまに暴走させてもいいだろうか?でもこれを真似したらアカンよ。
まぁでも、乗るのは趣味程度に抑えて、普段は徒歩とお嬢様で。俺やお嬢様の方が早いし、積極的に使うのは悪天候の時だけかな?
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うし、じゃあ入ろうか。大人しく待っててくれてありがとう。トリップしててごめんね。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
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ドアを開けて中に入ってみる。
余裕で数人生活出来そうな空間が車の中にあるんだぜ?不思議だ。
十分な広さ。俺的には拡張してなくてもよかったけど、この子たちのストレスになるかもしれないので広くてよかったのかも。
ソファやベッドもしっかり備え付けてある。皆思い思いの場所に飛び込んでいった。
でもね、ツキミよ。シンクに入るのは止めようね......そこは洗い物とかする場所だよ。
さて、後は寝床になる巣穴っぽいところを作れば皆ハッピーになれると思う。気に入ってくれたみたいでよかったよ。
「今日から寝泊まりは此処になるからまた後でね。ピノちゃんたちは良さそうな場所を見つけてきてくれたかな?」
聞いてみると、もっと奥の方にありそうな予感があるけど、遅くなりそうだからそこまでは行ってないらしい。
結果、明日行こうって事に決まり(決められ)ました。
最強の行動範囲を誇るあんこが自由行動してたから移動距離を稼ぐの難しかったのと、この中が気に入ったから動きたくないんだね。
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「まぁいいよ。明日全員で探そうねー」
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この日は社内探索で張り切るエンジェルたちを眺めて悦に浸った。まんま新車を自慢するパパンだけど、これは男なら誰しもが通る道だろう。
簡単な食事を済ませ、各自思い思いの場所で眠っちゃった。
だからシンクは寝床と違うんだってばツキミちゃん......ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
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やばいな。これを体験してしまったら普通のキャンプや野営が出来なくなる。
おはようございます。この世界の宿なんかよりも快適な一夜を過ごせました。
天候や虫に悩まされる心配も無く、快適さが天元突破している。モーターハウスとはよく言ったものだなぁ。
飯と風呂だけは、野外の方が美味しいし気持ちいい。これは多分何があってと揺るがない。他は月とすっぽん。
あんこは俺と同じベッド、ピノちゃんは引き出しの中にブランケットを敷いて開けっ放し、ツキミはシンク、ダイフクはダンボールに穴を開けた物の中。
あんまりキャンピングカー関係無いのが残念だけど、内装や設備は気に入っていた。
まぁ可愛いからいいや。
意思のある生き物には須らく好き嫌いがある。あまりにも「コレどう?アレは?」ってやって善意の押し付けになって嫌われるのも嫌だし。
来る者拒まず、去るもの追わずってスタンスの人は凄いよね。
来るものは選り好みするけど、去るもの追わず......ってのが楽だと思う。
まぁアレだ。自分が変に気を使わず、気楽に生きられるのが一番いい。
用意はするから、その中で自分の好みを見つけてくれ。あまりにもヤバすぎる事じゃなきゃ口出ししないから。
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皆で朝飯を食べ、これから仮拠点の場所決め。
小動物ナビに従って場所取り開始です。
なんとなく場所にアタリは付けてるらしく、迷いなく進んでいくあんこ以外の子たち。お嬢様は俺に抱かれてるよ。
今日は走らなくていいの?と聞くと、昨日いっぱい楽しんだからいいの!と俺の胸に顔を押し付けてくるお嬢様。我爱你。
「森を出てから色々あったけど、俺と一緒に居て楽しい?」
噛まれる。
『またなんか変な事考えてるの?当たり前じゃん。バカっ』だって。
ありがとう。これで後十年は戦えるよ。
ある意味一区切り付きそうなタイミングだし、もうこの子らは俺が居なくても余裕で生きていける。
仲間も出来たし本当に必要なのかなぁって、センチメンタルな気持ちになってしまっただけ。まぁ気の迷いですよ。
「ならよかったよ。ちょっと離されちゃったから急ごうか」
恥ずかしさを誤魔化そうとして、話を切り上げて走り始める情けない野郎でございます。
そんな俺に『走れー!!』って胸の中で指示を出すお嬢様。優しい子で嬉しい。
もう元通りになれたから、これからも全力で馬鹿な事をして行こうか。
「俺に追い付かれた子は夜にスペシャルマッサージだよー!」
俺の前を走っている白蛇ちゃんと、飛んでいるオウルちゃんたちが、一瞬ビクッとしてからスピードを上げた。絶対に追いつかれてはいけない鬼ごっこの始まり。
汎用性の増した【犯人スーツ】を全身黒タイツ状態にして、胴体に「スペシャルマッサージ」と表記した鬼になった俺と、黒タイツ状態になった(された)あんこが、哀れな子羊たちを追いかけていった。
◇◇◇
まぁ本気で捕まえようとしてないから、付かず離れずの距離を保って追いかけ回した。
こっちの考えなんてわかるはずもないあの子たちは必死に
予定よりも早く目標としていた場所に到着した全身黒タイツの変態と愉快な仲間たち。
人に戻ってお疲れ気味の皆様を労っていく。
お嬢様から『次はもっと可愛いのにして!』とお叱りを受けた。ある意味可愛かったのに......
案内された場所は小川の流れる場所で、前方には草原、後方は段々畑みたいになっている場所だった。
いい場所だね。後ろの畑っぽくなりそうな場所に何か植えて、自給自足生活擬きを楽しめそう。
そしてここなら、牛を引っ張ってきて放牧するのにも十分。あんこに牧羊犬ごっこをさせてもいいかも。
先ずは一冬越してみて、良さそうなら最有力候補地になると思う。
「いい場所見つけてくれてありがとう」
そう言って頭を撫でる。
一緒に居るようになって初めて見る疲れきったピノちゃん。鳥ちゃんズはもう少し体力欲しいかも。
キャンピングカーを取り出してドアを開ける。すると、ヨタヨタした足取りで進むオウルちゃんたち。
羽根が疲れてるのかね......申し訳ない。筋肉痛にならないでおくれ。
ピノちゃんは俺の胸ポケットに入っていった。恨めしそうに睨みながら......
ごめんね。好きな子程イタズラしたくなるんだよ男の子って。
そこから夕暮れまで、椅子に座りながらあんこと触れ合い、ピノちゃんも時々撫で、ゆっくりしながら過ごしていった。
旅は一旦ここでおしまい。ここからしばらくゆっくりした生活をして行こうね。
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