第106話 一瞬だけの和解

 解体専門の人たちって凄いのね。適当にパーツ毎に分けていけば問題ないだろうと思っていたんだけど、切る角度とか、関節の外し方とか......よーく考えられている。


 素人には難しくて無理だ。適材適所......こういうのは得意な人にやってもらうに限る。

 甘えるな!覚えろや!って怒られそうだけど、やっぱりプロの技は違うねん。


 やってくれる人、やれる人、それを専門にしている人が周囲に居ない状態でも覚える気がない......とかならともかく、普通の日本人は解体してもらったお肉を、とにかく美味しく食べることに全力になればいいと思う。



 ......うん。ごちゃごちゃ言ったけど......なんていうか、張り切っているメイドさんが怖いの。すっげぇ鬼気迫ってる。


 素人の俺から見て、解体慣れしてるなぁと思えても、「知識がある程度なので、まだまだ素人に毛の生えたようなモノです」と、上には上がいると発言をされた。


 そんな経緯があって、お菓子程度で喜んでやってくれるなら、素直にやってもらった方がいいと言う結論に至った訳です。


 よし、切り分ける作業終わり。



「お肉と甘味を袋にしまう作業は俺がやっとくから、あっちに混ざってきていいよー。メイドとしての時間は終わりにして、普通の女の子としての時間を楽しんでおいでよ」


 めっちゃ嬉しそうにして走っていった......たまには息抜きしなさいね。



 まぁ......俺が善意だけでこんな事を言う訳が無いんだけど。宝石を黙って混入させてからチェックが厳しくなって、俺には不要な高価な物を押し付けられなくなっていた。


 ということで、王族への貢物です。黙って受け取りやがれ!


『これまでに手に入れた珍しそうな物です。俺では有効活用できないので、これらの品をお譲り致します。

 献上するも良し、懐に入れるも良し、外交カードにするも良し。俺がアラクネの国へ行く事があったら、その時に摩擦無く受け入れてくれればそれで十分です。』


 よし、後はこの書き置きと共に忍び込ませるだけだ。

 多分また怒られるし、王族の私物に忍び込ませるのはやばい事だろうけど......そんなん知るか!!


 初めての採掘で得た物や収納の肥やしを、必要そうな分を残して詰め込んでいった。


 そんじゃ俺もパラダイスに混ぜてもらいますか。



 ◇◇◇



 俺は今怒っている。


 あんこ、ピノちゃん、ツキミ、そしてダイフク......誰もこっちに来てくれない。


 あんことツキミはわかるよ。

 女の子だもんね。

 オシャレとかしたいお年頃だもんね。


 ピノちゃんも嗜好が女の子寄りになってるから、オシャレとかしたいんだろね。リボンとか喜んでたし。


 だけどさ、ダイフクよ。

 お前、採寸やオシャレとかよりも、アラクネメイドに触られる事を喜んでるよな。

 あまり触らせないのって......まさかお前......


 確かに理解わかるよ。

 同性に触られるより、異性に触られたいもんな。


 でもな、お前のその、魅惑のもちもち羽毛......俺はもう、手放せないんだよ。

 ......くっそ......TS薬ぶっかけようかと思ったけど、全てが反転するとなると、あのもちもち羽毛が別物になってしまう。


 ......もういっその事、全て毟ってもらって、その羽毛を使って抱き枕を作成すればいいんじゃないか?


 ダメだな。それは鬼畜の所業だ。ぐぬぬぬ......


 懐いて欲しいんだよっっ!!あの羽毛に手を突っ込んだり、顔を埋めたり、抱いて寝たりしたいんだよぉぉぉ!!


 いつか絶対やってやるからな......ダイフクよ、羽の繕いとかをしっかりやって待っていろよ......


 そんな決意をしながら、メイドさん用とウチの子たち用のおやつを用意。

 俺は寂しいから散歩にでも行こうと思っている。寂しいから。


「テーブルの上の物は好きに食べていいからねー。俺はちょっとそこらへんブラブラしてくるー」


「「行ってらっしゃいませ」」と、メイドさんにハモられて少し感動。

 うるせぇ方も、ちゃんとメイドしていたんだな。



 さて、またソロ活動。

 ......いいもん。あの子たちのオシャレの為なら仕方ない。



 はぁ......いい機会だし、ここらへんで謹慎を解いてあげよう。


 はい、お勤めご苦労様でした。

 結構フラストレーションが溜まっていたみたいで、とりあえず振ってくれ!とお願いされる。


 反省もしているみたいなので、今回はコレで許してあげよう。


 振れそうな場所ある?と聞く。すると道案内を始める煽り刀さん。

 まぁいっか。一名様ごあんなーい。


 早足で歩く事十五分、樫みたいな木が生い茂る場所に到着。

 赤味がかっていたり、黒味が強かったり、青っぽいのや灰色のもある。


 何だこれ、ファンタジー色が強めな木だな。コレを切れって事?生物を切りたいとかじゃないん?


 ......切ってみれば解ると。鑑定する前にとりあえず切れ......ね、はい。わかりましたよー。


 一番手前の赤樫みたいな木を伐採。やっぱりこの刀、性格の悪さに目を瞑れば最高だなー。


 斬った木がズレていき、地面に倒れていく。


『ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!何故だ!何故お前はこんな事をするんだ......グハァ』


 ......ん?


『いやぁぁぁぁぁ!!アナタッッ!!アナタぁぁぁぁぁぁ!!』

『人でなし!あの人がお前に何をしたっていうのよ!!』

『いやっ!私を置いていかないでっ!死ぬ時は一緒だよって言ってたじゃない』

『パパッ!パパぁぁぁぁぁ!!』

『この悪魔めっ!!末代まで呪ってやる!!』

『神よ......私達が何をしたって言うのよ......こんなの......あまりにもひどすぎる......』

『約束したんだ、この戦いが終わったら結婚しようって......』




「......どういうこっちゃねん」


 懲りていなかったアホ刀を睨む。


「なぁ、嫌がらせがしたかったの?」


 ハイライトさんとお別れした俺の目が、懲りないアホ刀をジィッと見つめる。


 斬り甲斐のあるモノ、斬るとスカッとするモノ、嫌がらせになりそうなモノ......この三つが併さるちょうどいいヤツがコレだったらしい。


 まぁなんて言うかコレ、嫌がらせに全振りじゃないんすかね?


 ▼マンドラウッド

 木材としては大変優秀だが、伐採すると周囲の仲間を巻き込んで喚く

 劇団マンドラウッドとも呼ばれるほど、実はファンも多い

 善人や、初めて聞いた者は病む事が多い

 聞いてると段々クセになってくる者も多く、集団で生えている所を発見した者には報酬を与える団体もあるらしい▼



 ............刀を収納の奥の方へ。またいつか逢おうな。


『いやっ!いやよっ!私の身体はあの人だけの物よっ!!』

『殺してやる......殺してやる......殺してやる......絶対に許さない......絶対にだ!』

『パパぁ......ママぁ......』

『神よっ!あの悪魔へ天罰を!神罰を!』

『あいつと約束したんだよ!俺は......俺はァ!こんなところでは絶対に死ねないんだっっ!!』


 そうだね。プロテインだね。

 コイツらその場から動けないのか?そっか、もういいや。

 木材はあって困らないだろうし、なんかムカつくねんコイツら。


 大鎌を取り出して、喚いている劇団員を刈っていく。


『いやぁぁぁぁぁ!!私を穢さないでぇぇぇぇ!!』

『ま、ママぁぁぁぁぁ!!』

『地獄に落ちろォォォォ!!』

『私が死んでも......絶対に......絶対に!!......他の誰かが貴方を殺しに行くわ......よ......』

『もう一度......故郷の景色が見......見たかった......約束も守れない俺を......どうか許してくれ......』

『アッーーーーーーーーー!!』

『パパ......ママ......お兄ちゃん......どこ?どこにいるの?わたし、一人は嫌だよ......』



 阿鼻叫喚の伐採作業を終わらせて、木材をしまっていく。最後の方はどんなボイスが出てくるのか、少し楽しんでしまった。


 うん、戻ろうか。



 マンドラゴラとかも似たような事をするんだろうか......気になるから、生えているのを見かけたら一人で引っこ抜きにいこう。


 何故かわからないけど、今は無性にあんこを抱きしめたい。わかるよ最後のセリフを言った木......俺も一人は嫌だ。

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