第86話 一夜明けて

 テントを無事に張り終わって、その出来栄えにテンションが上がった俺は、ランタンを片手に川の方へ向かっていく。

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 リクライニングタイプのアウトドアチェアを取り寄せて、深く腰を下ろしていく。

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 リラックスしたいという思いが強かったのか、ちょっとクオリティが高すぎる椅子が出てきていた。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 あぁ......人をダメにするタイプだわこの椅子は......ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 もう腰を上げる気が起きない。動きたくなくなる座り心地。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 コーヒー片手に、マカダミアナッツ入りのチョコを摘みながら、ボケーッと川を眺め続けた。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 日が落ちてきて、辺りが暗くなってきたけれど、ケツと椅子がイチャイチャしていてちょっと動けそうもない。

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 川沿い特有の冷やされた空気と川の音、ランタンの灯りに癒される。 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 ここで数日過ごしてもいいかなと思えてくる......長閑でいいなぁ此処。

 今のところ変な虫や植物は確認されていないってのがポイント高い。

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 あのジャングルみたいな魔界を見た後だから、過剰にそう思えているのかもしれないけど。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 とりあえず此処は、永住候補地にノミネートしてもいいかもしれないな。

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 六月辺りだとホタルとかも見れるのかなぁ?これだけ水が綺麗なら可能性はありそう。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 この世界にホタル、もしくはホタルに近い生物がいてくれればいいなぁ......

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 予想以上に此処はいい場所で、今の俺は最高に贅沢な時間を過ごせている。

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 心配なのは、何故か異常なまでにこの場所へ惹かれていたピノちゃんが、何事もなく過ごしてくれればいいんだけど......

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 まだなにも動いていないみたいだし、今はこの贅沢な時間を楽しもうか。

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 明日になったら移動を再開するも良し、此処で数日まったりするも良し。

 今後のプランの事は、あの子たちと話し合って決めればいいや。

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 あれこれ考えるのはもう終わりにしよう。

 せっかくこんなに素晴らしい環境なんだし、楽しまなければ損だよな。

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 辺りは暗くなってきている。

 そろそろ日が完全に沈みそうなので、アルコールにシフトしていこうと思う。

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 夕飯はチキ〇ラーメンにする予定だから、飯の準備は必要ない。

 いい景色の場所で食べるチキラーはアホみたいに美味いからね。普段よりも格段に美味しくなる不思議。


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 贅沢な時間には、贅沢なお酒をお供にしたい。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 常温のブランデーを。みんな知ってる有名な銘柄のアレ。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 チューリップ型のブランデーグラスに、目分量でシングルくらいの量を注ぎ、ストレートでブランデーの芳醇な香りと深い味わいを楽しんでいく。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 冷たくすると香りが弱くなり、ブランデーのポテンシャルが死んでしまう。

 常温でストレートが基本的且つ絶対的な飲み方ってのが、ウイスキーに比べて敷居が高いポイントなんだろうね。


 慣れるまではキツいけど、慣れてくると世界が変わるので、高めの敷居を跨いでほしい。

 飲み方は人それぞれ合う物を飲むのが一番だから、とやかく言うことでは無いんだけど......


 それはさておき、ブランデーを楽しんでいく。

 20~30分をかけてゆっくりと舐めるよう一杯を味わう。


 合間にチェイサーを挟んだり、チョコを食べたり......


 二杯目を飲み終わり、三杯目にさしかかろうとした所で、あんこがこちらへやってきた。

 椅子に座って寛いだ体勢の俺の太ももの上に寝転んだ。

 何これ......すっごい嬉しい!可愛い!


 ピノちゃんは?と聞くと、あそこ!と前足でピノちゃんのいる方を差す。


 ......ん?


 お嬢様、俺には見えないっすよ。


「ごめん、見えないんだけど......」


 そう言うと、穴の中だよーと教えてくれた。肉眼で中は確認できなかったので探知で探る......


 うん、大木の洞の中で寝ているっぽい。


 何をしたいのかが全然わからないけど、寝ているだけだから心配する必要はないか。


 背中を撫でていると気が緩んだのか、お腹を上に向けるスタイルに変わる。

 せっかくお腹を向けてくれたのに、これを触らないのは失礼であろう。

 気合いを入れてぷにぷにの可愛らしいお腹を撫でていく。


 しっぽがユラユラ揺れている。


 気持ちよさそうにしてくれていて、撫でているこちらも嬉しい。


 お互いが満足するまでたっぷりイチャイチャを楽しみ、甘えてくるあんこにビーフジャーキーを食べさせたりといい時間だった。


 ピノちゃんが動く気配を見せないので、今日はもうそのまま放っておく事に。


 木の根元に煮卵をお供えしてからあんことお風呂に入り、テントの中で抱き合って眠りについた。


 イチャイチャするのに全力を出した結果ご飯を食べ忘れたけれど、そんな些細なことは気にならないくらい満たされた一日になった。

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 ◇◇◇ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 朝になり目を覚ます。

 昨日感じた視線は今日は無かったので、テントがいい仕事をしてくれたのかな?


 ゆっくり寝かせてもらえてよかったよ。


 ピノちゃんはこちらへ来ていなかったので、木の洞で一夜を明かしたみたい。


 すやすやと可愛らしい寝息を立てているお嬢様を、ブランケットの上に寝かせてからテントの外に出てご飯の準備を始める。


 ちょっとお腹が空きすぎて我慢できそうにないから、今日の朝ごはんは先に食べさせてもらおう。


 昨日食べ損ねたチキラーは朝から食う物ではないので、今夜にスライド登板。


 お腹が空きすぎていたので、用意した卵かけご飯と豚汁をあっという間に食べ終えた。


 掻き込みやすい両者のせいだね。


 やや物足りないので、卵かけご飯をおかわり。

 二杯目は塩こんぶを追加し、こちらもあっという間に食べ終えた。


 テントに戻って寝ているお嬢様の頭を撫でていると、外泊していたピノちゃんが帰ってきた。


 朝帰りとかお父さん悲しいですよ......


 ............おや?なんか結構デカくなってる。


 手首から肘くらいの長さになっている。

 お顔は相変わらず可愛らしさを保っていたので一安心。成長しても可愛らしさは無くさないでね!!


「おかえりなさい。大きくなったねぇ」


 頭を撫でながら続ける。


「ご飯は食べた?新しいの用意しようか?」


 オカンみたいな事を言ってるなぁと思って苦笑い。

 ピノちゃんは煮卵に気付いていなかったみたいで、まだ食べてないと答えた。


 着いてきて欲しいと言われたので木の洞まで移動。穴の中へと入っていき何かを咥えて戻ってきた。


 あ、そっか。脱皮したんだね。


 どんな理論でデカくなっているんだろう。

 あげる!と言われて二個目の抜け殻をゲット。


 お礼を言ってからご飯をあげる。

 放置していた煮卵は今夜チキラーに入れて食べようと思う。


 ご飯を食べ終えたピノちゃんに、何があったのかを聞いてみた。

 不思議な力の溜まり場みたいな木で、そこで力を貰いながら脱皮したんだって。


 パワースポットとかそういった感じなのかあの木は。


 まさしく御神木とかの類やんけ!!


「この子の成長を手助けして頂き、ありがとうございます」


 手を合わせて一礼。どうすればいいかわからないから日本酒をお供えしておいた。


 余計なトラブルを招きそうな場所でもあるので、数泊する計画は白紙に戻して移動することにしよう。


 大きくなったピノちゃん。

 胸ポケットに入るには、ちょっと大きくなりすぎたかも。


 ちょっとだけ悲しい。成長しても親離れしないでね!!


 お嬢様が起きてきた時に、ピノちゃんの姿を見てどんなリアクションをするのか楽しみだ。

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