第82話 魔族領域へ

 地上に出るのに良さそうな場所を探知できたので、方向を伝えてそっち方向へと舵を切る。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 はっきりとはわからないけど、周囲に強い気配はなく、遮蔽物の多い場所で砦からも見えない場所......まぁ十中八九森なんだろうけどね。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 何のトラブルもなくポイントに到着したので、地上に出る為に上に向かって掘り進める。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 目標としているポイントの真下から掘り出してしまったので、ちょっとズラす羽目になってしまうドジをやらかした。


 そのドジを間近で観察していたピノちゃんに、なにやってんのさ......って溜息を吐かれながら言われて悲しい気持ちになる俺。


 外に出た後に、真上にそのまま出られたなって事に気付いて余計悲しくなったのは内緒。

 ......こっちのやらかしはバレなかったと思う。多分。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 無事に外に出られた。目撃者やその他はいる気配は全く無い。

 日が傾きはじめていたので、出口の穴を埋め、そのまま野営の準備に取り掛かる。


 準備をしながら本日のMVPのお嬢様を労おうと考える。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 しかし、どんなに考えても普段やっている事しか思い浮かばなかったので、準備するのを途中で止め、お嬢様に直接何かして欲しい事や、食べたい物が無いかを聞いてみる事にした。


 今日の穴掘りがとても楽しかったのか、大型犬サイズのままご機嫌に歩き回っているお嬢様を呼び寄せる。


 急いでこちらへやってきて、胡座をかいている俺の足の上にすっぽりと納まった。

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 あぁん......この幸せシチュエーション最高ッッ!!ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 向かい合って抱きしめる形で背中をヨシヨシと撫でる。俺の肩に顎を乗せて、ダラっと力を抜いてリラックスしてるお嬢様が可愛すぎる。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 身体の全神経をフル稼働させて、モフみ全力で味わいながらガッツリ撫でていく。

 俺はもふもふして幸せ、お嬢様はモフられて幸せ......ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 あぁ、素晴らしきかな......このwin-winの関係は。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 しばらくモフっていると、落ち着いたお嬢様から要望があった。

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 サクサクしたお魚が食べたいと。

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 一瞬よくわからなかったけど、言っている事を理解できたら微笑ましく思えた。

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「天ぷらが食べたいんだね。サクサクしているのは衣って言って、あの料理は天ぷらって言うんだよー」ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 目をキラッキラさせてふんふんと頷くお嬢様が可愛い。今後の為にもいっぱい作っておかなきゃ!!ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 お嬢様におねだりをされたのと、魔族側の領域にやっと到着した事でテンションの上がっている俺。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 人間界からの脱却記念と銘打って、今日は少し豪勢なお泊まりにしようと思います!!


 キャンプっぽい雰囲気を出すために、タープとランタンをお取り寄せ。

 会社で強制参加させられた夏のバーベキューの時に、性格最悪のお局ばばぁの為に設営させられた事があるからやり方はわかる。

 ......悔しいけど、その時の経験が役に立った。絶対に感謝なんてしねぇけどな!

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 テキパキと設営をしていき、完成したのでランタンに火を灯す。


 ............おぉぉぉ!!それっぽい!!

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 ちゃんとキャンプしてるぞ俺!!

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 こんないい気分になれるのなら、面倒くさがらずにちゃんとやっておけばよかった。

 いつもと違う光景に、お嬢様とピノちゃんも興奮している。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 ソワソワしていたピノちゃんは、シュルシュルと器用にポールを登っていって、張ってある布の上ではしゃいでいる。

 斜面になっているのにどうやってるんだろうなアレは......


 ......まぁいいか、楽しそうにしてる事だしこのまま好きにさせておこう。


 さて、俺はリクエストのあった天ぷらを揚げていこうじゃないか。

 この前は炭酸水でやったけど、ビールでも美味しく出来るって事を思い出したから今回はそっちで。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


 今回はストック作りも兼ねているから、鍋を三つ使ってどんどん作っていこう。


 メインの川魚に、カニカマ、ちくわ、れんこん、半熟玉子、ナス、ごぼう、にんじん、ししとう、イカ、エビなど......


 メジャーなのは一通り揚げ、個人的に好みの物も追加で揚げていく。


 サンガ焼きならぬサンガ揚げ、角切りのお餅、モッツァレラチーズ、もみじまんじゅう、こしあんとつぶあんのまんじゅう、モナカアイスなど......

 そしてじゃがいも丸ごと素揚げ、ポテトチップス、フライドポテト、ニンニクの素揚げも作成した。


 衣作りに使ったビールの残りを飲みながら次々と揚げていく。


 揚げている最中に食べたくなってしまったので、とり天、唐揚げ、竜田揚げ、ロースカツ、ヒレカツ、タコ唐揚げの下拵えを並行して行いながら。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


 これらは夕飯を食べ終わった後に、ゆっくり揚げていく予定でございます。


 仕込んでいる物以外をようやく揚げ終わる。

 お嬢様はソワソワしながらこちらをジーッと見つめていた......お待たせして申し訳ございません。


 遅くなったけどご飯出来たよーと言おうと、ピノちゃんの方に目を向けると可愛らしい場面を目撃できた。



 なんと、タープの天辺でとぐろを巻いてリラックスしていた。


 可愛い光景にインスピレーションを受け、いずれ作るお家の屋根飾りにシャチホコピノちゃんと、お座りあんこを作成する事を心に決める。


 きっとこれらは守り神となって、火災や水害からお家を守ってくれるハズだ。



 面白い光景を見せてもらっているけど、ここは心を鬼にしてソレを中断させなくてはいけない。


 ご飯だよーと呼びかけると、普通に降りてきてくれた。

 あそこで何してたの?と訊ねると、なんか気持ちよさそうだったから......と曖昧なお返事。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 きっと動物の本能が刺激されたんだと思っておこう。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ



 さてと......それでは第二回天ぷらパーティーを始めます。


 それぞれに食べたい物を聞いて、望んだ物をお皿に取り分けていく。


 お嬢様は川魚三種と、意外にもカニカマ天をリクエスト。

 いつもより食べるなぁと感心していると、美味しいからいっぱい食べるの!と嬉しそうに言った。


 食べられる量と、食べる物が増えてきてくれたのが嬉しい。

 これから色んな物を食べていこうね。

 撫でてあげるとクゥンと一鳴きしてからガツガツと食べ始めた。


 ピノちゃんはいつものお餅と、これまた意外......ちくわをチョイスして食べ始める。

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 練り物かー......白くて弾力があるもんねー。

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 気に入ったの?と聞くと、コレ好きってお返事があった。

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 ふふふふふ......なるほどなるほど。

 こうやってたくさんの種類の物を用意してあげれば、気になった物や、好きになりそうな物を自分で選んでくれるんだね!

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 俺、また一つ賢くなったよ!

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 あの子たちの好物が増えたのを喜びながら、俺も揚げたての天ぷらを食べ始める。

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 ビールと炭酸水の違いは......よくわからないけど、炭酸があればサクサクの衣になるのはわかる。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 こうやって、異世界でも日本で馴染み深い物を不自由なく食べられる幸せ。

 食文化がガラッと変わるとストレスで死んでまうわ。あと絶対に胃が環境の変化でやられる。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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 美味しそうに食べているお嬢様とピノちゃんを眺めて満足しながら、日本酒をちびちび飲りつつ天ぷらを楽しんでいった。

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