第70話 鳥と不思議な現象
「なぁ、もう記憶は読めただろ?俺の言ったことは真実だって事を理解できた?」ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
返事はまだ返ってこない。
なのに今はイライラした気分は無くなってしまい、毒気が抜かれてしまった感じになっている。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
鳥が難しそうな顔をしながら考え事をしているという、普段見れないモノを見ていたら気が抜けてしまった。
ここに来たのは本当に偶然だったんだよ。
理由を教えてくれてこっちに非があるのがわかれば謝るから、そろそろちゃんと話をしてくれないかなぁ。
隔離された地って言うくらいだから封印とか、障壁とか、なにかしらの妨害工作を施してるんだよね?
俺には何も感じられなかったから、そっちの対策不足だと思うんだけど......
『......すまなかった。ここへ来たのは本当に偶然だったんだな』ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
......あら意外。
普通に謝罪をしてきた。
無駄に会話なんかしようとしないで、最初から記憶を探ってくれていたらもっとスムーズに事が進んだのに。
『この土地の事は誰にも話さないで欲しい。その小屋は友との思い出の地であり、形見でもある。だから人が来て荒らされたりしたくないのでな』
おっと......形見の土地に俺らは滞在しちゃってたのか。
うん。そこはごめんなさい。
「知らなかったとはいえ、思い出の土地に無断で踏み込んでしまって申し訳ない。そういう事ならすぐに出ていくよ。
この土地の事は誰にも話す事はないから安心してほしい」
『うむ。悪いがそれで頼む。我の名はムニン、友から貰った名だ』
......確かなんかの神話に出てくる鳥の名前じゃんか。こいつの言う友って転生者だったりするのかな?
コイツが神話に出てくるような生物か、この世界特有のモンスターなのかが気になったので鑑定してみる。
あー、なるほどね。
「俺はシアンだ。勝手に踏み込んで、更には失礼な態度をとって悪かった」
俺がそう言うと、ヤツは返事もせずに飛び去って行った。
なんだったんだろう。説明が足りなすぎる。
まぁ知恵が少しついた喋れる鳥なんだし、所詮そんなものかと思っておく方がいいか。
なんでそんな風に思えたのかは、鑑定結果を見たらそう思えてしまったから。
▼シュルードレーベン(ムニン)
名が付き半精霊化したカラス型モンスター▼
狡賢いカラスが人と仲良くなって名前を貰ったんだね。そして進化して今に至ると。
アイツはそこまで強くないみたいだし、ジャミングかなんかが俺には効果がなくて、ココに入れたんでしょう。
寝ているお嬢様とピノちゃんを、起こさないようにソーッと抱きあげる。
そしてゆっくりとその場から離れていった。
ぬかるんでいて揺らさずに移動するのが難しいけど、意地でも不快な揺れは感じさせたくなかったので、かなり気合いを入れて走っていった。
今から寝床を探すのも面倒だし、地面はドロドロ。こんな地面に寝かせるのだけは避けなくてはならない。
良さげな木が生えている場所を見つけたので、今日はもうここで休もうと思う。木と木の間にハンモックを設置して、あんことピノちゃんをハンモックの上に寝かせてあげる。ゆっくり寝てね。
俺は地面にブルーシートを敷いて、その上に寝転がって眠った。
◇◇◇
ぺろぺろ......ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
ぺちぺち......ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
顔に幸せを感じて目が覚めた。
珍しく俺よりも早く起きていたあんことピノちゃんが、俺を起こそうと頑張っていた。
時間を見てみるといつもの起床時間よりも二時間くらい遅い時間で、単に俺が寝坊しただけだった。
ごめんねと謝ってからご飯をあげる。
昨日はずっと寝ていて、夜を食べていなかったからお腹が空いてるみたいで、朝飯への食い付きが凄かった。
少食なピノちゃんもおかわりを要求してきたので少し驚いた。最近食べられる量が増えたのかな?
俺もお腹が減っていたので、チーズ入りのハムカツをパンに挟んでガッツリめな朝食を食べる。朝から揚げ物。
朝食を食べ終わってタバコを吸っていたら、起きたら場所が変わっていたけど何かあったの?と質問をされる。
夜中に変な鳥がやってきて、ソコは思い出の地だから~って事を言われて大人しく退去したんだよってふわっとした返答をした。
説明を終えると、お疲れ様......みたいな感じで肩に前足を置かれる。
その様子が凄く可愛くて癒される。やっぱりこの子は俺の癒しだ。
お嬢様に説明していて思ったけど、これから精霊系の出来事は、全て超常現象の類いとでも思っておこう。
真剣に向き合ったとしても、俺には多分理解できないし脳味噌の無駄遣い。
思考を放棄して、皆で朝風呂タイム。昨日の夜に入れなかったからね。
触れ合いが少なかった分を取り戻す為に、思いっきり触れ合いを楽しんだ。
朝に風呂へ入るのも気持ちいいけど、やっぱり夜にちゃんと入るのは大事だなぁと思った。
風呂に入ってリフレッシュできたので、今日も移動を頑張ろうと思えた。
まだまだ続く旅だけど頑張って進もう。
◇◇◇
そこから三日間移動を続けて、ようやく国達の中央にあるダンジョンへと辿り着いた。
広すぎるでしょ。多分普通の人達だと半月以上はかかるぞ。
ダンジョンへと近づくにつれて、複数のパーティが組んで移動していると思われる冒険者のグループや、馬車で移動している人達が多く見受けられるようになってきていたので、方角を間違わずにちゃんと進めていたんだと安心できた。
その中で一組、ちょっとだけ気になる集団を見つけた。
一際豪華な鎧を装備している男女が四人と、ボロボロの衣服を着ている男が三人と女が二人、偉そうにしているガキンチョが一人のちぐはぐな集団。
ガキンチョの性別は見た目ではどっちなのか判断できない。遠いから鑑定もできない......まぁどっちでもいいか。
ボロボロのヤツらは奴隷なのかな?目が死んでいて、あんな雰囲気の人は日本でも見た事ある。
こっちに来てから奴隷とは遭遇していたのかもしれないけど、見た目では一般人と見分けはつかなかったから気にもとめていなかったから、はっきり見れたのは今回が初めてだった。
あんな扱いだとモチベーションが上がる事なんてなさそう。こっちだとエナドリドーピングも出来そうにないし。
男の奴隷の一人には、よく見ると親指大の角みたいなのが生えている。
魔族?亜人?どちらにしろ初めて見れたので、少し嬉しかった。
偉そうなガキンチョが、このチグハグなパーティの主だろうけど、ダンジョンに挑むんならそれなりの扱い方をしてあげた方がいい成果を挙げてくれると思うよ。
死んだ方がマシとでも思っていたら、足を引っ張られた挙句に全滅もありえるからね。
まぁ......皆さん死なないように頑張ってね。
こんな最高難易度らしいダンジョンでも挑むヤツらは多いみたいで、さっき見たヤツらの他にもかなりの数のパーティがいる。
それに伴って商人たちも多く存在していて、ダンジョン付近に作られている街みたいな所は、最初に行った街よりも賑わっていて発展もしている。
このダンジョンに挑む時があれば少し活用させてもらおうかな。
しばらくダンジョンは遠慮したいので、遠目からチラッと見るだけにしておく。
.........
...............
あれ?なんで俺は今ダンジョンを見ているんだろう。
普通に違和感も無くダンジョンの方へと向かっていた。つい先日地理などを頭に叩き込んだばかりだったのに。
このまま進んでいったら連邦国へ行ってしまうやんけ......
ダンジョンの方に向かうように誘導されていたとか?そんな訳はないだろうけど、無意識にそちらへと向かってしまったこの現象はなんだろう。
この事が凄く気持ち悪く思えてきたので、急いで方向転換。
帝国方面へ向かって走り出した。
なるべく急いでこの場から離れる。
この場に長く留まっていたら、なにかしら悪い事が起きてしまい、それに巻き込まれてしまいそうに思えたから。
こういうホラーみたいな現象はガチでやめてほしい。本当に気持ち悪い。
俺の精神に干渉される事なんてないハズなのに......ダンジョンから何か電波みたいのが出ていて、それが俺になんか影響を与えていたりするのか?
あのジジィのダンジョンでもなんかされていたっぽいし、これが正解なのか?
わからん!ダンジョンってなんなんだよ!
その日は、日が暮れるまで走ってダンジョンから離れた。
血相変えて走っている俺に、心配そうな視線を向けているあんことピノちゃん。
心配させちゃってごめんね。俺が落ち着けるまで待っててくださいませ。
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