第69話 不思議な小屋と鳥頭
お昼を回ったので、ここら辺で一旦昼食休憩をとる事にした。
俺のテンションはまだ下がったままだけど、まぁまぁ元通りになってはいるので、お嬢様は俺に優しくなってきてくれている。
もう気持ち悪くなっちゃダメだよ!と念と肉球を押される。気持ちよかったです。
イエス、マイプリンセス。仰せのままに。
曇り空の下、レジャーシートを広げてピクニック風のランチタイム。
食べ物はいつものだから、気分だけのピクニックだけど、それでも楽しい気分にはなれる。
焼いたお餅とビーフジャーキーを、今日も俺の手から食べさせてあげる。美味しそうに、そして嬉しそうに食べている姿が可愛い。
直接食べさせてもらうのが嬉しいのってどんな意味があるんだろうか。ちゃんと調べておけばよかった。
俺の今日のお昼ご飯は魚肉ソーセージを一本。さっきまで団子を食べていたから、全然お腹が空いていなくてこれだけで満足です。
天使たちとの触れ合いを優先したランチタイム。ずっとベタベタしていたくなるけど、早く移動しないと雨が降ったらやばいので、泣く泣く諦めて移動を優先する。
午後からの移動はいつ雨が降ってきてもいいように、木が生えている所の近くを進んでいる。
ここら辺の土地は、特別変わった事など特にないただの草原が広がっているだけなので、何も考えずに移動していく。
それでも前回の草原が地獄のように思えた感覚は全然やってこないので、穏やかな気持ちのまま進んでいけている。
移動の途中で鬼ごっこをしたくなったお嬢様に付き合って、走り回る時間があったりもしたけれど、他には何も起きず草原を進んでいった。
おやつの時間くらいになった頃に、ここまで平和に進んでいた移動の時間が終わってしまった。
急に空からゴロゴロと雷がスタンバイしている音が聞こえてくる。
そこから間髪入れずに雨が降ってきた。
うん、降り出してきやがりましたよ......
お嬢様が小さくなって俺のシャツの胸元から顔を出すスタイルになる。この位置にいてくれると凄く落ち着く。
胸ポケットにはピノちゃん、胸元からあんこのスペシャルなコラボとなった。実に素晴らしい。
今日は雨が降りますよーって予兆は最初から見せていたけど、降りそうになってから降り出すまでが早いよ......
この感覚は完全にゲリラ豪雨だ。懐かしさすら感じるくらい......よく被害に遭ったもんだ。
雨粒がデカいし、勢いがすごい。肌にビチビチ当たる。
探知してみたけれど、近くに避難出来そうな場所が無かったので、雨の中を走って避難場所を探していく。
走っていると、俺の移動速度で5分ほど離れた場所に建物らしきものを感知。
人やモンスターの気配は感じられないので、そこまで急いで向かう事に。
かなり遠い所まで探知できるようになったし、成長したな俺も。
こんな大雨の中なのに手古摺っていてごめんね。本気を出して移動するからもう少し待っててほしいです。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
全力で移動してやっと辿り着けた場所は、完全に罠だと思えるような見た目の、怪しい小屋だった。
普通の掘っ建て小屋の様に見えるけど、外観だけは綺麗な新築っぽさを醸し出している。
しかし建物の周囲の草は伸び放題、手入れされている形跡は0。
うん。すっげぇ怪しい。渡りに船な現状と、不自然なキレイさの小屋。
一応鑑定して罠かどうかを調べてみた。
▼魔樹材の小屋
とある大工が魔樹を使用して作成した小屋
大工の技術と木材の品質、そして土地の魔力を吸収しているお陰で劣化するスピードが極限まで抑えられている▼
......あーうん。怪しい建物ではなさそうですね。
しかし、また魔樹のチートが明らかになってしまった。木材になっても魔力を吸収して蓄えるのかよ。
一応ここへ泊まってみても大丈夫か、お嬢様とピノちゃんに確認をとってみる。
何があっても大丈夫でしょ?とお嬢様とピノちゃんが仰った。
ここまで信頼されているのに俺が怖気付くのはカッコ悪いか。なにがあっても俺がどうにかしちゃうよ!!
よっしゃ!今日はここに泊まらせてもらおう。入りづらいし、なんか変な虫がいたら嫌なので、草をブラックホールで刈り取ってから小屋へ入る。
中には何も家具の類は無くて、家具の残骸らしきモノはあった。
間取りはただのワンルーム。Kは無い。
不思議な空間だなぁ......
どんだけ長い時間放置されていた建物なんだろう。
念入りに探知をしてみるも、何かが潜んでいる気配は感じられない。
これなら安心してもいいかな。
それでも俺だけ被害を受けるならいいけど、うちの天使たちに何かあったらいけない。
不足の事態に備えて、安心6:警戒心4くらいの気持ちで過ごす事にした。
家具の残骸や埃を片付けてから、ロッキングチェアと畳を床へ出していく。
あんこは椅子へ、ピノちゃんは畳の上にそれぞれ向かっていってダラっと寛ぎ始めた。
この子たちから信頼されている事を、野性味が全く感じられないその姿から感じて少し嬉しい。これからも可愛い姿だけを俺に見せてください。
誰も侵入出来ないように罠をセット、ここまでやってようやく一息つけた。
この小屋の中はフローリングと壁、柱と天井だけしかないので、料理や入浴が出来そうもない。
外に炊事場とかもあったのかもしれないけど、既に何も残っていなかったので、この部屋でやれる事は大人しく寝るくらいしかなさそう。
魔樹の木の性能がわかったって事だけは収穫だったこの小屋。
天使たちはもう寝てしまったので、やる事がほんとに無い。
建物に打ち付ける雨の音と、鳴っている雷の音を聞きながら俺も横になって目を閉じた。
◇◇◇
多分今は夜中なのかな?変な気配を感じて目を覚ました。
天使たちはぐっすり寝ているのでここは安心。ゆっくり寝てていいからね。
外に出てみると雨は既に止んでいたが、地面はぬかるんでいて、ぐちょぐちょとしていて気持ち悪い。
泥が跳ねてくるのは勘弁してほしいっす。
変な気配のヤツはすぐに見つかった。というか目の前に居る。
なんかふわふわ浮いている変な黒い鳥だった。
飛んでいたり、ホバリングしてる訳でもなく、ただふわふわと浮いていた。
その浮いてる鳥が俺に向けて話し始める。
『ここで何をしている』
喋る動物は初めてだ。イカつい話し方の割りに声は高い。
何をしていると言われてもねぇ......ただ雨宿りしていただけだ。素直に答えてみるか。
「急に雨が降ってきたから、雨宿りできる場所を探していたらここを見つけて、そ のまま滞在しているだけだ」ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
なんかコイツ偉そうだし、こんなヤツに敬語なんて使う必要ないだろということで、態度は変えない。
『ここは隔離された土地であり、人如きが辿り着ける場所ではない。
貴様何をした?ここに来た本当の目的はなんだ』
えぇー......ちゃんと本当の事言ったんですけど?
話を聞く気ないのなら質問しないでほしい。そもそもお前誰なんだよ。
「理由は言った通りで、そんな場所だったなんて知らない。知ろうとも思わない。
そもそもお前は誰で、ここと何か関係があるのか?人如きに侵入されて焦っちゃったんですかー?」
コイツのことが気に食わないので少し煽ってみる。
これで怒るならその程度のカスだし、話なんかできないだろ。
『人間風情が調子に乗りおってからに。ここは隔離された地であり、人如きが来れる場所では無いのだ』
なるほど。でもお前は誰なんだよ。
「普通には来れない場所だったとは理解できた。それで、お前は誰だって質問には答えないのか?」
『我の名なぞ貴様が知る必要などない。どうしても真実を言わぬと言うのなら、言わぬでも良い。貴様の脳へ直接聞いてやる』
見下しすぎだろ。このクソ鳥。
最初から真実しか言ってねぇよ。
やっぱり鳥は鳥だわ。最初からソレをやれば無駄な問答しなくて済んだだろうに。
賢そうに話してるけど、こいつバカなの?鳥頭なの?
こんな事を考えてたら鳥頭がピクッとしたので、現在俺は思考を読まれてるっぽい。
その能力いいなーと思いました。宝の持ち腐れになってるからちゃんと使ってやれよ。
なんで俺に絡んでくるヤツって、こう......なんていうか頭のイカれた話の通じないヤツばっかりなんだろう。
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