第68話 練習と猛省

 目が覚めて周囲が暗い事に違和感。

 起床時間は無駄に正確になっている俺なので、朝なのは間違いない。

 時間を確認してみると、いつもと変わらない時間だった。その原因は空を見ればすぐわかりました。


 今日は昨日の快晴とは打って変わって、真っ黒な曇り空だった。なんか今にも雨が降ってきそうな空。



 曇っているというのもあるし、そろそろ秋に変わるのかなと思えるような、少し涼しさを感じる空気も相まって過ごしやすい気温なので、曇りで全然おっけー。


 まだまだ野宿でも問題ない、丁度いい気温なので必要性を感じないけど、もう少し寒くなってきたらテントとかも必要になってくると思う。いい感じのテントの候補だけは考えておこう。


 朝食は簡単にコーンスープと食パンで済ませた。昨日の油物暴食であんまり食欲が湧かなかったけれど、何かを胃に入れておかないとダメそうな雰囲気だったから、あの子たちが起きる前だけど先に食べさせてもらった。


 日本にいた頃から食欲のない朝とか、コーンスープに浸した食パンさんにはとてもお世話になってました。

 相変わらず美味しかったです。



 まだまだ朝早い時間帯。

 あの子たちは起きそうにないので、いい機会だし魔法でも練習しようと思う。ちょっと試してみたい事もあるので。


 攻撃の手札はもう十分足りているから、それ以外の普段使いできそうな魔法をまずは試してみようと思う。



 とりあえず考えていたのは、暑い時やちょっとした時によく使えそうなミストシャワーみたいなのを。




 超々小さい水滴を大量に出してみる......




 出来たっちゃ出来たけど、効率が悪い。考える事が多すぎる。きつい。

 浴びた感想は普通のミストシャワーに似ていたから成功と言えば成功かな?


 次はさっきと同じサイズの水滴を一つ出して、それを大量にコピーするイメージでやってみる......



 これは楽だった。だけどさっき試したモノより少し時間がかかってしまう。

 浴びた感想はさっきよりも気持ちよかったと思う。前のと比べて気持ちよかった理由は、何がよかったのか全然理由がわからない。


 お次はもう、単純に霧をイメージしてみる......



 凄く楽に出来た。だけど浴びた感想はべっちょりしてて不快。

 これは無いなぁ......霧に良いイメージ持ってないからだろうか?


 最後にネタっぽくお試しを。

 手から霧吹きみたいにシュッと吹き出させてみる。


 おっふ......想定よりも強い勢いで浴びてしまった。でも勢いを調整すれば一番気持ちいいかも。

 吹き出し続けるのもイけたので、これは採用かもしれない。


 こういうのは余計な事を考えない方がいいのかね......なんか納得いかない。



 それでは本日の大本命。闇魔法と幻影を使う合わせ技をやっていきましょう。




 闇魔法で真っ黒な一枚の布っぽいものを作成。それを宙に固定し、幻影を使用してお嬢様とピノちゃん、それと背景を作成。


 それを劇のように動かしてみる......



 あー......うん。俺にはこれをやれるセンスがないようだ。

 これはピノちゃんに頼むのがいいかもしれないけど、人形劇みたいなのを上演してあげたい......無念......


 なんで上手く動かせないんだろう?カクカクしてしまう。


 ぐぬぬぬ......猛練習するしかないか......

 今後に期待だ。思い通りに動かせるようになりたい。


 上手く出来れようになれば、後々幻影あんことわんこの大群に埋もれられると思ったのに......イメージはしっかり出来ているし、魚の時は上手くいってたのになぁ......



 悲しい気分になってしまった。

 なにか気分転換になりそうなモノを投影してみよう。


 先程の実験で、背景は上手く作れていたから桜の木を数本イメージして出してみる。

 綺麗な風景を見れたら気分も上がると思って。


 これはものすごく綺麗にできた。

 何がいけなかったんだろう?でもこれ程のクオリティで出せるなら文句の付けようがない。

 綺麗だからいいや。問題や疑問点は先送りにして、タバコでも吸ってゆっくりしよう。



 あー落ち着く。

 こんな光景が毎年見れる日本なんだから、アーティストも桜を題材にして毎年歌うわな。


 花粉さえ......花粉さえ飛ばなきゃ毎年付き合い以外でもお花見をしたのに。



 この景色でタバコだけな事が勿体なく感じたので、花見らしい気分を味わおうと三色団子を出して食べる。

 花と団子。最高の組み合わせだ。




 団子を三本食べ終えると、お花見気分を味わえてちょっとテンションが上がった。

 そろそろあの子たちが起き出す頃合いだから戻るとしましょうか。




 そう思い、戻ってみたけどまだ寝ていた。どんな夢見てるのかなぁ。

 可愛い寝顔に嬉しくなって、寝ているのを起こさないよう慎重に撫でる。


 撫で始めると、しっぽがゆらゆらと揺れだしたからいい夢が見れてるのかなー?

 ピノちゃんもしっぽの先が揺れている。可愛いな。


 うん。可愛い。

 今日の俺は朝から変なテンションになってしまっている。自分でもテンションがおかしいと思ってはいるのだけど、好奇心が止められない。


 ......しっかり寝てるからちょっとくらいイタズラしてもバレないよな。気配的にも熟睡しているのは間違いないと思う。


 よし、やろう。







 寝ているピノちゃんのゆらゆらしてるしっぽを咥えた。









 .........何してんだろ俺。一気に冷静になったわ。

 すべすべで不思議な質感だった。うん。

 目に入れても痛くない程可愛い子。ペットとかをそうしてみたいと思う人もいるよね。


 でも実際にやってはいけない。せめてキスに留めるべきだ。



 この事故の事はずっと心の奥底にしまっておこう。絶対に事が露呈してはいけない。


 ごめんねピノちゃん。


 あんこにも何度かしようと思っていました......ごめんなさい。

 自分の気持ち悪さに激しく絶望してしまう。

 今日一日、反省の為に使おう。テンションの上下の仕方が完全にヤバい人になっている。



 心を殺せ。歯を食いしばって下を向こう。



 今日の俺は無になる。


 そう決めて大人しく待っていると、お目覚めの気配がした。

 起きてきたお嬢様とピノちゃんに、おはようと挨拶してからご飯をあげる。


 朝食を食べ終わった後は、あの子たちが食事をしている間に用意しておいたお風呂を勧めた。

 いつもと違う俺に戸惑っていたけど、お風呂に入っていった。



 朝起きたらノーテンションの俺に戸惑っている御二方。こうなってる理由は説明できないんだ。ごめんよ。

 わかりやすい形にしておこうと、首に紐付きのホワイトボードを掛け『反省中、自制中』とデカデカと記載する。

 これで頭の良いあの子たちは、この状況を察してくれると思う。


 あの子たちが風呂から上がるのを、正座をしながら待った。



 風呂から上がってきたあんことピノちゃんが俺を見て、溜め息をつく。


 そして今まで見せたことが無い冷たい目をしている。

 泣きそう。そんな目で見ないで......


 凹んでいる俺に、大型犬サイズになったあんこのガチビンタが飛んできた。


 気持ち悪い!元に戻れ!とビンタを連発してくる。痛みはないけれど、衝撃が強いのでガチのビンタらしい......本気で嫌がっているみたいだ。


 ......俺の決死の覚悟なんてそんなもんか。


 気持ち悪くてごめんなさい。


 なるべく普通になるように努力します。でもすぐには割り切れないから待ってて。


 謝りながら抱きついた。


 いつもと比べればかなり緩い行動してるけど、それでも満足したようで、わかればよろしい!とほっぺを舐めてくれた。

 ピノちゃんの事はちょっと今直視できないけど、様子はいつもと変わっていない。



 シアンはㅤ自重をㅤ覚えた▽



 ごめんねとピノちゃんを撫でる。

 謝られたピノちゃんは、???な感じになっている。

 そんなピノちゃんからはやる事が極端と言われた。その通りです、申し訳ありません。


 謝られる理由に心当たりがないならそれでいいです。気付かれてなくてほんっとーによかった。


 自制を頑張ろう......思い付きで行動するのはダメ。

 行動に移る前にちょっと思考するのが大事。俺覚えた。


 こんな俺でも、しっかり心配してくれる優しいエンジェル達。

 その後は今日の予定について話をして、雨が降ってきそうだから、いつでも避難できるようにしながらのんびりと一緒に歩いて進むことになった。


 予定も決まったので、片付けをしてから出発した。


 出発してからのお嬢様は、俺にぴったりくっ付いている。

 両肩に前足を乗せて、おぶわれているような格好。片方の肩に顎も乗せている。


 ピノちゃんはポケットにインするいつものスタイル。


 迂闊な行動はこの幸せを、一瞬で瓦解させる恐れがあるんだって気付き、戦慄する。

 綱渡りすぎな行動だったんだなと、悟られないようにガチ反省。



 今どこらへんなんだろう。あの地図の縮尺がどれほどの物かよくわからなかったから、位置関係くらいしかはっきりしてない。

 ダンジョンが見つかれば半分進んだ事になるから、あんまり気にしなくてもいいか。


 時間だけはたくさんあるんだし、細かい事は気にしないでゆっくり進みましょう。





 てくてく歩く。日差しが無いので涼しめだから気持ちいい。この感じなら温度調整要らないかもしれない。


 着替える為にちょっと降りてもらう。

 アラクネシャツに着替えて、あの変な森を脱出した日以来のお外でラフな格好。


 シャツの胸ポケットにピノちゃんを移して、あんこをまたおんぶする。


 いつもと違う背中の感覚が気持ちいい。

 風とか空気を全身に浴びるのもなかなかいい物かもしれない。気温が高くない時なら、ローブ無しで行動するのもいいな。


 さっき食べた三色団子が結構美味しかったからまた食べながら歩く。


 甘いもちもち。たまにはこういったドシンプルなのもいい。


 ピンク色のをお嬢様に、白いのをピノちゃんに、緑色のは俺。

 一本を分け合って皆で食べた。

 どちらも普通に食べている。気に入るかな?


 こういった事はなんか“家族”って感じ強く感じれていいなぁ。



 あんこもピノちゃんも普通だったっぽい。残念、刺さらず。

 でもどちらも嬉しそうにしているのでよかった。



 しっかしこの子たち......いつも思うけど何なら刺さるんだろうか。

 え?それ!?って感じのが刺さるんだよなぁ......

 またなんか食べる時に食べさせて反応を伺ってみよう。

 見分け方はお嬢様の場合はしっぽの角度、ピノちゃんの場合は食べるスピードでわかる。


 もっとスイーツを気に入って欲しい。

 一緒におやつタイムがしたいんです。


 次のもぐも〇タイムに期待しましょう。


 朝から色々起きたけれども、移動時はとても穏やかな時が流れていった。

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