第67話 草原ソリと茶色い夕食

 昼過ぎまでノンストップで走り続けたお嬢様。俺がダンジョンで感じていた罪悪感はもう感じていない。

 あの時は俺からお願いしたけど、今回はあんこからおねだり。やりたい事はやらせてあげたいし、あんなに嬉しそうなあの子を止めるなんて俺には無理だもの。


 まだまだ走り続けられそうだけど、お昼を過ぎたので一旦休憩をとろうと提案したらすぐに止まってくれた。さすがにちょっとお腹も空いてきた。


 ありがとうね、凄かったよと言って抱きしめる。

 でしょ!と胸を張って得意気にしている。

 これからも頼りにしてるよーと伝えたら嬉しそうに体をこすりつけてくる姿が愛おしい。


 ビーフジャーキーを出して、口まで運んであげるとしっぽを振りながら食べ始める。

 ついでに俺の手もハムハムしてくる。俺の手は美味しいのかなー?



 空いてる方の手を使い、ピノちゃんに煮卵をあげたらすぐに食いついてくる。君もお腹空いてたのね。


 両手に花状態。


 かわいいのぉ......なんかこう、群がられてる感じが幸せ。

 満足するまでいっぱいお食べ。


 ウチの子たちが食べ終わるまで両手をフル活用した。俺の手から直接食べた後は指をぺろぺろしてくれたり、甘噛みしてくる姿は永遠に見ていられる。


 食事を食べ終わったあんこは、大型犬サイズのまま俺の足の間にすっぽり、ピノちゃんはあんこの頭の上。


 なにこの幸せシチュエーション......


 その状態のまま、糸を使ってバターを塗っただけのパンを食べて昼食終了。両手はこの子たちの為に使うんです。

 食後はバックハグ状態からあんこの背中に顔面を埋めて癒される。中毒性があるモフみを存分に味わえて、ヤバいくらい幸せな昼休みだった。


 いやー最近うちのエンジェル達がベタ甘で嬉しいわ。

 そして意思表示もしっかりしてくれるようになっているから、あの子たちが求めているものがわかりやすい。


 ウキウキのまま出発の準備。

 今日の夜何食べようかなーとか考えていたら、お嬢様が早く行こうと急かしてきた。


 すっげぇ元気だなーと、シンプルな感想を抱きつつ了承。ピノちゃんをあんこの上にセットして、俺はソリに乗り込む。

 落ちないようにね、落とさないようにね、と注意し発進。



 俺は大人しくソリに乗っている事以外にやる事が無いので、ソリの代用品について考えることにした。

 最初の方は平気だったけど、長時間乗っていると蓄積ダメージが尻と腰に溜まってくる。

 雪上か砂漠系じゃないとキツいかもしれない。


 あんこは引いてる感が欲しいと思うので、エンジン付きのものは拒否ると思う。


 俺的にはタイヤ付きのモノに乗りたい。サスペンションの効いたもので尻に負担の少ない系。

 車を召喚してバラすか、ソリに高性能のソファとかをどうにかして組み込むか。でも俺に改造系をさせるには絶望的にセンスがない。


 困った時のアラクネさん......これ系の事は出来るのかな?万能メイドと謳うくらいだし多分イケるか。


 近いうちに喚んで聞いてみよう。

 ダメそうだったらダメ元で何か魔改造してみればいいか。

 考えが上手く纏まらないので強制終了。。


 ケツの痛みを誤魔化す為にクッションを追加した。


 .........あれ?なんでこの体にダメージ通ってるんだろう?戦闘や攻撃以外ではスキル効果発揮されないの?

 まさかのパッシブではない疑惑......


 移動中のダメージって結構しんどいんだぞ......もし俺がお尻に爆弾抱えてたり、腰に爆弾を抱えてたらと思うと笑えない。


 ある意味早めに気付けてよかったけど、俺のスキル達は結構不親切な設定多いんだよなぁ......


 こうなるとケツを強化すればダメージ削減、あわよくば無効になるかな?と思い、早速試してみる。





 結果、ダメージは通らず。ダメージは通らないんだけど、振動は防げなかった。


 金属が飛んでくる石を弾くみたいな感覚。慣れてないから若干気持ち悪い。

 今回はもう止めておこう。尻肉のクッション性に頑張って貰う事にします。




 そのまま日が暮れてくるまで進んで、今日の移動は終わり。

 ゆらゆらする椅子を出して、そこに座らせてあげる。この椅子はもうこれからお嬢様専用にして、たまに俺が使わせてもらうくらいでいい気がしてきた。


 ほぼ一日走り続けたお嬢様を労うようにマッサージを。肉球とか、ムチムチのあんよを念入りに揉みこんでいく。


 かわいいあんよだなぁ......肉球はぷにぷに、足はむちむちで揉んでいる俺の方が気持ちいい。

 しっかりと揉むのは初めてかもしれない。いつもは撫でるだけだったけど、これは勿体ない事をしてしまっていた。



 マッサージという名目でまた揉ませて貰おう!これは医療行為だから疚しい気持ちなんてこれっぽっちも無いので健全だ。


 こーして俺はマッサージを楽しんだ。



 至福のマッサージタイムが終わったので、夕飯の準備に取り掛かる。


 用意するのはピザ用のチーズ、赤ウインナー、厚切りハムにキャベツの千切り。

 ちょっと寂しいので玉ねぎの輪切りも追加。


 厚切りハムに切れ目を入れてスライスチーズを挟んだ物を半分、普通のを半分作る。

 表面に塩コショウを振って終わり。


 赤ウインナーは三本ワンセットで楊枝に刺していく。

 タコさんには面倒なのでしない。


 油を熱してる間にバッター液、パン粉を用意して下準備終わり。

 玉ねぎ以外は揚げ時間がほとんど掛からないので、今日大量に揚げておく事にする。

 雨とかで足止めを食らった時に、時間がかかる系の物を作ろう。


 バッター液にくぐらせた赤ウインナーを揚げていく。衣がいい感じの色になれば完成。


 ハムカツも簡単。バッター液にくぐらせた後にパン粉をギチギチに付けてから、パン粉に色が付くまで揚げるだけ。


 赤ウインナーもハムカツもオニオンリングも、衣が厚めの方が好き。


 揚がった赤ウインナーをツマミにしながらビールを飲みつつ揚げ物を続行。


 その隙にオニオンリングを揚げる。こっちはじっくりと揚げる。


 あぁ......赤ウインナーから染み出る体に悪そうな黄色い脂が何故か物凄く美味しい。

 むしろこの脂の為に赤ウインナーを食べているくらいだ。

 焼きやボイルでは絶対に普通のウインナーに敵わないのに、揚げると圧勝できる一点特化型の赤ウインナー選手。


 そうこうしているうちにオニオンリングもいい感じになってくる。



 茶色いメニューに申し訳程度の緑色。


 エクセレント。


 最後にちょっと変化球のメニューをこっそり揚げて晩飯完成。



 お待たせーご飯にするよーと、各々好きな事をしていたあんことピノちゃんを呼ぶ。


 揚げ物が気になるのか、お嬢様はハムカツをクンクンしている。


 お?食べたいのかな?


 チーズ入りとノーマルを味見程度の大きさにして食べさせてみる。

 料理対決の判定を待つ料理人ってこんな気分なんだろうか。すっごいドキドキする。



 ノーマルがお気に召したみたい。

 チーズはクセか臭いがダメだったみたいで、チーズ入りを食べた時はしっぽが垂れてしまっていた......


 なので、ノーマルのハムカツとジャーキーを夕飯にあげる。



 ピノちゃんにはコレを......


 そう、揚げ煮卵だ。バッター液を薄く塗ってサッと揚げたもの。


 俺用には半熟煮卵で作ってある。

 余計な一手間と言われるか、お気に召すか......どうだろ?



 あーダメだったみたい......悲しい。


 せめて黄身トロットロが好みならきっと刺さったハズなのに......

 半熟の黄身の美味しさをどうにかしてわかってほしい。


 仕方ない。残りは俺が食べよう。

 これはこれで美味しいし。口内の水分を根こそぎ持っていかれるけど。


 余計な事をしてごめんねと謝ってから、いつもの煮卵をあげた。



 さて、俺も食べましょう。ご飯と言うよりはツマミと言った方が正しいのだろうけど。



 先ずはハムカツを四等分にして、そのままひとくち。


 サクサクの衣とバッター液の層にハムの三層構造。


 この二層目が大事。

 説明を求められたら上手く説明出来ないけど、この不健康そうな黄色い層が無いと真のハムカツとは言えないと思っている。



 懐かしい味だわ。御中元や御歳暮で貰う塊ハムの思い出。

 結局どこの家庭も最後には持て余して、ハムステーキかハムカツになる運命だろう。


 二口目はカラシをベッタリと付けて食べる。フライにカラシを付ける文化を作った先人に感謝。

 フライとカラシの相性はガチ。すかさずビールを呷る。


 三口目は串カツ用のソースとカラシで。個人的にハムカツはサラサラ系ソースの方が合うと思っている。



 まぁ合わない訳が無いよね。フライを浸す事を前提に作られたソースだもの。

 ソースなのにさっぱりしてるからたくさん食べれてしまう。

 ラストの四口目は七味マヨ。アタリメに添えてあるヤツが余ったので付けてみたらこれがまた美味しかった。七味多めが好き。


 本当にコイツらはビールやハイボール、サワー等をガブガブ飲めてしまう悪魔的な料理だ。



 チーズ入りはサンドイッチ用に揚げたけど、やっぱり普通に美味しい。こちらは何も付けないで食う。


 ハムの塩気と旨味、チーズの塩気とコク、衣の油っこさが暴力的すぎる。

 ジャンクな食べ物は大正義だ。


 ビールを飲まなきゃやってらんない。白米にも米にも合うけど今はビールだ。


 ご飯を食べ終わったあんことピノちゃんは、一緒に椅子に乗って揺れている。うん、とってもほのぼのな光景に心が洗われるようだ。


 揚げ物の連続で疲れてくるが、キャベツの千切りさんが優しく癒してくれる。このセコンドの優秀さでフルラウンド戦い続けられる。



 続きましてはオニオンリング。どんなに大きい輪っかでも一口で食わなければ、衣だけ残ってしまう不具合だけはどうにかして欲しい。


 それならお上品にナイフとフォークを使うとか、カット済みの物を食えと言われるだろうけど、リングでは無くなるから却下だ。



 こちらはハーブソルトとケチャップを添えて。


 揚げた玉ねぎの甘さとトロトロ感に、厚めのカリカリの衣と塩味。フライドポテトばかり注目されるけど、オニオンリングはもうちょっと注目されてもいいと思う。

 ケチャップで食べるのもまた美味しい。



 オニオンリングは日常でも手軽に食いたかったけど、モ〇バーガーかお高いハンバーガー屋とかでしか食えなかったのが残念でならない。


 ちょっと俺の考えが甘かったみたいで、揚げ物オンリーだとキツくなってきた。

 この体は不健康などとは無縁だから揚げ物オンリーでも余裕と思っていたが、箸休めがキャベツの千切りだけでは無謀だった。


 多彩なメニューがある居酒屋の偉大さを理解する。飽きさせない工夫大事。



 さっぱり系や箸休めメニューを追加する。

 しらすおろしと梅きゅうり、白菜の漬物を出して、後半は日本酒を楽しんだ。




 食後、寝る準備を万端にした俺は、一人揚げ物パーティーについての反省をしている。


 調味料で味変はできるけど、基本単調な味の揚げ物オンリーだと後半キツくなってくる。

 スタートダッシュは抜群に上手なんだけど、中盤以降は万能型、後半特化のメニューが欲しくなる。


 今回は漬物とかで凌いだけれど、圧倒的に長く楽しむ為の品数や工夫が足りなかった。

 一番の策はメニューを揃える事だな。シェ夫になる日を作らないと。



 どこかで丸一日使って、食べ物のストックを作る日を作らないといけないという結論に至ったので寝ようと思う。

 さすがに油分を摂取しすぎてモヤモヤしつつも意地で眠りについた。


 あんことピノちゃんは、ご飯の後に乗った椅子の上で爆睡してしまったから寂しい夜だった。

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