第66話 グッバイ王都
若干寝不足気味だった事と、夜に動き回っていたのもあって深い眠りにつけたみたい。
そのお陰か、朝はかなりスッキリとした目覚めで、コンディションもバッチリだった。
やらなきゃいけなかったことを全て終わらせられたから、何の憂いもないって精神状態なのもあるんだろうな。
ようやくこれで、しばらく人間社会と関わらなくていい状況になれて幸せ。
最後に残念なミスをしてしまったり、嫌な事件があったりしたけど、済んでしまった事はもう取り返せない。
今はもう前を向いて、これからはそんな事が無いように気をつけよう。
なんでこんな気分になる事を考えちゃったんだよ俺......はぁ......
気を取り直して、あの子たちが起きるまでの暇な時間を使って、お湯でも貯蓄しておくとしましょうかね。
それから一時間程、ボケーッとしながらお湯を補充していた。
すると、ようやく起きてきたお嬢様とピノちゃんが、風呂場に飛び込んできて俺に突進してくる。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
お湯の補充を止めて、突進を受け止めようと身構える。しかし思っていたより強かった勢いに負けた俺。押し倒されてぺろぺろと顔を舐められる。
してやったり!みたいな顔をしてるけど、これはご褒美です。愛情注入ありがとうございますッ!!
ピノちゃんはそこには参加せずに、湯の張っていない浴槽を見つめていたので、入りたいのかな?と予測してお湯を張ってあげた。
正解だったみたい。嬉しそうに飛び込んでいった。アグレッシブな行動を取るようになったなぁと感心する。
ピノちゃんを見ていて気が抜けている俺を見てチャンスと思ったんだろう。お嬢様もお風呂に飛び込んだ。
その結果、結構な量の水飛沫が飛んできて、びしょびしょにされてしまった俺。
お転婆姫様モードになったあんこは、大きな水飛沫をあげる為に、わざわざ着水する直前にサイズを大きくするトリックプレーをした。
最近なんか悪知恵つきすぎじゃないですかね?可愛いなぁで済む程度のだけど。
あーあびっしょびしょだ......パンイチでやるべきだったかなぁ。
ずぶ濡れにされた反撃にと、お湯に浮いているあんこと、その頭に乗っているピノちゃんに奇襲をしかける。ピノちゃんはとばっちりだけど許してくれ。
浴槽の中に渦を作ってぐるんぐるん回してやった。フハハハハ!目を回すがよい!
すっごい喜ばれてしまった。目を回すかと思ったのに......
可愛かったけど、ちょっと残念だ。
卑怯なくらい三半規管が強すぎるぞ。
悔しがっていると頭をぺちぺちとされる。
ん?どうしたのピノちゃん。
あー......
うん。避難してきたのね。
止めなくていいのかって?
ウチのお転婆姫様は、鳴門海峡も真っ青な渦を作って遊んでいた。
大きめなサイズの浴槽とはいえ、よくこんな浴槽であんなの作れたな。
ん?壊れそうになっていないか?軋んだ音がしてる気がする......ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
あ......これは本当にやばそうになってますね。ピノちゃん教えてくれてありがとう!!
「あんこちゃーんすとーっぷ!それ以上いけない!!」
今度湖とかでやろうねーと宥めて、浴槽から抱き上げて渦を止めさせた。あっぶねー。
浴槽が壊れなくてよかったぁ......ヒヤヒヤしたわ。
あんこを抱き上げる時にまた濡れた。
びしょびしょになっちゃっていたので、着ていた服をその場で全て脱ぎ捨て、そのままみんなと朝風呂することにした。
なんか計画通り!みたいな顔をされてるんだけど......
入ろうって言ってくれれば普通に入ったのになぁ......もっとストレートに意思表示してきてくれていいんですよ!!
そんな突発的なお風呂イベントを最大限に活用。じゃれあいながら一緒に朝風呂を楽しんだ。
風呂から上がって、少しダラダラとしてから朝食を食べる。
持ってこられた朝食は、今日もやっぱり朝食バイキングみたいなメニューだった。
朝飯ってどこの宿もそんなにメニューの違いがないなぁ......もっと個性出せると思うのに。
朝食バイキングなら納豆と卵、それに味噌汁と白米に焼き鮭をください。洋食オンリーのバイキングっぽいメニューは少し悲しいです。
出そうと思えば出せるんだけど、それなら朝食頼むなって話になるから自重。
ここの朝飯、量はかなりあるし、味も悪くないからそのまま出された飯を食べた。
朝食後は、また少しまったりした後に、「今日からまたお外での暮らしになるけど、なんかやり残したことは無い?」と聞いたけど、何もないみたいなのでそのまま出る準備を進める。
そして出発の支度をし終わったのでチェックアウトする。結構いい宿だったなぁ。
立ち去ろうとした時に、俺の部屋専属みたいな扱いになっていたお姉さんに呼ばれてしまったので後をついていく。
なんか悪い事でもしちゃった?まさか......お湯使いすぎって怒られるのか?
心配になったけど、連れていかれてる最中はそんな雰囲気を出していなかったのでなんなんだろうか。
お姉さんに連れていかれた先には、コックコートを着たおじさんが居た。
料理を絶賛してくれただけでなく、厨房のメンツ全員にチップを渡してくれた事を感謝されて、包みを一つ渡される。
ちょっと重めな包みだった。中身はなんだろ?
そこまで感謝される事かなぁ?と思い詳しく聞いてみた。
シェフを呼んでくれ!みたいのはほとんど無くて、あったとしても文句がある時ばかりらしい。
値段が高い所なんだから美味いもの出すのが当たり前みたいな認識なんだってさ。
まぁサイレントクレーマーや、後々ある事ない事言い触らす面倒な客よりかは、その場ではっきり言ってもらった方がいいだろうけど、そればっかりだと......さすがにね。
おじさんや、これからも頑張って美味い飯を作ってくれ。
包みの中身は、昨日の山賊焼きみたいなのを俺が気に入ったって事で、それを数本包んでくれたらしい。
めっちゃ嬉しかった!!おじさん最高や!!
また王都に来る事があったら絶対泊まりに来るから、そん時は一緒に酒でも飲もうと言って別れる。
人間も捨てたもんじゃないって思える人は結構いるのになぁ。全員こんなんだったらいいのに。
こちらの品は、後日ありがたく頂かせてもらいます。謝謝。
テンション上がってしまって、守れそうにない約束をしてしまった。
王都へは多分もう来る事はないと思うけど、もし来た時はよろしくね。
そうして宿から出た後は、俺も特にしたい事も無いのでそそくさと王都から出る。
簡単に王都から出られたので拍子抜け。
こちらとしてはありがたいからいいんだけど......やっぱり色々とザルじゃないですかね。
まっいいか!
さぁ、これで俺は自由だ!人なんかのいる場所からさっさと離れてしまおう!
グッバイ王都、フォーエバー王都。
学者達の所の黒い膜をこのタイミングで解除した。多分もう鎮火している事だろう。
王都を出てから五分くらい走った。それなりに本気で。
結構な距離を稼げたので、捜査の手が伸びたとしても手遅れになっていることでしょう。多分。
もう急ぐ意味は無くなったので、お嬢様とピノちゃんを出してあげる。
あんこは一度伸びをしてから嬉しそうに周囲を観察している。ここらへんは草原だから、観察しても特に面白いものは何もないと思うの。
ピノちゃんは俺の耳たぶに噛み付いてぶら下がっている。ちょっと前に話していた事を早速試したのね。
疲れそうに思うけど、実際かなり楽らしいんだよねこの格好。
身体の基本構造が違うからだろうけど、疲れそうって思ってしまう。
......まぁ詳しくわからない今はぶら下がり健康法みたいなもんと思っておこう。
周囲の観察をやめて動き回っているお嬢様に、向かう方向をざっくりと伝えてからゆっくりと歩き出す。
旅のお供には、田舎のお母さんみたいな名前のクッキーを食べながら歩く。
これのバニラ味はほんっとーに美味い。ロングセラー商品にハズレ無し。
閉塞感の無い自然はいいなぁ。草原も長い事続くと嫌になるんだけどね。
久しぶりって程でもないけど、自然の中に来れるとやっぱり気持ちがいい。
森以外でならどこでも生きていける。
俺の森嫌いは、こっち来てからずっと森の中にいて見飽きたってのもあるだろうし、デカい木がたくさん生えている場所はあっちで馴染みがなかった、そして閉塞感を感じるのは、あっちのビル群に嫌気がさしていたってのもあるからそれが原因なのかねぇ。
絶対に自分がいいなぁと思える所に住居を構えよう。妥協なんて一切しない。
そんな事を考えながら歩いていたら、腰に衝撃がくる。
どうしたのー?と撫でてあげていたら、大型犬サイズに変化したお嬢様から、雪の所でやっていたアレがやりたい!とリクエストをされた。
あぁー、ソリか。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
ソリを引くの気に入ってたもんね。雪の上じゃないけど、草の上だし多分大丈夫だろ。
もしダメだった場合には、なんか他にこの子が牽引できそうなのを探せばいいか。
ソリを出して座布団を敷く、その上に座って準備できたよーと合図をする。
まだかまだかと待っていたあんこが、合図を契機に嬉しそうに走り出した。
思ったよりもケツへの衝撃は無く、快適にソリは進んでいく。たまに小石に当たった時だけ衝撃がある。
ちょっと安定性に不安があるけど、そこは俺が気合いでどうにかできるので問題は特にない。
快晴の草原を犬ぞりで進んでいくというレアな体験に心が躍る。楽しいなぁ!
お嬢様のお尻と景色を眺め、爽やかな風と、草の匂いを感じながら進んで行く。
ストレスフリーな隠遁生活の土台作りを頑張って行こう。
建築とか開拓とか全然わからないけど、先ずは場所探しからだ。
こっから先は人と関わる事がほぼ無いと思うから、かなり気持ちが軽い。
俺たちの居場所を探す旅はこれからだ!!
ちょっと最終回的な事を言ってみたかっただけです。ごめんなさい。
あれからは何事もなく、順調に草原を進んでいる俺たち。とても平和です。
また俺らを引いて進むことができてウッキウキなお嬢様をピノちゃんと眺める。
今度はあんこの上に乗って進んでみたいとピノちゃんが言うので、休憩したあとは望みを叶えてあげようと思う。ちょっと寂しいけど。
ちなみにピノちゃんは、ソリが動き始めてからは俺のポケットから顔をひょこっと出すスタイルに変更していた。歩いての移動じゃない時は、こっちの方が安定していて楽なんだって。
あぁ本当、これだよこれ。こういうのでいいんだよ。
大好きなあんことピノちゃんがいて、たまに会って趣味を共有できる悪友みたいな存在がいる。
そして好きな物を食べて、好きな事をして、好きなように生きる。
こんな生活が楽しい。あっちで不満ばかり抱えて生きていたあの頃とは全然違う。
あっちで出来なかった分、こっちでの生活を最高の相棒たちと全力で楽しんでやる。
「あんこもピノちゃんも!これからも一緒にいようねー!!」
急に俺が声を張り上げたので、びっくりしたピノちゃん。ごめんね。
あんこは俺らを引きながら「わん!」と返事してくれた。愛してる。
ぷんぷんと怒るピノちゃんを宥めながら草原を進んでいった。
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