第65話 骨付き肉と小太陽

 ハイボールやビールは夏には欠かせないよね。暑い時はガブガブ飲める物がたまらなく恋しくなる。


 王都から出た後は、キャンプをしながらの生活だろう。たまに暴飲暴食する日を作ろう。

 大自然の中、大雑把で味濃いめな野郎料理を食いながら、飲めるだけ飲むぞー!

 自分へのご褒美を設定すればやる気も上がる。既にもう楽しみだ。



 でも今は完全にオフモード。気が抜けてるのでヤル気が皆無。

 今日は早めに夕飯を食べて、ゴロゴロしながら時間まで待機しようと思う。その最中にモチベーションもあがってくるだろう。

 早速夕飯を持ってきて貰う為に魔道具へ魔力を流す。


 さっきまで飲み食いしてたので、もし食いきれなかったりしたら、余った分は収納しといて後で食えばいい。



 少し待つと、料理が届いた。

 予定の消化に二日、予備で一日の計三日を予定していたけど、今日で終わらせるので三泊目はいらなくなってしまった事を思い出す。

 料理を運んできてくれたお姉さんに、明日の宿泊はキャンセルする事を伝えた。


 キャンセル料を取られると思っていたけど、それは無かったみたいで普通に全額返金の対応。

 高級な所なのに良心的だなぁ。前も取られなかったし、こっちにはキャンセル料って概念無いのかね?



 気を取り直して食事をする事に。


 持ってきてもらった今日の夜のメニューは、山賊焼きみたいな骨付きのデカい肉塊だった。多分鶏肉。


 ......やば、これは見た瞬間から既に美味しいのがわかるぞ。

 あんこも自分の分の肉に目が釘付けだ。珍しいにゃあ。


 よし俺も食うか!!


 躊躇うこと無く豪快に手掴みでかぶりつく。まさか高級なトコでこんな豪快なメニューにありつけるとは思わなかったぜ!ひゃっはー!!

 ナイフとフォークなんか使うのは肉に失礼だ。


 いやー、これはやばいわ。


 滴る脂とパリパリの皮、ブリンブリンの肉に香り立つスパイス。

 しっかりとスパイスが使われているから臭みなんて全く無く、肉の味が引き出されている。


 これはどんなモノよりも高級な料理ですわ。手と口まわりをベットベトにしながら、夢中で肉を貪っていく。


 途中で赤い星の瓶ビールを出して飲む。

 普段はスーパード〇イ派の俺だけど、こういった料理には瓶の赤星が正解。


 肉の旨味と脂をビールで洗浄。体中の細胞が歓喜に震える。

 肉と酒は最高のドーピングだ。明日も頑張ろうと思える活力になる。実際食う前より元気になった。


 三~四人でシェアして食べるくらいの量があったけど、余裕で食い切ってしまった。

 きっと悪食さんとかのおかげだろう。


 食べ終わって大満足な俺は、手と顔をキレイに拭いてからベッドへ倒れ込む。


 ガチ食いしていた俺を、楽しそうに見ていたお嬢様とピノちゃんが、ベッドへ倒れ込んだ俺の横にきて寄り添う。幸せが溢れて止まらない。

 美味い飯、美味い酒。その後に人が求めるのはきっと誰かの温もりだろう。愛する家族がいるって幸せ。



 肉の美味さはミートブルが一番だったけど、料理としての美味さは圧倒的にこっちだった。

 俺がガチで求めていたメニューだ。

 昨日のお上品なメニューはなんだったんだ......


 あ、明日のメニューはなんだろう......

 もしかしてキャンセルしちゃったのは早まったか。

 まぁ仕方ないか......やっぱ明日も泊まりますとか今更言うのは恥ずかしい。



 そこからしばらく食休みをして、食器を下げにきたお姉さんチップを渡して頼み事。

 厨房の人数を聞き出し、人数分の銀貨を預ける。

 料理素晴らしかった、感動したって伝言と、チップを渡して欲しいと頼んだ。



 おれきょうはもううごきたくない。

 でもきゃんせるしちゃったからこのままねれない。ちゃんとしまつをつけなきゃ。



 はぁ......せめて時間が来るまではダラけてよう......悲しい。


 その後はあんことピノが寝るまでずっとダラダラ過ごしていた。

 先程俺に弄られたピノちゃんが、お腹の上に乗ってはしゃいできた時はちょっと危なかった。


 大きくなったお嬢様がピノちゃんに便乗しようとした時は、本気でやめてくださいと懇願した。

 さすがにソレをされたらお部屋に虹がかかる。



 はい。そんなこんなで現在は夜の22時。

 さぁ......最後の仕上げに行ってきましょうか。ベッドの上で寝ているあんことピノちゃんとしばしの別れ。


 昨日と同じように罠を張って、犯人スーツ姿で窓から飛び出す。

 早く帰って寝たいから急ぐ。あんな奴ら早く始末してやんよ!!



 高速で移動していく。

 すぐに学者たちのいる土地に到着した。


 大体の学者連中はここに家を構えており、一つの街のようになっている。中心に近いほど権力があるヤツらが多いんだってさ。アホくさ......

 こんな所を作るから、くだらないカス共が権力を持ちだすんだよ。しっかりしろよ政治家共!

 そんで、この中心の土地に住むのが学者たちの一種のステータスで憧れになってるんだって。本当にくだらない。


 俺らをハメたヤツらの自宅を探す、地図があってもそこを見つけるまで一苦労だ。

 似たような建物ばっかりでわかりにくかったが、思ったよりも早く見つかった。

 結構近場に密集してくれてるので、手間が少ないのは助かる。


 家に侵入してヤツらを確保し、目撃者になりそうなヤツらは視認される前に気絶させた。

 意識を飛ばして気絶しているヤツらを糸で纏めて引っ張りながら、トップが住んでいる住居兼学舎へと向かった。


 現在中には教員や教授みたいのしか残っていなかったのは幸い。結構遅くまで残って色々とやってるんだね。

 無関係な人はサクサクと意識を奪っていき、運ぶのに便利そうな近くに置いてあった台車へ乗せて敷地外へ放り出す。雑でごめんね。


 無関係だったヤツらは、一応生かしといてあげる。


 そこからまた関係者全てを一箇所へ集めて、上へ上へと建物を登っていく。



 トップ共もその途中で簡単に確保できたのはよかったな。集まって会議っぽい事してくれてて助かる。

 最上階に全員を集めてから、気を失っているヤツらの顔に水をぶっかけて起こす。そして姿を人間に戻した。


 貴族や冒険者たちが始末されたのを知っていたのだろうか。俺を見るなりすぐさま怯えだした学者連中。

 トップのヤツらは状況が把握できていないみたい。なんとなく察しろよ。



 まぁコイツらの事情はどうでもいいので、骨喰さんを使って建物の屋根部分を吹き飛ばして開放的に。

 それから外界から隔離する為に、闇魔法で建物全域を膜みたいなので覆い隠す。


 ここまでしてやっと準備が終わったので、ピノちゃんの全力炎玉を収納から取り出し、空へと浮かべて、その場に留まらせる。


 周りがほぼ真っ暗になっていたのもあって暑い、熱い、眩しい。


 だけど俺はなんともないように見せる為に、痩せ我慢する。俺まで変にダメージ受けてるのなんでや。


 貧弱な学者たちは強烈な熱気を浴びて怯み、必死に命乞いの言葉を叫び、トップのヤツらはえっらそーに俺に説教をしてくる。

 俺を誰だと思っているんだー早く解放すれば許してやるぞーと。


 ハハッ......コイツら何言ってんだろうね。


 足だけを縛ってそのまま放置しておく。好きなだけ喚いとけ。


 コイツらには色々とお世話になったので、心をへし折ろう。俺を嵌めた学者たちに一人ずつ挨拶をしていく。

 リアル野〇盤で、土下座している選手達を煽るタ〇さんを想像してほしい。



「あの時はどうもー。ダメだよ、ああいった事をする時は、ちゃんと標的が死んだのを確認してから帰らなきゃだよー」



「ねぇねぇ、使えないって言って馬鹿にして、置き去りにしていったヤツが、本当は一番強くて生き残っていたってわかった今の気持ちはどう?後悔してる?」



「そうそう......あの時の大蛇は俺の仲間になっていて、一緒にあのダンジョンを攻略してきたよ。そして今は俺らと楽しく過ごしてるんだ」



「そんで今、君達の上に浮かんでる白い炎の玉はあの子からのプレゼントだよ。よかったね!君達の事を話したら喜んでアレを出してくれたよ」



「未確認の魔物が、君達如きにプレゼントをくれるなんて、きっと前代未聞の出来事だよ。学者ならこれは喜ぶべきところだろう?ほら......喜べよ」



「ちなみにあの子は、妖魔蛇って種族のイレギュラーな個体で、今は煌魔蛇って種族に進化してるの。凄いでしょ?発表すれば凄い騒ぎになるかもね」



 一人ずつ順に話しかけていった。話は皆に聞こえるような声量で。


 実行犯以外のヤツらはダンジョン攻略と聞いて震えだし、目の前の六人は一人を除いて現実逃避して独り言をブツブツ言っている。


 俺に自己紹介したヤツ......名前は忘れた。

 そいつが口から飛沫を飛ばしながら叫ぶ。きたねぇな!


「なんであの時に自分が使えるヤツだって証明しなかったんです!!わかっていればあんな事にはなっていない!!」


 何言ってんだコイツ......


 あ、まだ続くのね。聞きましょうか。



「今ならまだ間に合います!情報とダンジョンの成果を全てこちらに渡しなさい!そうすれば私達の力でこの事は無かったことにしてあげられますよ!!」


 その叫びを聞いて、現実逃避していたヤツらは正気に戻ったみたいで、口々に意味不明な事を喚き出す。


「私は反対したんだ!なのにあの冒険者たちが勝手に......」


「大丈夫です!許されない罪はありません!!私達を早く解放......」


「ごめんなさい......ごめんなさい......許してください......」


「その情報があれば儂の地位は揺るぎない物になる!!知ってることを全て......」


「これからは僕達に協力しなさい!ほら!報酬はたんまりと......」



 まるで立場が逆転したかのように、上から目線で喚いている。

 トップのヤツらも元気を取り戻したようで、なんか言っているが、この六人のように聞く価値は無かった。


 むしろ途中まで聞いてあげた事を労ってほしい。


「何言ってるんだお前ら。この国のヤツらや、五大国全てで俺らの事を襲ってきても、俺はそいつらを無傷で滅ぼせるぞ?

 それを許すとか......どんな目線から語っているのか知らないけど、どうやって俺を裁くのかな?教えてくれよ。なぁ」



「うるさいうるさいうるさい!!お前らみたいな底辺冒険者風情は儂らに付き従ってしっぽ振っていればいいんじゃ!!死ねっ!!」



 小さいナイフが飛んできたが、ブラックホールをその軌道上に設置。

 カメムシとかの方がよっぽど厭らしい悪足掻きするぞ。


 ナイフは見事に吸い込まれていきました。やったね!



「それで反撃は終わりかい?他にあるなら試してもいいよ」



 ......アレで終わり?



「もうないのかな?抗わないとすぐ死んじゃうよ?」



 ......うん、もう無さそう。こんなんでよく煽れたな。



「......まぁしたくなったら、いつでもしていいからね。それで......多分想像は出来ていると思うけど、うちの子からのプレゼントをこれから君達にあげるから、喜んで受け取ってほしい」



 浮いている炎の玉の高度をちょっとずつ下げていく。


「それじゃあ......残り少ない余生を有意義に過ごしてね」


 そう言い残して、ゆっくりとその場を離れていく。



 嫌だぁぁぁとか、助けてくれぇぇぇと聞こえてきたような気がしたけど、ちょっと今の俺は難聴系主人公が乗り移ってしまったみたいだから何もわからないよ。



 そして下まで降りて、建物の外へ出る。


 最後に建物を一階分ずつ下から削る。



 魔法が着弾するまでの時間を延ばしてあげる俺の優しさだよ。


 ドスンドスンとダルマ落としをされているように下へ落ちてくる最上階。

 落下は一階分ずつだから死なないし、上手く受け身とれればそこまでダメージ受けないだろう。


 それを繰り返して、残すは屋上のみになった。


 床に倒れ伏しているヤツらの体は所々無様に腫れ上がっていたり、折れ曲がっているが死んではいないようだ。


 こんだけで死なれたらたまったもんじゃないから生きててくれてよかったよ。グッバイ。




 膜から外に出て、また犯人になる。


 外側から確認してみるけど、光や熱は漏れていなく、しっかり遮断されている。


 なのでこのままピノちゃん玉を着弾させる。



 魔法が炸裂した感覚があったので、あれの内側は焦熱地獄になっているだろう。


 壁を解除したらここら一帯、何かしらの被害が出そうだからまだコレを解除する事ができない。




 しくじったわ......すぐ帰れそうにない......

 それに金銭や本などを回収し忘れた。勿体ない事をしてしまった......


 やっちゃってからミスに気付いて切ない気持ちになった俺は、その気持ちを誤魔化そうとタバコに火をつけて、ため息を煙と共に吐き出す。



 あーこれどれくらい待てばいいんだろうか......


 跡地は残しておきたいからこのまま中を消し飛ばせないし......



 もうこのまま宿に帰って、明日王都から出た後に解除すればいいか。後のことなんて知らねぇ。


 どうにでもなればいい。


 明日にはここからいなくなるし、指名手配になろうがどうでもいいや。

 貴族と学者の件では明確に俺がヤったという証拠など残していない。ギルドでの事は公にすればダメージ受けるのはあっち。


 どう転ぼうが別に問題はないな。


 力は示したから触れるのはNGと思ってくれるのが一番いい。


 どうなるかねぇと思いながら宿まで急いで戻り、人間に戻る。


 やっと全てにカタをつけることができた。脱力してそのままベッドに寝そべる。


 今日はこのままゆっくり寝よう。


 明日からの旅に備えて、しっかり体を休めなきゃいけないからね。

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