第71話 イメチェンと心配性

 なんか怖くなって、ダンジョンから逃げ出すように走る事二時間弱。

 視力を強化してもダンジョンが見えなくなったので、ようやくクールダウン。


 げんなりとしている俺を見て、何かあった?と心配そうにしているウチの天使たちから癒しを摂取。そのまま休憩をとる事になった。

 ここに来るまでにかなり心配をさせてしまっていたので、俺は今この子たちに申し訳無い気持ちでいっぱいになっている。


 なので、ここらへんで感謝祭を開催しようと思う。おやつを食べながら何かしたい事、して欲しい事が無いか聞いてみる。


 お嬢様からは、あの椅子を出して欲しいと伝えられ、俺に対しては今日はゆっくりしてなさい!と言われてしまった。


 さっきまでの俺は、そこまでヤバそうに見えたのかな......

 ピノちゃんは、一人でお散歩したいと言ってきた。危ない事はしちゃダメだよーと伝えてから了承する。


 単独行動したかったのかなぁ。


 この子がやりたいと言うのなら、是非ともやらせてあげなきゃな。無事に帰ってきてね!

 嬉しそうに出かけて行ったピノちゃんを見送り、お嬢様を労う為にロッキングチェアを出してあげる。


 あんまりいつもと変わらないけど、お気に入りの椅子を全力で楽しんでください。


 そして暇になる俺。


 ゆっくりしろと言われても、どうすればいいのか......何も思い浮かんでいない。


 俺ってこんなに時間の潰し方が下手だったかなぁ......しばらく頭を捻って考える。


 そう言えば、前に髪を染めようと考えていた事を思い出したので、気分を一新する為にやってみる事にする。



 早速道具を喚び出してみようと思う。


 染め直したりとかは面倒なので、一度で済ませられるようなモノを願いながら召喚する。



 絵の具セットみたいなモノと、薬液らしきモノが現れた。

 どんな感じのモノが召喚されたのかな。

 鑑定や如何に。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 ▼ヘアカラー(異世界仕様)

 付属の色材を混ぜ合わせて、貴方好みの色を作り上げてください

 出来たら、大きめのボトルに溶かして髪に塗布し、馴染むまで一時間お待ちください

 一時間後に洗い流したら完成です

 同様の工程で色を変えない限り、その色がずっと定着します

 脱色せずに行う場合には、元の髪色と混ざり合うのでご注意ください▼



 ▼ブリーチ(異世界仕様)

 超強力な脱色効果を持つ

 どんなに濃い髪色でも十分で真っ白に

 粘膜や眼球に付着しないよう最新の注意を払ってください▼



 ......もうこれは、鑑定って言うか説明書だなコレ。

 絵の具を混ぜて好きな色を作る。そして出来上がったモノを変な液体に混ぜてから髪に塗れば永久染毛剤の完成ってか。


 そんなに明るい髪色にしたい訳でもないから、この説明が怖いブリーチはしなくてもいいや。

 まぁ流石のご都合召喚パワーですよ。ありがとうございました。



 じゃあ早速、色を混ぜ混ぜしていきましょう。なりたい髪色は決めてある。


 黒と合わさる事を考えれば、明るめの色を作っていけばいいんだろうな。多分。


 青みが強めのブルーブラックになるのが理想。二度手間にならないよう、一発で理想に到達できる調整をしていく。



 ......見本が欲しいと嘆きつつ、青系の色を作っては黒と混ぜてを繰り返していく。

 見慣れない色だから、こんな色にして俺に似合うのかと心配になってくる。


 でも今更金髪や茶髪にするのもなんだかなぁって思うので、混ぜ混ぜを続ける。


 埒が明かないので、今まで作ってきた中で一番キレイな色に作れた物で染めることにした。


 やり直せると思うけど、失敗しないでください。お願いします!!




 ~一時間経過~



 そろそろ馴染んだ頃合いなので、薬液を洗い流した。


 鏡で見てみるも、濡れている状態だとよくわからないので乾くまで待機する。

 一応色は付いているみたい。これは俺のスキルで無効にならなくてよかった。


 髪を触ってみても、傷んだ感じはしなかったのでそこも安心。


 なんて言うか、イメチェンする事ってメンタル面に結構変化が起こる。

 大分緩くなってるけど、日本ももう少し髪色とかに寛容になればいいのに。

 心機一転って言葉そのまんま。俺らの新生活の為に頑張ろうと思う気持ちが強くなった。


 お嬢様は椅子で寝ていて、ピノちゃんは一人お散歩。

 寝ているあんこの傍に行き、焚き火をしながら髪が乾くまでゆっくりと待つ。


 途中で手持ち無沙汰になり、タバコを吸いながら時間を潰す。

 ちょっとした空き時間の暇潰し方法が少ないのが異世界の辛いところ。スマホって便利すぎたなぁ......


 しばらく待っていると、ようやく髪が乾いたので鏡を使って確認してみる。

 思っていたよりも青みが強かったけど、いい感じに青黒い色に仕上がっていて自分的には満足。


 あんこが起きた時に、俺の髪色の変化を見てどうリアクションしてくれるか楽しみだ。



 寝ているお嬢様が気持ちよさそうで、俺もお昼寝に混ざる。睡眠を邪魔しないようにソーッと抱き上げて、椅子に腰掛ける。


 そのまま抱きしめて一緒にお昼寝。幸せ。



 ◇◇◇




 目が覚めると暗くなっていたので、寝過ぎてしまったと焦った。

 あんこは寝た時と同じ体勢のまま、俺に抱かれて眠っていた。相変わらずよく寝る子ですねー可愛いですねー。



 それで、ピノちゃんは......


 まだ帰ってきていないっぽい。

 あの子の事だから襲われたとかの心配は無いと思うけど、迷ったりしてないかな?それとも不測の事態がなんかで帰れなくなった?



 .........どうしよう。


 俺が心配しすぎなのかな?

 探しに行ったら、子どもの初めてのおつかいを尾行しちゃう両親みたいで煩わしく思われたりしないかな。


 人生経験の浅さが深刻。どうするのが最適解なのか全然わからない......



 あ、グッドタイミング!!


 お嬢様が起きた!!


「ピノちゃんが!ピノちゃんが戻ってこないの!

 どうすればいいと思う?探しに行ったらウザいと思われたりしないかな?」



 寝起きのお嬢様が困っている。


 でも心配なの。許してほしい。


 寝起きでぽやぽやしてるお嬢様は、あくびをしながら俺を宥めるように話し出した。

 あくびしている姿はとても可愛い。



『そんなに心配しなくてもいいよ。道に迷ったりはしないし、敵が出ても負けないから』


 しっかりしているお嬢様に、そう窘められ て俺は落ち着きを取り戻してくる。


『戻ってきたらおかえりって言ってあげたらいいよ』



 ありがとうお母さん。俺、大人しくあの子の帰りを待つ事にするよ。


 ありがとうと言って、頼もしいあんこの事をこれでもかと撫でまくった。

 心配するなと言われてしまったし、夕飯でも用意をしながら待とうかね。

 いつ帰ってきてくれるかと、ソワソワしながらご飯の準備をする。


 こういった時間を、飯のおかずを大量ストックするのに使いましょう。



 デカい鉄板を出して、そこに大量のキャベツとニラとこてっ〇ゃんを、ニンニク多めで炒めていく。

 それと並行して、半熟の目玉焼きをどんどん焼いていく。


 これさえあれば無限に白飯が食べられる!っておかずと、合わないモノは無いんじゃないかと思えるトッピングを大量に作っておけば、時間が無い時に楽できる。


 単純に美味しくて好きなのもあるけど、いい匂いを出していれば、早く帰って来てくれるかなーと期待を込めているのもある。


 炒めるだけだからまぁ早く作り終わった。目玉焼きも簡単だから当然作り終わる。

 ピノちゃんはまだ帰ってこない。反抗期とかではないと信じたい。



 お嬢様は堂々とした態度で、ロッキングチェアに座って優雅に揺れている。


 ちなみに髪の色が変わった事には触れられていない。きっと暗いから気付いていないだけだと思っている。

 暗いからね。気付かないよね。


 もつ野菜炒めを冷めないうちに収納。暇だから他にもう二品、簡単な物を作ろうと思う。


 ボイルしてある海老と、皮を剥いて種を取ったアボカドをボウルに入れる。

 そこにタルタルソースを入れて、黒胡椒を振って混ぜ混ぜ。


 これでエビアボカドの完成。玉ねぎのみじん切りを追加で加えても美味しい。

 サンドイッチの具にしても、つまみにも最適の万能さだ。



 ついでにもう一品。


 明太子とタラコを炙ります。


 焼き加減が半生になれば完成。


 好きなんだけど、焼くのが面倒になって結局生のまま食べてしまう魚卵系。

 収納があるお陰で、こういう時にやっておけば、食べたい時に取り出して食べられる。


 そこから一時間程待ったけど、まだ帰ってこない。


 心配が募っていく......


 だけどお嬢様が気にしないでいいって言うので、頑張って耐える。


 今何をしてるんだろうなぁ。はぁ......



 帰って来ないので先に夕飯を食べて、風呂に入り、あとは寝るだけって状態にまでになった頃、ようやくピノちゃんは帰ってきた。

 おかえりって言って両手で掬い上げる。

 自分で移動することが少なかった分、運動的な感じで楽しんでいたら熱中してしまったらしい。


 あと、自分の移動速度を考えてなかったんだって。ドジっ子め。


 俺らが移動する時はずっと動けていないもんね......ごめんね。


 運動できる時間をこれから作るから許して。

 今回の事が起きた原因は、過保護すぎる俺のミスなので反省する。


 ガッツリ運動したからか、疲れちゃっていたみたいで、ご飯を食べたらすぐにウトウトしだした。


 濡らした布で体を拭いてあげてから、寝床に運んであげた。

 お疲れ様、おやすみなさい。


 安心できたから俺もゆっくり寝れそう。


 もう少し放任してもいいんだろうけど、それが結構難しい。

 思春期の子どもを持つ親ってこんな気持ちなのかな?とかしばらく考えていた。

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