第63話 微妙すぎる生物共と白蛇ちゃんタイム

 こっちに来て進化した俺の動体視力は凄い。ただ、あっちで速読を習得していなかったのでそこまで早く読めない。


 しかし、一般人と比べれば早い方だと思う。速読術覚えておけばよかったなぁ......


 はぁ、とりあえず頑張って読み進めよう。



 あっ!回復ってあったぞ。読み進めて行くと、待望の二文字を見つけたのでそこをよく読む。


 ・ギガントラビィ


 5メートルくらいの大きさに進化したラビィ種

 獰猛で好戦的だが仲間思いの性格

 傷付いた傍から回復をして次々と襲ってくるとても厄介な相手

 見かけてしまったらバレないようにすぐその場を離れよう



 他には何かあるかなー



 ・キュアモスキート


 敵には状態異常をもたらす吸血攻撃をし、味方には回復効果のある吸血をする

 何故血を吸って回復するのかは解明されていない

 蚊独特の羽音は無く、気付かぬうちに痒みと状態異常に襲われている



 ・ポーションラット


 とても弱い個体で、肉食だが自分で敵を狩れない

 自分の特性を生かし、傷付いた生物の傷口を齧って自らの餌とし、代わりに傷を回復させる

 そうして傷付いた獣などと上手く共存している

 臆病ですぐ逃げるので回復のメカニズムなどはよくわかっていない



 ・オペジェリー


 強力な麻酔効果とゆっくりと回復していく毒を持つクラゲ

 麻酔で麻痺させ、回復させながらゆっくりと長時間獲物を生かせたまま食らうのが特徴

 大怪我をした冒険者へコイツの触手を使って処置する事もある

 手術にも用いられる有用なモンスター



 ......マトモなモンスターがいない。

 ゾンビアタックウサギ、状態異常にさせる無音の蚊、傷口を齧るネズミ、生き餌厨のクラゲ。


 他にはいないのか!




 ◇◇◇




 居なかった。


 回復を使うモンスターはいるんだけど、それが全部微妙。


 おきあがり なかまにしてほしそうに こちらをみている▽


 となっても即いいえにカーソルをあわせて決定ボタンを押してしまうくらいのしかいなかった。


 あーでも、最狂ウサギの情報は載ってなかったことから、まだまだ未発見が多い事がわかった。

 だからまだまだ希望はある。


 なので未発見のモンスターで、俺の好みに突き刺さる子が偶然見つけられたらいいな。

 そう考えておけばいいか。変に期待しすぎるのは精神衛生上よくない。



 調べたい事も調べた。これで王都でやる事もほぼ無くなったから、あと一つ片付ければ心置き無く旅立てる。


 さっさと宿へ帰って、夜に備えようと思う。窮屈な思いをさせちゃってるこの子たちを早く自由にしてあげたいし。


 ギルド職員に礼を言いギルドを後にする。

 あんだけの事をやったのにパクられる気配が無いのが不思議だけど、何も無いのならそれでいい。


 どうせ明日には出ていくからね。

 合計四時間くらいで調べ物は終わった。想定していたよりもだいぶ早く終わらせられて大満足。


 帰る前にちょっとした思い付きから試したい事ができてしまったので、人気の無い場所へ向かう。


 途中で寝てしまったお姫様を起こさないようにしながら、ピノちゃんを起こす。


 寝てたのにごめんねと謝ると、もう終わったの?別にいいよーと寝惚けながら言われた。かわいいな、でもごめんねほんとに。


 ちょっと俺に向けて、火の玉の小さいのを撃って......とお願いをする。



 俺に攻撃するって事を嫌そうにしたけれど、試したい事があるからお願い!と頼み込んだら渋々だけどおっけーしてくれた。


 まずは小さいのを撃ってもらう。


 出会ったばかりのあの頃とは比べ物にならないほどの威力を持った火の玉が襲ってくる。効かないとはわかっているけど、ちょっと怖い。


 やりたかったこと、それは魔法を収納することだ。


 もし収納する事が出来なくても、俺には崩属性以外の魔法は無効だ。スーツを着てるし。今はあんこが寝ているので食らえないから操って消すけど。


 万が一に備えて覚悟をしてたけど、あっさりと収納する事が出来たのでひとまず安心する。

 収納したのを放ってみたらちゃんと出せた。これでほぼやりたい事がやれる。


 火の玉が着弾したらエライ事になりそうなので当たる前に消滅させる。


 ピノちゃんは心配はしていなかったようだけど、ホッとはしたみたい。

 優しい子だなぁ!!愛してるよー!!



 ここで、何故こんなことを頼んだのかをピノちゃんにちゃんと説明をする。

 魔法がキッチリ収納できなければ、意味の無い事だったからね。


 俺のやりたいことを完全に理解したピノちゃんは、ニヤリと悪どい笑みを浮かべて、ノリノリになった。


 あん時の事を思い出したんだろう。


 ノリノリなピノちゃんはかわいかったが、悪どい笑みはちょっと......これからはもうやらないで欲しい。可愛さだけをみせてくれ。


 ピノちゃんは全力で魔法を撃ち出した。


 ......発動しただけでちょっと地面が溶けて空気が熱くなってるんだけど。ヤバないコレ?


 真っ白な太陽みたいなピノちゃん特製の炎の玉を収納にしまってミッションコンプリート!!

 これで俺の企みは成功するだろう。ピノちゃんとの共同作業なのも嬉しい。


 お礼を言ってピノちゃんを撫でてから、肩の上に乗せて宿に向かって歩き出す。


 俺の肩の上で上機嫌になってるピノちゃんがかわいい。


 でもポケットの中の方が落ち着くらしく、すぐに戻っていってしまった。


 さ、寂しくなんてないんだからねっっ!!



 ササッと宿まで戻り、定位置で寝ているお姫様をブランケットを敷いたユラユラする椅子の上に寝かせてあげる。



 ピノちゃんは今テンションが高い。

 なので、ご機嫌な今のうちにいっぱい構おうと思います。


 でも蛇ってどう遊べばいいんだろう?


 撫でたり、ハンドリングしたりするくらいしかわからない。

 考えてみてもわからないので、何となく猫じゃらしを試してみる事にした。


 ダメでもともと。気を引けたら御の字だ。


 絶対に俺に気を許してくれない猫の気を引く為にと、猫カフェで頑張って習得した俺の猫じゃらしテクニックを味わうが良い!!


 遠目で見られてただけだったけどね!!

 結局猫じゃらしでも気は引けず、何をしても近寄ってきてくれなかったけどなァ!!


 猫じゃらしを装備したまま体育座りで悲しみに暮れる俺の事を見かねた店員が、おやつの時間よりも早いけど猫のおやつを渡してくれた。


 その結果、餌ごと子猫に指を噛まれて流血して、それ以降猫を愛でようとするのはやめた悲しい過去の話だ。


 場所代と飲み物代を払って猫に噛まれに行っただけっていう俺のドMエピソードでした......


 俺が遠い目をしながら猫じゃらしを振っていると、何か変な事をし始めたなぁと冷めた目で見られて、ちょっと心が折れそうだけど構わずに続けてみる。



 目の前でフリフリとした物が振られている。

 人間も揺れる物を目で追ってしまう癖がある。ピアスとかネックレスとか胸とか。

 ただ見たいからって理由だけで、目で追っているだけじゃないんだよ。


 動物としての本能が刺激されて気になってきたらしく、揺れている箇所を目で追っていてかわいい。こういうのが見たかったんだよ!!ありがとうピノちゃん!!


 あ、ちょっと変化があった。


 噛み付こうとしてるのかな?飛びつこうとしてるみたいで体勢が変わった。



 .........クるッッ!!



 やったぁぁぁぁ!!釣れたよぉぉぉぉ!!!



 シャッと飛びついてきたところで、手首のスナップで瞬時に猫じゃらしをズラして噛みつき攻撃を躱す。

 避けられたのが悔しかったらしく、絶対に噛んでやると意気込み、気合いが入ったピノちゃん。


 さぁかかってきなさいっ!!これだよ!これがやりたかったんだよ!!


 猫のバカヤロォォォォ!!



 しばらく続けていたが、ずっと空振りは可哀想なのでたまに噛ませてあげる。


 しかし、手を抜かれた事に苛立ったピノちゃんからお叱りを受ける。


 なので本気を出してみた。



 途中までは楽しんでいたみたいだけど、掠りもしないし、疲れが溜まってきたっぽい。


 ......大人気なくてごめんね。


 焦れたピノちゃんが俺の手目掛けて飛び掛ってきて指を噛まれてしまった。


 甘噛みだったけど。



 疲れたからもう終わり!全然噛み付けなかったから悔しい!と怒った風に言うも、そのまま俺の指に噛みついたままぶら下がっている。


 全然離そうとしないので、指先にぶら下がらせたまま一服する事にした。


 その体勢疲れない?と聞いてみるも、かなり楽だと返される。


 それなら今度外に出る時は、耳たぶに噛み付いてピアスみたいになってみないか提案してみる。


 蛇のピアス。

 ......言ってみたかっただけで、特に深い意味はないよ。ほんとに。


 魔力吸っててもいいならと快諾されたので、今度の外出が楽しみになった。

 だいぶ閉じてきているけど、ピアスの穴がまだちっちゃく残っているので、ソコへ牙を通せばぶら下がりやすいだろう。


 アメリカンみたいにゆらゆらするタイプでぶら下がってくれるのか、リングみたいに丸まってくれるのか楽しみだ。


 一服を終えると、お風呂入りたいから入ろう!と誘われた。

 吸い終わるまで待っててくれたのかな?



 お嬢様は爆睡してるし、俺も特にやりたいことも無いので了承する。

 指にぶら下げたまま、ピノちゃんに負担をかけないようにしつつもマッハで衣服をパージ。


 さぁ入ろっか!


 お湯に体を浸けたところで、俺の指から離れて湯船の中を泳ぎだすピノちゃん。

 気持ちよさそうに泳いでいるから、見てるだけでこっちも嬉しくなる。


 水を操る練習を兼ねて、小さい波を作ってみる。波のプールみたいな感じで。


 急に始めたので、ちょっと驚いていたけどプカーッと浮いたまま身を任せている。


 浮かんだまま波に揺られるの気持ちいいよね。浮き輪にハマり仰向けになりながら波に揺られるの好き。

 その後はお湯をシャワーのようにして掛けてあげたり、小規模で流れの緩い渦潮もどきを作ってあげたりして一緒に楽しんだ。


 本日二度目の入浴だけど、そんなことは気にならない。嬉しそうにしているこの子たちを見れて幸せだ。


ㅤしばらく続けていると満足したようで、俺の頭の上に乗ってダラけだした。

 もう上がるか聞いたら、俺が満足するまで付き合うって言ってくれた。


 ほんとに優しくて可愛い子だなぁ!!


 俺も入るのは二度目だったし、満足しているのでもう上がることに。



 俺が体を拭いている最中に、ありがとう、楽しかったよと言ってくれた。

 だから、そういう事はもうちょっと俺の気が逸れてない時に言って欲しいんだけどぉぉぉ!!


 なんで何かしてる時に言うのかな......

 絶対狙って言ってるよなこの子。


 問い詰めてみたら、面と向かって言うのは恥ずかしいと白状し、結構ガチめのしっぽビンタを俺に浴びせて逃げていってしまった。

 なんだ......ただの素直になりきれないツンデレみたいなもんだったのか。ウチの子たちが可愛すぎて辛いよ。


 後でしっかり謝ろうかね。ガッツリと愛を語りながら。



 うちわを召喚してパタパタと扇ぎながら部屋へと戻る。

 愛のある謝罪をしようと意気込んでいたけど、ピノちゃんはそんなに気にしてないみたいで平然としていた。


 恥ずかしさが一定値を越えてしまっただけなピノちゃんに普通に謝罪をし、仲直りしたばかりのピノちゃんを頭の上に乗せて一緒にうちわで涼んだ。


 もうからかわないでね!と強めに説教されたので、素直に謝った。

 こちらからも一言、もう少し素直になってねと要求はしておいた。



 これからこの子がどういった成長をしてくれるのか楽しみだな。

 素直になるのか、ツンデレを拗らせるのか。それとも変な属性を開花させるのか。


 そんな感じでまったりしていると、日が傾いてきて夕方へと雰囲気が変わってくる。


 今はいい気分だし、湯上りでちょっと体が火照ってる。ちょっと酒でも飲もうかな。


 ピノちゃんには、おやつ用に小さ目のお餅を用意してあげて、俺はハイボールを作って飲み始める。

 ミックスナッツをつまみに、夕方から飲み始めるという贅沢を堪能していった。

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