第16話 出発と急ブレーキ
現在俺の収納には、ものっすごい量のお湯が入っている。努力の結晶とも言える程の量だ。
日本でそんな事をやったら、翌月に無事死亡するであろう。金銭的な意味で。
それで、昨日はお湯を収納に入れてる間がかなーり暇だったので、収納にお湯を入れ続けながら魔法の練習していた。
そしたら【多重思考】のスキルが生えていた。
やったね!でも脳の容量が足りないのか知らないが、今はあんまり活用できない......
いつかきっとコイツは俺の役に立ってくれる事でしょう。
さぁ朝飯を食おうか。
昨日の朝よりも豪華な飯......ふわふわのパンとチーズのスープ、あとサラダとハムだった。
チーズスープはオニオングラタンスープに近い味だった。
チーズが濃厚で美味しかったけど、こっそり胡椒を足した。手が勝手に動いたのです。
パンと良く合っていて満足できました。
他のものは昨日より少しだけクオリティが高かった気がする。
食後に部屋で少しダラけたあと、ゆっくりと準備を始める。
身支度を終わらせて、最後に遮光カーテンを外して収納する。後片付けはこれで終わりかな。
女将さんに丁寧にお礼を言ってから宿を出た。
宿を出た俺が真っ先に向かったのは、昨日行ったパン屋。
そこで色々と焼きたてのパンや、まだ冷めていないパンを多めに仕入れて収納にしまっていく。焼きたてのパンは大正義だ。
やる事を済ませたので、街を出ようと門に向かっていたところ、あの門番が今日も立っているのに気付いた。
探す手間が省けたのは僥倖。ささやかな報復を実行するとしましょう。
ズボンの留め金を糸で外して、そのまま糸で固定。ヤツは突っ立ってる仕事だし、俺が解除するまでは外れる事はないと思う。
この場を離れてから30分後くらいに魔法を解除してあげよう。
下着にまで手をかけないのはいい情報をくれたお礼だ。今後も楽しく門を守っていっておくんなまし。
そんな事をやってから街を出る。あの最初の森方面が東だったから、森と逆方向に進めばいいんですね。
さぁて、王都へ向かって進もー。
◇◇◇
てくてくと歩いていく。
王都方面まで向かう道には、ちゃんと整備された道があるので迷う事はきっとないだろう。
今日のあんこは中型犬サイズになって、俺とのお散歩を楽しんでいる。
いい天気すぎるので、アラクネローブが無かったらきっとお外が辛くなっていただろう。夏はほんと嫌い。
ㅤあんこは冷気を出すのを覚えてからは、自分とって心地良い温度を常に保っているので、こんな暑さでも元気にしている。
あんこを見てみるとソワソワしていたので、運動したいのか、俺と遊びたいんだろうと推理。
軽く走り出してみると、追いかけっこ?やったー!と喜んでいるので、そのまま追いかけっこをしながら道を進んでいく。
五時間程走り続けたので休憩をとることにした。多少息切れしている程度のマイ不思議ボディ。
あんこを見てみるといっぱい走って満足したのか自分で水出して、飲んだり浴びたりして遊んでいる。
人とはそれなりにすれ違ったけど、犬と走ってる俺を見て生暖かい視線を貰った。
これからはなるべく人目を避けて進もう......
息を整えたあとは、石を組んだだけの簡易な竈を作り、火を熾す。
フライパンでスライスしたフランスパンを片面焼き目をつけ一度取り出し、バターを溶かした後にもう片面をカリッとするまで焼いていく。
バターの付いた面に粗挽き胡椒を多めに振り、軽く焼いたベーコンとスライストマトを乗せて完成。
簡単だけどコレが結構うまい。それを二切れアイスコーヒーと共に食べた。
あんこはいつものジャーキーとミルクを。
この後はどうしようかな?
龍さんに頼んで飛んでもらうのもいいんだろうけど、こちらは騒ぎになっていたし止めておいた方がよさそう。
ㅤ閉鎖されたプライベート空間や、人が居ない環境はとても穏やかに過ごせるから、スキップしちゃうのは勿体ないかなぁ......
もともとこんな気質だったのもあり、日本にいた頃から人間社会はあまり好きじゃなかった。
心残りな事も沢山あったけど、こっちに来れた事は今ではよかったと思えている。
あっちでは味わえない旅を、じっくり満喫しながら進もうかね。
よし、休憩はこれで終わり。
さっきまでごちゃごちゃと考えてたけど、このまままったりと進んで行こうと思う。
一度人里に行けた事で、色々と解決したのもあるから特に急ぐ理由もない事に今気付けたし。
そういえば、お勉強した時にダンジョンもある世界だということがわかったので、見つけたら入ってみるのもいいと思っている。
ダンジョンの深層には、不思議な効果のあるお宝があったりするみたい。ダンジョン内は油断ならないと思うから、もし攻略する事ができたなら、その時は自衛もしっかりと出来るようになっているだろうし一石二鳥かもね。
まぁこんな感じの事を、グダグダと考えながら歩いて進んでいく。
一番思う事、それが......モンスターがぜんっぜん出てこないという事。
いい事なんだろうけどさぁ......いや、平和なのはいい事か。何も起きないのが一番。
だが、とりあえずこれだけは言わせてくれ。暇だと。
それにしても平原が延々と続いていくよぉ......走ってる最中にも特にめぼしい物も見つからなかったし。
暇すぎるので、今から歩きながらどれだけ感知の距離を拡げられるか試そうと思う。
歩きながらでも結構余裕で出来るみたいだな。距離は結構伸ばせるっぽいぞ......どれくr......
頭が破裂するかと思った......
半径1キロを越えた瞬間に、脳が情報を処理しきれなくなった。
これは無理だ。無理無理......諦めよう。
半径500メートルも感知することができれば充分すぎるよね。
脳のスペックを強化する事が可能ならば、多分かなり距離が伸ばせるとは思う。
だけど脳のスペックの強化方法なんて、やり方すらわからないし、脳に負荷をかけていくとか怖すぎる。
......強化していたら頭がバァンしちゃった☆とかなるのは絶対に嫌だわ。
無理のない範囲ですこーしずつ伸ばせていけたらいいな。
そんな恐怖体験がありながらも、探知をし続けて進んでいく。すると前方に集団が感知される。
視力を強化してそれらを見てみた。
全員が同じ鎧着ている集団がこちらへ向かって行進中、騎兵もそれなりの数がいる。
厄介事になりそうなスメルがプンプンするので、あんこを抱きしめてから全力で足を強化して走った。
一歩踏み出した瞬間、景色が変わった......
強化の威力がやべぇ......
あの集団には視認すらされてないだろう。楽に振り切れたんだけれども......俺の勢いが止まらない。
このまま止まる事ができないと、不幸な事故が起きてしまう可能性が高い。
覚悟を決めて、全身を強化する。そのまま踏ん張って地面を削りながら止まろう......
そう覚悟していたんだけど、予想は裏切られてビタっと停止した。地面に足を付けて踏ん張った瞬間にビタ止まり。
慣性の法則ナメてたわ。内臓がズレる感覚がしてキツかった。
あんこは無事かな?え......楽しかった?そっかぁ......それはよかったねぇ......
意図せずかなりの距離を稼げた事だし......今日はもうゆっくりしていいかな?
お嬢様ごめんなさい。俺、慣れない事をして疲れちゃったんだ......
ちょっとギュッてさせて......
ありがとう。あぁ、ふわっふわで気持ちいい......
しばらくの間、最高の抱き心地を堪能したので気分を持ち直すことができた。
俺に頼られたのが嬉しかったらしく、すっごいご機嫌になってスリスリとしてくる......鼻血出そうなほど可愛い。
お礼の気持ちを込めて、お嬢様を抱っこしたままジャーキーを食べさせてあげた。
めっちゃ幸せな時間だったわ......たまに出る、私を頼って!な感じのお姉さんモードが堪らなくプリティー。
周囲は少しずつ暗くなってきたし、今日はこのままここで休むことにしよう。
バスタブを召喚して、溜め込んでいたお湯を解放して湯を張る。
何をするのか理解したあんこのテンションがあがった。暖かいお湯気に入ってたもんね。
俺も時間に追われる必要が無くなったので、風呂でゆっくりする時間が好きになったし、この子が気に入った事は沢山させてあげたいと思っている。
念の為周囲にトラップを設置して、似非露天風呂へ入る。
俺に洗われる事が特にお気に入りらしく、めっちゃ喜んでいるのがわかる。
この子が一緒に居てくれるおかげで、毎日がとても楽しい。
日本では絶対に味わえなかったこの生活と、このゆっくりと過ぎていく時間を大事にしよう。
楽しんでいるお嬢様をずっと見ていたく思えて、ちょっと長湯をしてしまった。
ギリギリ逆上せなかったけどフラついている。
身体を冷まそうと思い、かき氷機を召喚する。あんこに、かき氷機にハマるサイズの氷を出してもらって氷を削っていく。
何してんの?ってなってる顔に胸が苦しくなる。これが恋ってヤツなのか......?
出来上がった氷に練乳をかけていく。
そしてまだ何?何?って顔をしているお嬢様へ、練乳かき氷をスプーンで掬って可愛いお口に入れてあげた。
めっちゃキラキラした目でこっちを見てくるお嬢様。お気に召したみたいです。
お嬢様と俺、交互に口に運んでいき無事に完食した。また今度作るからね♪
そしてシロップだったとしても、フルーツ味の物を掛けるのはなんか嫌だった俺。もう完治の見込みのない末期症状でしょう。
その後はいつものルーティンを終わらせてから、睡魔が襲ってくるまでまったりした時間を楽しんでから眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます