第17話 登山とアウトドア飯

 朝がやって来た。


 座ったまま寝る事にも慣れてきたけど、起きた後はやっぱり体が軋む。そして腰とケツが痛い......クッションを増やすしかないかな?他にも道はあるはずだけど、今のとこ代案は思いついていない。




 この事にはなんか早急に対策を考えなくてはならぬ......ケツがお逝きになられてしまう前に。




 死活問題をどうにかしようと考えているとお嬢様が起きてきたので、目覚めたお嬢様におはようもふもふをキめていく。




 満足できたのでこれから朝食タイムにしますよー。



 買い込んだパンの中にあったバターロールみたいなパンとハム、お湯で溶かすだけのコーンスープに胡椒を少々投入。コーンスープのみだと甘すぎるから胡椒で味を引き締める。



 うーん。凝ったモンもおいしいけれど、ド庶民にはやっぱりこういうシンプルなのが口に合う。



 人は急にセレブリティな食生活には慣れる事はない。慣れ親しんだB級グルメがマブダチです。


 フレンチのフルコースなんかよりも、吉〇家の牛丼、味噌汁、たまご、お新香の方がフルコースに感じる。そんな庶民舌。


 まぁこっち来てからセレブった飯は食っていないけど......強いて言うのならばあの魔力牛くらいだけど、今は日本のB級グルメがものすごく恋しくなっている......




 ケツの死活問題を考えていたテンションが、変な方向へ暴走をしてしまった。情緒が不安定になる時だってある。人間だもの。



 あ、インスタントのスープの素は革命だと思っています。さいこー。



 朝食を食べ終わり、身支度を整えてから出発。

 何故かこの体はヒゲが伸びてこなくなっているので身支度がとても楽。だけどもう髭の渋いダンディなおじ様にはなれないのだろうという寂しさもある。

 剃る時間や整える時間を考えると、生えてこなくても問題はないか。やっぱり少し残念だけど、割り切るしかない。



 昨日テンション上がりまくってたうちのお姫様は、今日はフードの中でまったりしたいらしいのですっぽりと収まっている。



 俺の腕の中に収まってくれてもいいのですよー?ねぇねぇあんこちゃーん!


 あ、フードの中がいいんですね。わかりました。




◇◇◇





 こんな感じの事しか起きない平原をタラタラと進むこと五日間。尻問題についにパーフェクトなアンサーが出たので今日の夜お披露目する予定だ。

 これが不正解だったのなら、もうマットレスを喚ぶしかなくなる。



 この五日間、移動の途中で村なども見つけりしたけれど、村に入る理由も意味も見当たらないのでスルーしながら進み続けていた。

 厄介事も嫌だし、人と絡むのが面倒だったしね。


 今日になって、やっと風景が変わってきてくれた。


 そう、目の前に現れたのは山だ。マウンテンだ。遠目には見えていたけど、近くで見るとなると結構なデカさ。


 分かれ道があって、山を迂回するか、山を登るかの二択を迫られている。


 トンネルなどはないので、でっかい山を越えるか避けるしかないのだ。

 俺とあんこの使う魔法以外、まだ見た事はないけど、土魔法使いとかが頑張って掘ってやればいいと思うのに。



 山越えする場合は、かなり厳しいと思うので準備をしっかりとして、自己責任で挑んでください......そう注意書きが記された看板がある。



 山登りなんてガキの頃にしたくらいだし、平原は飽きてきているので実質一択だ。


 このまま突き進もう。俺は自由だ!!


 ダメそうだったり、キツかったりしたならば途中で引き返してから迂回すればいい。



 時間と言う人類の共通の敵は、今の俺には敵でない。


 そう。殺される、アホな事を試して自滅する......ソレ以外に死因が見当たらなくなってきた事で随分と余裕が出来ているから、選択をミスしても大丈夫。

 時間のロスくらいしかデメリットのない選択肢だけは、俺にはなんのデメリットもない選択肢になっている。



 夜中限定の龍さん以外にも移動手段を模索しなかった訳ではないけれど、変わり映えしないこの道中でも歩いていれば何かしらの楽しみを見つけられるはずだと思うんだ。

 馬車とかは酔いそうなので乗りたくない。




 そんなわけで今までと変わらずダラダラ進んで行く所存でございます。


 今日からは楽しいハイキングですよ。




 ちんたら歩いて行くと道が険しくなってきて、自然が濃くなってくる。ここから本格的に登山になるんだろうなぁって感想。





 山に入ってしばらくすると、やっとこさモンスターらしき気配を感知した。嬉しいな。


 こっちに気付いていて警戒をしてるみたいだけど、こちらに近付いてくる気配は無い。


 知能が高いのか、知性があるのか知らないけれど、こんなに穏やかそうなヤツらなら冒険者に討伐を依頼されることなんてないだろうに......悲しいなぁ、人間の業とやらは。



 さらに進んでいくと大きい石......いや、小さな岩がゴロゴロしていて歩きにくくなってくる。

 地滑りか崩落でもあったんかな?





 岩をでけぇなぁとか思いながら見ていたら、ちょっとだけリアル岩風呂が欲しくなってきた。


 それなりの大きさでいい感じの岩を見つけたら一つ貰っていこう。闇糸で加工する事ができるはずだし。



 こんな発見や思いつきも楽しいもんだ。

 老後の楽しみに似てる感覚なのかなーと悟ったような事を思いつつ、またダラダラと進んでいく。




 途中で休憩を挟みながらも、日が暮れてくるまで歩き続けた。



 ゆっくりした一日を過ごしてるはずなのに、一日が終わるのを早く感じる。


 そんな不思議な気分に戸惑いながら、夕暮れの空を見つつ、休めそうな場所を探す。



 いい感じに太い木が二本あり、視界の確保を出来ながらも隠れられる場所を発見したので、今日はここで休むことに決めた。

 地面は平原よりもゴツゴツとしてるので、ケツが終わると思う。なので寝起きに考えていた事を実行するとしよう。



 山キャンプ風な気分を味わいたいし、ゴツゴツした地面は嫌......ならハンモックであろう。不意打ちを受けたら対応出来ないけど、トラップを完備している今の俺のならきっと問題はない......と思う。


 太い木が二本。その両方を使いハンモックを設置した。

 あんこが乗りたがっていたのでハンモック一番乗りを譲る。今日もお疲れ様でした。



 一作業を終えたので、火を熾していく。

 ハンモックを楽しんでいるお嬢様に、鍋に水を入れてもらってお湯を沸かした。



 この大自然の真っ只中で食べるのならカップヌードルしかないだろうと思っている。次点でカレー。異論は認める。



 あれ普段も美味しく食べれるけど、アウトドア系の時に食べるとアホみたいに美味くなる不思議な食べ物。


 海の家の焼きそば、お祭りでのテキ屋のたこ焼きと並んで、雰囲気補正の恩恵を最大限に引き出しやがる。



 それ一つだと絶妙に腹が物足りないので、塩むすびもお供に添えるのが俺の流儀。



 三分待ったので、ヤツはもう完全体になった頃合いだ。気圧の関係もあるだろうけど、あの麺なら多分もう平気でしょう。


 いざ、蓋をオープン。


 このペラいかまぼこ風のナニか、絶妙なふんわり感のたまごっぽいモノ、そしてお馴染み謎のお肉と、一口飲んでコレしょうゆ味?となる不思議なスープ。


 マーベラス......完璧だぜ。


 麺を啜り、スープを一口飲む。あぁホッとする。


 ......こういうのでいいんだよ。こういうので。


 美味しいわぁ......落ち着くよぉ......。


 麺の合間に謎の肉を口にして、それを追いかけるように口に塩むすび投入......それを飲み込んでからスープを啜る。


 至福だ。永遠にループ出来る。



 あっという間に食べ終えて、満足感に浸る。素晴らしい時間だった。

 ありがとう召喚能力!君は素敵だ!



 あんこはまだユラユラを楽しんでいるので、こちらは食後の一服。体に沁みるわぁ......





 一服を終えた俺は、浴槽を取り出してお湯を注ぎ出す......


 すると、それに気付いたあんこがしっぽブンブンさせて寄ってくる。



 さぁお風呂だよー入るよー。



 大自然の中、着衣を全てパージし、体を洗ってからお湯に入る。



 風景を眺めながらまったりすれば体も心も癒される。気持ちいいなぁ。





 途中でお姫様が逃げ出してしまった......悲しい。悲しいぞ。



 逆上せたのかな?......だとしても辛い。




 悲しみに暮れていたら、あひるのおもちゃを口に咥えて帰ってきた。



 それが欲しかったのね!!それじゃあその子も一緒にいれてあげようねー!!



 ぷかぷかするアヒルを目で追いながら、一緒に浮かぶお嬢様の姿を目に焼き付け、山登り初日の入浴を楽しんだ。




 風呂から上がると、お姫様が氷を浮かべてしっぽぶんぶんでお座りしている。



 そっか。かき氷を食べたいのね。

 気に入ったから氷待機でおねだりしているのか......


 んもう!甘えんぼさんめ!

 やろうとすれば削った後の氷みたいのなんて簡単に出せるはずのに。



 あの削れていくのを見るのが楽しいらしく、早く!早く!と急かされる。


 あーもう!可愛いすぎるよ!仰せのままに、お姫様。



 ガリガリと削っていく......それを見て楽しそうなお姫様。



 今日はブルーハ〇イのシロップだ。フルーツ系?なにそれ。


 一緒に食べ始める。


 舌が青くなるのもまた一興。舌をべーってして青い舌を見せると、真似して青い舌を見せてくれた。


 バカップルみたいでちょっと恥ずかしくなったけど可愛すぎて萌えた。



 その後はゆっくりとしながらルーティンをやり終え、ハンモックに入り、お姫様を抱っこしながら就寝。



 久しぶりの地べた以外。そして横になれたのとハンモックの揺れる気持ち良さで、とっても気持ちよく寝る事ができました。



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