第12話 説明と身分証取得

 ......昨日の夜に見られたのだろうか?それとも一昨日の森の中での事だろうか?



 まぁうん。済んだことだし、気にしても仕方ないことだろう。俺に出来ることは、俺のことだと勘づかれないことだ。


 見られてたらしいけど僕ぁ悪くないんや。知らないっすよ。森の大きさと、余計な手間を取らせたあの盗賊が悪い。


 こっちは人的にも物理的にも被害を出したわけではないし、違う龍だって移動したい時もあると思うの。




 ......うん。ちょっと俺の心の平穏の為に、モフみが欲しいのでお嬢様を撫でる。


 あぁ、癒されるわぁ......



 不毛な言い合いをしているヤツらの事などは放っておいて要件を済ませてしまおう。



 あそこが登録するとこっぽいな。よし行こう!サクッと終わらせて帰ろう。



「冒険者登録がしたいんだけど、受付はここでいいのかな?」



 眼鏡をかけた赤茶色の髪のお姉さんが座っていた。20代半ばくらいに見える。



「冒険者ギルド、グラッド支部へようこそ。

 登録ですね、ではこちらに記入を。文字が書けない場合は口頭で承ります。

 登録には銀貨1枚かかりますのでご了承ください。

 ルールや注意事項も書いてありますので目を通しておいてくださいね」



 よし。文字はちゃんと読めるな。

 けど......書けるのかな?こんな文字知らねぇぞ。


 ......えぇい!物は試しだ。ダメだったら故郷の字だって言って誤魔化そう。



「多分平気かな。ダメだったら手間かけるけど口頭でお願いするよ」



 えーっと


 名前、種族、年齢、得意武器か魔法っと。



 ......うぉっ!?書こうとした文字がこっちの文字に勝手に変換される......指の動きが気持ち悪っ......


 白と書こうとしたら、指が勝手に黒って書いた感じ。

 種族は人......っと。一応人でもあると表記されていたからこれでも大丈夫だろう。



 なになに?ランク制でF~A、多大な貢献をしたらその上のSになったりする。


 文字を見るかぎり英語などは全く使っていない......しかしランク表記だけがしっかりとアルファベットで書かれている......



 これはどういう事なのだろうか。転生者や転移者が他にも居て、広めたりしたのか?

 それとも俺の脳が勝手に変換しているのか......



 ......馴染み易くてわかりやすいから、そういうものと思って納得しときましょう。他の地球人がいたって事で。


 この世界に俺が存在している事が、その証拠でだろうね。さぁ、続きを見ていこう。




 ・常時依頼、指名依頼、強制依頼があり、強制依頼は滅多に無いが、発令された場合には参加が強制される

 どうしても参加できない理由や事情がない限り、不参加の場合にはペナルティが課される


 ・冒険者同士の諍いにはギルド側は基本的に関与しない


 ・その諍いにて物や建物が破壊されたら当事者に弁償させる


 ・施設内で武器を抜いて襲いかかるのはNG


 ・問題行動が多いと、強制的に冒険者資格剥奪される事もある


 ・犯罪行為には鉱山での強制労働や奴隷落ち、その町のルールに則っての断罪等がある


 ・ギルドの外で起きる事は全て自己責任となる、だが一般人に迷惑はかけるな


 ・ギルド員や街の住人から犯罪の通報や告発があれば、教会から派遣される審議官の審判スキルを用いて聴取や裁判が行われる


 ......これはわかりやすくていいな。

 最後のは嘘発見器付きでの取調べっぽい。結構しっかりしてるわ。





 んで魔法か武器っと......んー、闇魔法がどんな扱いかわからないから魔法は書かないで、黒糸と刀って書いておく。宗教の思想は怖い。


 なんかあった時に闇糸は便利だし、闇魔法を使ってるのを誤魔化せると思う。


 記入すべき所は全部埋めたので、受付嬢に紙を渡す。



「これで大丈夫かな?あと従魔登録も頼みたいんだけど」



「はい。これで大丈夫ですね。従魔登録も銀貨1枚必要になります。従魔は......そちらのかわいい子でしょうか?」



 ほほぅ......この受付嬢よくわかってんじゃねぇか。

 感心しつつ、銀貨を2枚渡す。



「きゃんっ」



 あぁーきちんと返事出来たねー!偉かわいいよぉぉぉ!!錯乱しながら喉の辺りを撫で回した。



「そうですね。今貴女に返事をしたように、話かければキチンと理解するし、魔法も使えるから問題はないですよ」



 あー、この目はまだ疑ってるなぁ......

 まぁ見た目はまだ小さいし、すっっっごいかわいいから戦えると思わないのは仕方ないんだけどさ......



「それで、従魔用のもなんか書いたりするの?」



「はい。種族、得意攻撃、万が一被害を出してしまった時の責任の所在についてを」



「了解。じゃあ書くから紙をください」




「あー......一応確認しときたいんだけど、正当防衛は認められるんだろうね?俺の命よりも大事なこの子を不当に扱われたり、攻撃されたりしたら一切の猶予も与えずにぶち殺すしかなくなるからさ」



「はい。事実確認はさせてもらいますが、正当な理由があれば責任の所在は相手側になりますので。こちらは冒険者同士と同じです。

 詳しくはそちらにも記載があるのでご確認を。

 それで......あのぉ......あまり過激な発言をするのは御遠慮ください」



 その説明を聞き、紙を受け取って読んで納得したので項目を埋めていく。


 ぶち殺す発言の時に周りがザワついたけど気にしない。これが聞こえていたのなら、バカな行動は起こさないだろう。

 お姉さんは少しビビったみたいだけど平静を装って続けた。さすがぷろだなぁとおもいました。ごめんね。



 あ、やべえ......

 ......うん......種族はとりあえず幻獣にしておく。俺の種族もそうしたし。

 魔という一文字が抜けただけだし......一応嘘は言ってないよ。


 元は幻獣......ってだけだからセーフさ。最初に見た時は幻獣だったし、現在まで再度確認するのを忘れただけなんだよ。うっかりしてしまったなー(棒)


 新種の謎種族爆誕はどちらにも旨味がない悲しい案件だろうからソッとしておく。そしてソッとしておいてほしい。



 幻獣の時点で珍しく、狙われるってんなら降りかかる火の粉は払わせても貰いましょう。それはもう全力で......


 だからいい子のみんなは、この子に懸想しちゃダメだよ。



「はい。出来たんで確認よろしくね」



 俺から紙を受け取り確認するお姉さん。一瞬ピクッと反応したけどそのまま登録を進めた。さすプロ。



「こちらがギルドカードになります。カードに従魔情報も一緒に記載されてますので、間違いが無いかご確認をお願いします。確認が済んで、間違いが無かったら魔力を流してください」



 サッと目を通すが問題は無かった。



「これで終わりかな?丁寧な説明ありがとね。今日は街に着いたばかりで疲れてるからもう帰るよ」



「お疲れ様でした。私、リベラと申します。今後もよろしくお願いしますね」



 会釈してその場を離れた。ここに長居はしないので、今後はよろしくできないと思う。

 うん。疲れたから今日は真っ直ぐ宿に行ってす「ちょっと待ってくれ。一つ聞きたい事があるんだが」ぐゴロゴロ......チッ




 ギルド出て左って言ってたよなぁ......あぁ早く帰ってダラけたいのに......



「......なにかな?」



「見ない顔だけど今日この街に来たんだよな?黒い龍の目撃情報があったんだが何か見なかったか?」



 あー......入る前に聞こえてたアレか......

 厳戒態勢とらせておいても面倒が起きそうだ......うん、誤魔化そう。

 適当にありそうなことをいくつか言って、この場を乗り切ればいいだろう。



「夜にでかいのが空を飛んでいたのは見たかな。暗かったし、急にでかいのが見えてビビっちゃってたからしっかり姿形は確認してはいない。

 そんで、でっかい森があるじゃん?あっちの方に向かって行ってたよ」



 すまんな森。たぶん何人か侵入してくると思うが許してくれ......必要な犠牲ってあると思うの。



「そうか......協力感謝する」



 すぐ引いたな。簡潔に物事を進めるのはいい事だ。


 よし、今度こそ帰れるな。



 まぁどこ探しても黒い龍は見つかる訳が無いので、無駄な努力はしないでおいた方がいいよ。


 ほんとに居たら、そんときはがんばっておくれやす。


 ......と心の中で呟いておく。



 ギルド入っただけで絡まれるということは無く、無事に乗り切れてよかったなぁ。

 テンプレみたいに、あんなヤツらがいるのが日常茶飯事なら、自信過剰なバカか切羽詰まったヤツ以外ギルドに登録しに来ないだろう。きっと。


 それか受付嬢は結構キレイどころが揃ってたからみなさん自重しているんでしょうかね。



 さて、そんな事はいいか。さっさと宿へ向かいましょう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る