第6話 一服と糸と全力召喚

 とりあえず交渉は強引だったけど終了したし、色々と衝撃の事実を突きつけられたので心が疲れた。



 途中からあんこは冷気でひんやりさせた籠の中ですやすや眠っている。羨ましい。



 この世界に来てからあの劇物とジャーキーしか食べてない気がする......というかそれしか食べていないという事を、今更になって気付いてしまった。


 気付いてしまったらもう欲求が止まらない。



 タバコが吸いたい。甘いものを食べたい。

 なんでこんなになるまで我慢できていたんだろう。あっちにいた頃は毎日摂取していたのに。



 一発目は羊羹にしよう。


 羊羹と緑茶で幸せを感じよう。よーし召喚だぁ!!




 目の前には羊羹、タバコ、ペットボトルのお茶が現れた。



 あぁぁ懐かしいよぉ......嬉しいなぁ......!!


 早速タバコを一本......


 あ、火がない......焚き火用のマッチがあった......


 震える手でタバコに火を付けて深く吸い込み、吐き出す。




 すぅぅぅぅ......


 はぁぁぁぁぁ......




 三ヶ月程吸わなかったけどよく平然と出来てたな俺。毎日吸っていたのに。


 クラクラしたりするのかなとも考えていたが、しばらく吸ってなかった割になんも問題なかった。


 吸殻と灰は......極小のブラックホールを展開してポイッと。



 ニコチンを摂取して落ち着いた俺は、次の目標である糖分の摂取に移行する。



 お次は羊羹だ。羊羹とか外郎専用のこの木のナイフ?なんて言うんだろコレ......まぁいいや。


 コレで一口大に切り、刺して口へと運ぶ。


 上品な甘みとあずきの風味、そしてねっとりとした羊羹独特の食感が心を穏やかにしてくれる。飲み込んだ後、口に残る余韻を楽しんだ後にお茶をひとくち。


 口の中に残った甘味を爽やかな緑茶が流していく、そして鼻を緑茶の風味が抜けていく......あぁこのループで永遠に食い続けられる。


 抹茶、緑茶文化に合わせて洗練されてきた和菓子って神だわ。


 欲しい物をピンポイントで召喚できるこの能力に感謝を。



 金なんて払ってないけど......魔力を誰かが換金してから購入してくれてるのだろうか?


 ......深く考えたらダメな気がするのでやめておこう。ご都合主義バンザイ。



 だいぶ心が落ち着いたのでアラクネ達に視線を向けてみる。




 あ、悶えてる......。うんうん。クッソ不味いよね!

 感覚を強化してなければ、初回でも意識を保てるんだなぁ。


 ご愁傷さまです。お!ちゃんと三つ食べきってるよ、この子達凄いな!




 このままだと可哀想だから羊羹と緑茶をお裾分けしてあげよう。


 ペットボトルそのままだと意味わからなくてダメだろうからコップを用意して注いだ。



「ちゃんと食べ切ったんだね。魔力強化おめでとう!!激マズだったでしょ?口直しに俺の好きな甘い物とお茶を用意したからどうぞ」



 多分この時の俺は、この劇物の被害者を見ながら良い笑顔してただろう。



 あ、甘い物って単語に反応して首だけグリンってして顔をこっちに向けてきた......

 ちょっと怖かったけど、目の前に羊羹と緑茶を置いてあげる。



「黒いのは添えてある木のヤツでひとくち大に切り分けて食べてくれ。毒とかは無いから安心していいよ。飲み物は渋いと思うから、黒いのを食べた後に飲んでみて。もし口に合わなかったらごめんね」



 この子達は和菓子の素晴らしさをわかってくれるといいなぁ。

 さて、食べ終わるのをすやすや寝ているあんこを撫でながら待ちますか。




 あ、キャーキャー言ってる。異世界でも異種族でも女の子は変わんないんだなぁ......

 でもどうせ深く付き合うと、人間と一緒で後々面倒くさくなるだろうから俺は絆されない。



 あー緑茶も受け入れられてるみたいだ。よかったよかった。


 日本人の趣味嗜好だと口直しには緑茶が最高だからね。※個人の感想です



 あ、呼ばれている.....モフり足りないけど行かなきゃ......



 あーうん。ちょっと手が離れたがらないからモフるの続けていいよね。



 だめらしい。



 はいはい、すぐ行きますよ......



 何かな?あ、採寸?お願いします。



 さすが本職、手際がいいなぁ。


 ローブのデザインはお任せするので。色は黒で、群青色を使ってワンポイント入れてください。


 シャツは白と黒を一着ずつシンプルなので。


 スボンはそっちのセンスにお任せします。



 下着は......これを参考にしてください。ボクサータイプがマストなのです。伸びる素材は......



 どうすればいいだろうか


 ......あ、ソレを転用して作ってください。五着分渡すんで。



 楽しみにしてます。......ん?



 終わったらあの黒いお菓子がまた欲しいと?

 わかった。お土産にする分も用意してあげるからよろしくね!


 それで、どれくらいで出来るかわかる?


 全力を出すから三時間程待ってだって?


 そんな早いのか......了解。頼んます。






 作業を開始したアラクネたちを観察する。どうやってるのか見てみたら俺でも出来るようになるかもしれない。と安易に考えていた。




 ......しかしアラクネ達は全部の手足使って作業をしているけど早さが目で追えないし、何をどうやっているのかも理解できない。


 その道のプロって半端ないな。


 そしてもう形になってきている。普通に凄いっ!





 おっと、動きをじっくり見ていたら目で追えるようになってきた。俺の身体スペックの強化にご協力頂き、誠にありがとうございます。


 そしてアラクネ達を見ていて思う。うーん......糸かぁ......と。




 闇魔法を細ーく細ーく展開していく......


 お、イケたぞ。それをトラップのように配置......っと。


 これもちゃんと出来た。これで寝てても安心だね。

 それなりに魔力を使ってるから千切られる事はなさそうだし。





 あ、コレを応用すれば......某漫画の蜘蛛の鬼が使っていた、糸を格子状にして敵をバラバラにしてたあの技が使えるんじゃね?


 糸に鋭さがあればだけど。



 この森の木で試してみよう。指から糸や魔法を出すのってちょっと憧れるよね?



 さーて......魔力を込めた糸の威力はどれ程のモノかなー!





 ......抵抗が全くなかった。


 歩いていて、魔力糸トラップの位置を通過したらバラバラになった的な事ができる。ワイヤーソーのトラップ。

 トンネルを抜けたらバラバラ死体でした!みたいな。



 手札の一つとして覚えておいて、容赦しなくていい時に使おう。



 これだけでもアラクネ達との出会いはいいものだったと思える。また必要な物があったら呼ぼう。突然呼び出しても羊羹をあげるだけで許されるだろうし。




 お土産用にノーマル羊羹と栗羊羹を10本ずつ用意しておく。



 それでもまだ、だいぶ時間が残ってるのでメイン武装を召喚しようと思う。素手だとナメられそうだし。


 実は刀で練習しだした時から呼ぶものは決めてある。



 骨喰藤四郎ほねばみとうしろう


 マジモンの凶刀と呼ばれる脇差で、戯れに切るふりをしただけで相手の骨をへし折ったとか切ったとかいう逸話がある。薙刀を打ち直して脇差に仕立てたらしい。

 昇り龍と不動明王の浮き彫りがかっこいい。



 俺は結構一途なタイプなので、気に入った物は使えなくなるまで使うタイプだ。重いと思われるかもしれないけど。


 なのでずっと使っていきたい。

 全魔力を消費したら俺がどうなるかの検証はまだしていなくて不安なので、千くらいの魔力を残し、残りの全魔力を込めて召喚を開始する。





 魔法陣からドス黒い魔力が溢れて赤黒いスパークが起こってる......大丈夫なのかこれは?




 あ、やべっ......あんこが起きてこっちを見てる......起こしちゃってごめんね。



 アラクネ達の方を見てみると、威力強にして地面に置いたローターみたいになってる......申し訳ない。



 それにしても大量に魔力を消費したが、かなりの脱力感を感じる......残り魔力が千を切っているが召喚が成功したみたいで一安心。


 魔力100%の状態から残り何%以下にまで減ると体調が変わる感じかな。


 この感じだと魔力を全部使い切ったらブッ倒れて行動不能になりそうだな......気をつけよう。




 この召喚能力は俺の意識をかなり反映するし、えぐい量の魔力を使ったからきっと妖刀なんかぶっちぎるくらいのスペックになっていそうなので今は鑑定する気がおきない。



 珍しく疲れ切っている俺を心配したのか、あんこが体を大きくしてクッションになってくれた。


 あぁありがたいなぁ。優しい子に育ってくれて俺は嬉しいよ......ふかふかの毛がすごく気持ちいいし、大きくなった姿はすっごい美人さんだね。


 刀を糸でこちらに寄せて収納する。予想以上に疲れてしまったので、アラクネにオーダーした品が完成するまで寝ていよう......

 あんこちゃん寝起きで眠いだろうけど警戒お願いね......




 くぅんと可愛い返事が聞こえたので、俺は安心して眠りについた。


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