第5話 即揺らいだ決意と装備調達

 今まで過ごしていた森から一歩外に出たら、むわっとした湿度を含む生温い空気と、刺すような日差しが襲いかかってきた。


 四季がちゃんとあるのかよ異世界!それともずっと亜熱帯な雰囲気なのか?

 あまりにも不快な暑さに、俺とあんこは揃って顔を歪めた。





 ......よし、逃げ出そうか。俺はこの世界に適合できない。



 暑くもなく寒くもない、そして特別明るくも暗くも感じなくて、煩わしい他の生物が存在しないあの素敵空間へと帰ろう!!変わり映えしない世界はこの際目を瞑ろう。



 俺にはギリギリ冬じゃない秋の気候がベストなので、せめて秋になり、涼しくなるであろう四ヶ月後まで引きこもるんだ!

 あんこたんも嫌そうにしているし、これはもう仕方ないよね♡



 と、逃げる気持ち満々で後ろを振り返るが、あの森が無い。



 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 名無し野郎は こんらんした▽





 えっ?何コレ怖い......見えないだけでそこにあるんだよね?



 意を決して森があった場所へ飛び込んでみたけど入れなかった。目の前には今も同じ景色が続いている。


 あんこと共にしばらく落ち込んだのは言うまでもないだろう。


 あんこは水と氷属性だから、暑いのが苦手みたい。

 俺は闇属性なので日光と暑さは苦手。陽キャにはなれない哀しい生物なのさ。




 ホントにどうしよう......夜になるまで待つか?しかし、それまでに熱と光で死なないとは言いきれない......



 あぁ!闇魔法を遮光カーテンみたいなイメージでローブかなんかに闇魔法をエンチャントすればいいのか!エンチャントなんてやった事ないし、出来るかわからないけど!


 そしてあんこを抱いて、その中で冷気を出してもらえれば......イケそうやん!


「あんこたん!ひんやりした空気出せる?俺が日光を遮断するローブを、闇魔法と召喚でどうにかして作るからその中に入って冷気出してくれたら快適に過ごせると思うんだけど......どう?出来そう?」



「わふんっ!」



 任せて!って感じの意思がドヤ顔と共に伝わってきた。あ、あんこの周りが冷えてる!ドヤったお顔も世界一かわいいよ。

 よし!抱っこしよう!あぁひんやりして気持ちよし。



 気持ちを切り替え、10万程の魔力を込めて肌触りのいいフード付きローブを思い描きながら召喚した。どうせならいいもの欲しいし。


 結構な魔力を込めたので、光がいつもより強い。眩しい。


 すぐに光は収まってきたけどなんかローブとは思えない影がある。

 俺はローブを召喚したつもりなんだけどなぁ......



 出てきたのはアラクネ?上半身は人、下半身は蜘蛛の姿......そんな生物が三体。


 なーにーこれー?

 鑑定さーんお願いしますよっ!



 ▼アラクネプリンセス

 アラクネ種の王女▼



 ▼アラクネメイド

 王女付きのエリート万能メイド▼



 鑑定さんが最低限の仕事しかしない。反抗期ですか?


 ていうかコレ......会話出来るのかな?

 めっちゃ警戒されてるっぽい。怯えてるのかしらんけど震えながら寄り添ってる。

 こっちはこっちで久々の他人との会話だから緊張するわ......心の平穏の為にもあんこを撫でながら話そう。


「えーっと......こんにちは。今の状況理解できますか?俺は召喚士で、ローブが欲しくてローブを召喚したはずなんですが......貴女方が出てきまして絶賛混乱中です」



 言葉通じてなかったらどうしようもないから、その時は送還しよう。


 あ、返答が返ってきそう。



「召喚士様の意図しない形で召喚が行われたようですね。私達も急に召喚されて混乱しております。ローブをご所望との事ですが、貴方様の欲するローブを作成できる可能性のある私達が召喚されたのだと思われます」



 おぉう、よかった!ちゃんと会話出来てる。

 そして頭いいなこの子!意図した物が無い場合には、代替案が提示されるみたいな説明はこういう訳か......やっぱ無駄に万能だな召喚士さん。



「それで......あの、申し訳ないのですけど、こちらも落ち着いて話をさせていただきたいのですが......

 あのですね......貴方様の力量はわかりましたし、願いも承りますので魔力を抑えて貰えませんでしょうか?強力な魔力で意識を保つのがギリギリですので......」



 んぉ?魔力って漏れたりするもんなの?

 自分とあんこの魔力を感知してみると、念を覚えた時のゴ〇さんみたいに、俺からは黒い魔力が、あんこからは群青色の魔力がダダ漏れになっていた。


 おー魔力の色で属性読めるっぽいな、勉強になったわ。

 アラクネさん達は茶色い......土かな?


 ......んで、どーやって抑えようか......アレだと確か......


 えーっと、纏だっけ?


 自分の皮膚を膜で覆うようにイメージしてみたらすぐさま引っ込んだ。やったね!

 あんこも俺を真似したみたいですぐ出来た。マーベラス!うちの子天才!!



 やっと魔力の暴威から解放されたアラクネちゃん達はその場にペタンと座り込んでしまった。ごめんね。

 ステータス見たら【魔威圧】というのが生えてた。効果はそのまんま名前通り。



 あの子達が落ち着いてきたので、詳しく話を聞いてみる。


 アラクネ種の糸から作る布製品は、最高峰のクオリティを誇り、特に王族の女性の糸は上質な魔力を含み国宝に認定される程の反物を作れるんだと。

 そんな話を聞きながら王女さんの服を触らせてもらった......めっちゃ気持ちいい......ロイヤルな魔力糸やばい......





 ......追加で下着とシャツとズボンも頼んでみよう。あの触り心地は正直たまらん。



 そんで、王女さん付きのメイドさんの中で服飾と機織りの得意な子が一緒に喚ばれたらしい。



 仮にも王族に依頼する訳だし何か対価を渡さなきゃいかんよな?拉致った形になる訳だし......


 珍しい物を見飽きているような王族相手であっても、レア物に間違い無いようなブツならば一応ある......


 そう......あるにはあるんだが、果たしてお礼として渡す物が劇物でもいいのだろうか?



 一旦見せてみて反応を伺ってみるか?嫌な顔をされたら、その時はあの不思議な森産のキレイな石や木でも渡せばいいだろう。



 相手は王族なので、一度頭を下げてから話出す。


「意図した訳じゃなくても、王女を拉致した形になってしまい申し訳ありません。

 それでお願いなのですが、シャツを二着、ズボンも二着、下着を五着、ローブを二着お願いしたいです。

 その対価として、コレを考えていますが......どうでしょう?」


 と言ってから劇物を三つ取り出した。まだまだ沢山あるし、正しい価値なんて知らんから要求された数を追加で出せばいいだろ。




 ......あーやっちゃったかもしれん。


 ......対応を間違えたみたいだ、ブルブルと怒りに震えていらっしゃる。

 最高の布製品の対価が激レアだけど激マズ果実とか......やっぱ怒るよなぁ。



 知らないで食べたら吐くもん絶対......そして、知ってたら食べたくないもん。


 怒られたら取り下げて収納の中の物と、地球産のアクセとかでキレイなのを喚んでソレをあげればいいよね。



 あ、怒りがおさまりそう。どんな反応くるかな......怖いわぁ......



「あのぉ......その果実は魔樹の実ですよね?た、食べるだけで寿命と魔力が伸びると言う伝説の......」




 Why!?

 ......おーけー、落ち着け俺。

 魔力は伸びた。これは確定。


 そして......今なんつった!?このメイドさんは?寿命?


 鑑定さんはそんな事言ってなかったぞ。



 三ヶ月のうちに、最低でも180個以上は食べた。

 だってあの森の木が見える範囲全部魔樹だったし、大豊作だったから味の事は諦めて栄養補給兼魔力上昇の為の修行と思って食べてた。



 それから、森を出ると決めてからこれまでに食べれるだけ食べた。というより腹に詰め込んだ。



 多分合計400個以上食べている。


 1個につき1年とかだったりしたらヤバい事になる。

 一旦心を落ち着けよう......


 あんこたんおいでー......あーよしよし......相変わらずかわいいなぁもう!




「あ、あの......何か気に障る事を言ってしまいましたか?申し訳ありません......」




 名無し野郎は 正気に戻った▽



 大丈夫、俺は冷静な男。


「あ、いや......え?コレって寿命も伸びるの?魔力が増えるとしか鑑定に表示されてなかったんだけど」


 ダメだった。まだかなりテンパってる。



「要因はわからないのですが、魔力総量が多ければ多いほど老化のスピードが遅くなり、長生きできると言われています。

 100年も生きられない人種ですが、魔力が多いと200年以上生きたケースもあります」




「そうなんだー知らなかったわーすごいねーこの実ってー(棒)」



 もう意味わからん。俺の寿命どうなってるかわからん。

 あ、でもあんこにずっと魔力チューチューさせてればお互い長生きできるやん!

 ......あとは暇になった時に考えよう。現実なんて見つめたら負けだ。



「多分その伝説の果実であってる。そして俺にはコイツの正式な価値がわからない」



「私達にも正式な価値はわかりません。権力者がこぞって欲しがるので......オークションに流せば値段は青天井になると思いますので......」



 ......やべぇモンだった。

 もう知らん!自由に生きてやるよ!俺は!!さっきから崩れてたし言葉遣いとかもう気にしなくていいや。



「わかった。対価はこの実を三つずつと、自由にしていい一つを渡す。

 けどそれはその場で食べてもらう。三つ食べれば多少は魔力があがるだろうから、糸の質と作業効率があがるでしょ?そしてお土産用に一つ渡すから、オークションに流すなり国に献上するなり好きにしてくれ。


 そんで俺には最高の衣服を頼むよ」



 あ、またブルブルしてる。



「こちらが貰いすぎですよぉ!!種族毎に上昇値は変わるので三つも食べればアラクネ種から頭一つ抜け出しちゃいます......」



「魔力量が上がれば糸の質や布の質あがるんでしょ?食べてから作業よろしくね!送還するのはこちらの意思だから諦めて食べて、そして俺に服を作ってくれ。

 あ、この場から逃げられないように俺が全力で魔法を使ってやばいフィールド作るから」



 早口で捲し立てた。もうどうにでもなーれ★


 遠くを見つめながらアラクネ達が頷いてたので交渉は成立したみたい。よかったよかった!

 ......さぁ召し上がれ♡


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