第4話 成長と脱引きこもり

 なんやかんやあったが、あれから三ヶ月が経過した。


 特に語るべきことなどはない。わんこが可愛かったという事ならたくさん語れるが。



 感覚を強化し、超鋭敏になった味覚と嗅覚で激マズ果実を食べて意識を失う......

 という愚行を、原因(身体強化)に気付くまで二ヶ月くらい繰り返していただけだもの。






 俺は魔力もかなり増量し、やれる事や召喚できるモノがかなり増えた。



 闇魔法は......アレはかなり便利魔法で、俺の特殊すぎる召喚士の能力と組み合わせるとかなり極悪な力になるのがわかった。




 ・闇魔法を薄く広げて影を感知し索敵(わんことのかくれんぼで取得)

 ・そのまま影から攻撃もできる(鬼の俺からの逃げるわんこへのタッチ)

 ・ブラックホールみたいなものを作れる(ゴミ捨て用)

 ・ブラックホール作りの途中派生で闇に収納機能が出来た(まんまインベントリ)


 こんなのが作れました。いやー便利。





 まだわんこ以外の生き物を見た事がないので試せていないけど、収納から地球産の薬品を塗りたくった黒塗りの針を影から射出すれば、対人戦闘は楽勝だと思う。

 某金ピカ王様の必殺技を死角から撃てる感じを思い浮かべて試してみた結果です。



 そして、とりあえずこれが三ヶ月近く行った愚行の成果である。


 ▼NO NAME

 人族ㅤ21歳

 職業:召喚士


 レベル1ㅤ魔力3,768,200/3,768,200


 スキル:【鑑定】【闇魔法】【魔力掌握】【神体強化】【金剛精神】【悪食】【溺愛テイマー】【刀術Lv5】▼



 まずスキル名がなんか知らんけど、凶悪な名前に変わっている。


 とある二つのスキルが二ヶ月に渡り、俺の事をどうにかして気絶させようと、あの手この手で襲いかかってきたからである。こんなのになった原因はスキルのせいであって俺は悪くない。きっと。



 スキル効果は......鑑定さん出番ですよ!




 ▼魔力掌握

 魔力を掌握する

 飽くなき探究心により魔力の真理を理解し、体内外問わず魔力を意のままに操る

 同スキルを持つ者同士なら魔力量で勝敗が決まる▼


 探求なんて全くしていない。ただ変なループにハマっただけだ。ちなみに理解も出来ていない。その道の求道者が生涯を賭けても、理解するのは無理な事だと思う。



 ▼神体強化

 戦神の如く身体を強化できる

 呼吸するように部位強化し、強化の幅は文字通り神の如き肉体になる

 同スキルを持つ者同士なら素の状態の肉体の強さで勝敗が決まる▼



 呼吸するように襲いかかってくる不味さを迎え撃とうとしてただけです。それが不正解だと気付かずに。



 ▼金剛精神

 何があろうと動じない金剛石の如き硬さの無敵精神

 気を狂わせずにこの域まで達した者を人はどう思うのだろうか▼


 怪我の功名だね。わんこがいなきゃ廃人まっしぐらでしたよほんと。守るものがあると人は強くなれるんだよ......アハハハハハ......



 ▼悪食

 口にしたものは全て喰らう者

 経口摂取した物は、何であれ無事に食べられる

 体内に入った物は正常に分解吸収される

 しかし味覚は正常なのでそれが幸せなのかはわからない▼


 毒だろうがダークマターだろうが何でも来いや!くそがっ!

 不味いモノを食った時だけは味覚を狂わせてくれる優しさを見せやがれよ!!



 ▼溺愛テイマー

 伴侶にする勢いでテイムした生物を愛した者

 称号みたいだが立派なスキルであり、魔力共有、意思疎通が可能になる▼


 果実にヤられたマイハートを癒して貰ってたらこうなりました。退廃的な共依存と言っても過言ではないでしょう。

 この子無しではもう生きて行けません。この気持ちは一方通行じゃないはず。


 スキル説明に俺の感想を添えてみました。



 ところどころ辛辣な事を言う鑑定さん。

 それにすごいよね、あの果実。食べ続けるだけで最上位と思われるスキル獲得できるんだから......ちなみに一日に約二個ずつ食べていた。


 身体能力もかなり上がったと思う。誠に遺憾であるが、栄養価はあの劇物でバッチリ摂れていたし、わんことの追いかけっこやじゃれあいで体力も速度も上がった。



 気絶してる時間がなくなった時に暇を持て余していた俺は、何となく木刀を召喚して振り続けた。

 そしたら刀術スキルをゲットできたのと、細マッチョの美ボディに大変身してかなり嬉しかった。



 余談だが、あの果実は未だに感覚を強化して食べると意識を飛ばせる劇物です。

 多分この世界最はあの劇物である果実だ。




 そして、わんこには名前を付けた。今はのびのびと成長していっております。体の大きさも自在に操れるようになったけど子犬サイズでいつもじゃれついてくるので、もう堪りません。


 この子の鑑定結果を見てみましょう!


 ▼あんこ

 幻獣ㅤ0歳


 レベル1ㅤ魔力300,000/300,000


 スキル:【氷魔法】【水魔法】【縮地】【威圧】


 備考:召喚契約よりテイムの方が繋がりが強く感じられるのでテイムされた

 主従ではなく伴侶のように愛情を一心に受けている

 好物はビーフジャーキー、主食は主人の魔力▼



 ちなみに縮地は追いかけっこ、威圧はタオル引っ張り合いで唸ってたら覚えていた。


 もうほんっっっとに可愛いすぎるんですよこの子!


 餡子食べたいなぁって呟いた時に、「あんこ」って単語に凄く反応した。

 それで名前あんこがいいの?って聞いたら激甘えしてきたのであんこに決定。


 あの時の激甘えは至福すぎました。




 新しくブランケット用意したけれど、最初にあげた安物のブランケットを愛用してくれてる。

 なので新しく用意したブランケットは俺が寝る時に使っている。




 こんな感じでしたがどうだったでしょうか。


 自衛の手段はそれなりに出来たと思う。油断は出来ないし、するつもりも無い。なので簡単に他のヤツらき負けるなんて事は無いだろうと思っている。



 ずっとこのまま、ここで生きていけるんだけど、うちの子には色々な景色見せてあげたいし、他の動物との交流をさせてあげたい(じゃれ合うのを見たい)。

 樹木と青リンゴだけの同じ景色ばかりなのも変わり映えしなくて精神的にキツいってのもある。




 不思議なことにこの近辺は、鳴き声だけは聞こえるのに生物が全くいないので、この世界のスタンダードがわからないし、自分がこのまま名無しなのも気持ち悪いし。


 長々と語ったが、変わり映えしないこの環境が辛くなっただけだ。永住するのならばもうちょっと変化が欲しい。



 変わり映えの無さに他の子も喚んで育てようかなとか考えたけど、相思相愛なあんこが悲しい気持ちになったら嫌なのでしない。

 気の合う仲間や動物見つけた時に、あんこからウチの子にしてってお願いされたらしようと思う。



 そして最後に......これはあまり重要ではないけど、レベルが1な事がちょっとだけ悲しい。


 このような理由から俺はこの森から外に出ることに決めた。





 生っていた激マズ果実は見える範囲のモノは全て回収し終えている、木も家具にすると高級品との事なので五本ほど回収した。


 これから何があってもいいようにもっと多くあの実を食べようと思っている。

 あんこの了承も取れたのでいざお外へ!




 最初はお散歩に興奮してたけど、森が続きまくるのでだんだんテンションが下がる。


 森の中は変わり映えしないので、あんこ姫様は早々に飽きたらしく、ブランケットにくるまって抱っこされている。



 三日かけてようやく木と草以外を発見。ちょっとこの森は広すぎだと思うの。

 ちょっと大きな湖を見つけたので、ここで一旦休む事にした。



 いつも水を出してもらってるけど自然のものを見た事なかったあんこが大はしゃぎしていて目が幸せだった。

 湖に飛び込み、犬かきで泳ぐ姿もたまらない、永住する場所には絶対プール作ろうと決めた。



 見てるだけなのもアレなので、俺も水遊びに参加。大量の水があるので水の使い方を教えながら遊んだ。水魔法で再現出来た時の嬉しそうな姿は鼻血モノでした。



 ──この時、主人と愛犬は遊んでいただけだったのだが、水場で出会ったら生を諦めろ...と言われている魔物が無言で首を差し出す程の強者の土台が出来上がっていたのは本人達も知らない。





 なんとなく某番組で見た事あるようなアヒルのおもちゃを浮かべたらかわいいんじゃないか......と思い、こっそり召喚し夢中になって水遊びしているあんこの傍に浮かべる。


 大興奮して、アヒルにじゃれつくあんこちゃん!宇宙一プリチーですよ!

 ブランケット、ミルク皿に続くあんこの宝物に追加されたアヒルさんを寝る時に使っている籠の中にしまうあんこなのでしたー。



◇◇◇



 それから一週間、森を彷徨い続けた。

 移動中に草花や石を鑑定しながら進み、気になった物は収納していった。

ㅤそれも途中で飽きて、見た目だけ気になった物を収納するのに切り替えた。




 やがて木の大きさがだんだんと小さくなってきたので外が近くなってきた気がする。


 空気が明らかに変わってきたみたい。あんこもそれに気付き、落ち着きがなくなってきている。




 さて、森から抜ける寸前のここらへんで本格的に覚悟を決めておく必要がある。


 一旦立ち止まってしっかりと思考する。


 外に出れば悪意のある生物や人間がいる、この子を危険に晒す事もあると思う。


 そう......ここは異世界だ。前の世界とは何もかも違うからこそ、今までと違う生き方をしなきゃいけない可能性がある。



 俺の雰囲気が変わった事を察したあんこたんが「くぅん」と不安そうに見つめてきた。


 もう大丈夫......覚悟は決めれたよ。あんこちゃん。



 遭遇した異世界人第一号が善人だった場合、この世界の人やルールに歩み寄ってこの子と共に生きる。


 悪人だった場合なら、他者とはビジネスライクな付き合い以外をしない。後顧の憂いを完全に断つために無慈悲になろう......悪意には殺意を!



 そう誓い、今まで過ごした森の中から外に出た。







 ─────主人公とあんこはこの時点で凶悪生物ですが本人達は知りません。

 魔王と呼ばれる存在を瞬殺出来るレベル1である。


 森を出ると決めてから果実を爆食いし、魔力と栄養を過剰摂取した状態でずっと走り続け、意図せず行われる肉体改造、あんこも抱かれている時はずっと魔力をチューチューしていた。


 悪食のせいで毒殺できず、金剛精神で状態異常はあんこチャーム以外は無効。


 あんこはあんこで魔力の化身みたいなものなので、同等以上の魔力じゃないと殺せないし、主人との遊びから覚えた技はえげつない。



 ......が、それに気付くのはいつになるのか。

 こうして凶悪生物が二体、幻想の森という場所から解き放たれたのでした。


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