第20話 激闘

 異世界での歳月は飛ぶように過ぎ、その月日の大半をアリアと共に過ごしていた。

 最初は半ば以上強引に連れ去られる形で、授業のない日は世界の様々な場所を巡った。春は花から花へ渡る微風そよかぜを感じながら野を歩き、夏は海の冷気を浴びて満天の星空を眺め、秋は紅葉を眺めながらソフトクリームを食べた。

 東は初めは嫌がっていたが、異世界の景色は彼にとって新鮮なものばかりであり、興奮気味で観光すると、自然と隣にいるアリアとの会話も弾んだ。

 東はアリアの強情さに辟易へきえきする一方で、国や大陸を統べようとする誇りと執念を持ちながらもほがらかで親しみやすい性格に次第に安らぎを感じるようになり、そんな彼女を最後には友達以上の関係になるまで信頼するようになった。

 冬のある日の夜、二人はこっそりと自宅を抜け出して、街の中にある一際大きい木の下で待ち合わせた。した事といえば他愛のないことだが、賑やかな街の灯を眺め、プレゼントを渡し合い、最後には少し恋人らしい事もした。

 楽しかった。そう断言するほど、アリアと過ごす日々は尊く眩いものだった。

 だが、後に知ることとなった。この穏やかな日々に煉獄の炎、生命を焼き滅す破壊の力が襲いかかろうとしていることを。



「アズマ、起きなさいよ。次の授業始まるわよ」

 既に我が家も同然に慣れ親しんだエイト・プリンス魔法学校の第三講義室の机で、東は眠りから覚めた。

 気怠けだるさが抜けきれないまま体を起こすと、金髪の巻き毛に凛々しい顔立ちをした美少女が目の前に立っていた。

「わるいアリア、俺はパスだ。あいつの授業ゴミだから受けたくない。もう少しここで寝るわ」

 躊躇いなく呟くと、すぐさま東は寝直す準備に入る。こうなった東が梃子てこでも動かないことをアリアはとうの昔に弁えている。

 傲岸ごうがんな態度とは裏腹に、他人を当てにしなくても自力で課題を解決できるところが東の持ち味といえよう。その器の大きさに、アリアは呆れると同時に敬服もしていた。

「分かったわよ。先生にはそれっぽい言い訳しておくから。それと、今週末の予定を忘れてないわよね?」

「もちろん、朝九時にいつもの噴水広場で待ち合わせだろ? 楽しみにしてるよ」

 その答えに満足したのか、アリアは柔らかく微笑むと、そっと東の頬を指先で慈しむようにでながら囁きかけた。

「じゃあ、また後でね」

 これが東とアリアが交わした最後の会話だった。

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