第20話 すべての人の心に花を-20
屈託のないまゆみの問い掛けに、しのぶは硬直して答えられなかった。まゆみは全く悪気なく、屈託のない笑みを向けている。和美も、屈託なく、しのぶを見つめている。ただ、しのぶ一人が、緊張してしまった。それを察した朝夢見は、軽く微笑みながらまゆみに言った。
「家出したかったからでしょ」
その単純な答えにまゆみは目線をしのぶから朝夢見に移し、笑みを漏らした。
「そっかぁ」
「そんなもんなの?」
「そんなもんよ」
まゆみは屈託なく笑みを浮かべている。そして、静かに、しのぶに微笑んでいた。
「ね、そうでしょ?」
「…ぅん」
しのぶは朝夢見に見入られたまま頷いた。一瞬、朝夢見と由起子の影が重なりながら。
「でも…、家出したくなったことってある?まゆみちゃん」
和美がまゆみに訊ねた。
「ん、んん。あたし、ない」
「あたしも。ね、あゆみさんは?」
「あたし?あたしん家は、小さいときから母子家庭だったから、そんなこと考えてる暇もなかったわ。お店やってたし、毎日毎日忙しくって、この世の中に二人っきり、っていう感覚だったな…」
「…ごめんなさい。変なこと訊いて…」
「いいわよ。でも、仙貴の話なんか聞いてると、やっぱり、家にいたくない、っていうのはあるみたいだから、ネ」
朝夢見はしのぶにウインクして見せた。しのぶは、声にならない声で頷いた。
「ま、未来ちゃんみたいなのもいるけどね」
「あ、北斗君の彼女?」
「そう。北斗君に会いたいがために、家出して捜してたの」
「すごいなぁ。そんなの、あたしできない」
「いやいや、案外まゆみちゃんだったらやるかもよ」
「そうかな…」
「だって、思い込みが強いから」
「そうかなぁ…」
「そうそう。ね、あゆみさん、そう思わない?」
こういう女の子同士の話に入るのは、いつ以来だったろうか。しのぶは、ふと、そう思いながら、三人のやりとりを見ていた。
ふと振り返ると、窓からの陽射しは眩しく、空は白くすら見えた。
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