第5話 すべての人の心に花を-5

 由起子のパジャマを纏ったしのぶは、少し大きなパジャマに合わせるようにポーズを取りながら、風合いを楽しみ、そして、少し、照れた様を見せながら、ゆっくりと由起子の様子を伺った。しのぶの一連の行動を見つめていた由起子は、しのぶの視線に応えるように、微笑みながら頷くと、

「さぁ、寝ましょ」と言った。しのぶは小さく頷いたものの、戸惑って、由起子の招くベッドには入れなかった。

「どうしたの?」

素朴な疑問のまなざしで言葉を投げ掛けられてしのぶは、ようやく身をベッドに寄せた。そして由起子が招く蒲団の中に身を預けた。クッションは静かにしのぶの重さを受け止め、抱きかかえられる腕の中に身を任せると、柔らかな布地を透して由起子の温もりが肌に馴染む。それに戸惑いながら、しのぶは身を縮めた。由起子が、やさしくしのぶを包み込んだ。その感触が一層しのぶには心地よかった。ふ、と目を開いて間近の由起子の顔を見た。由起子は微笑みながらしのぶを見つめている。由起子の息づかいまで感じられる。しのぶは思わず笑みを零した。そして、涙が溢れてきた。止めようのない嗚咽の中でしのぶは由起子に身を預け、そして由起子は、しっかりと、しのぶを抱き締めて、やがて眠るまで、包み込み続けた。


          *



 教室に入ってきた由起子の後ろに私服の少女が立っていた。しのぶだった。由起子の服をまとった少女は、少し緊張の様子を見せていたが、俯きながらも微笑みをクラスのみんなに見せていた。好奇の目がしのぶに向けられる中で、由起子は堂々と話し出した。

「はい、みんな、よく聞いて。この子は、しのぶちゃん。ちょっと、事情があって、しばらくこのクラスで一緒に勉強することになりました。制服は、そうね、今日か明日くらいに、用意するわ、ね。それで、みんな、仲良くしてあげてね」

由起子の言葉に注意していたクラスのみんなは、頷く者もあれば、隣席の者と話し出す者もいた。そんな中で、しのぶは小さく、よろしく、と言いながら会釈した。その様を見て満足したように由起子は微笑むと、

「朝夢見ちゃん」と、声を掛けた。

「はい?」

朝夢見が驚いたように応えると、由起子は言った。

「しのぶちゃんの面倒を見てあげて」

そう言う由起子の微笑みを見て、朝夢見は察したように頷いた。そして、しのぶを招くと、自分の席の隣に座らせた。しのぶは、小さく挨拶をしながら、席に着いた。由起子は満足そうに微笑みながらその光景を見ていた。


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