第4話 すべての人の心に花を-4
イチローを見送った由起子が部屋の中に戻ると、少女は身を起こして由起子を見ていた。じっと、身じろぎもしないで、真っ直ぐに由起子を見ていた。由起子はそんな少女に小さく微笑みながら訊ねた。
「どうしたの?」
「なんで?」
「なにが?」
「なんで、連れてきたの?」
「だって、女の子、放っておけないわ」
「ふぅん。そんなもん?」
「そうよ」
由起子はゆっくりと近づいて、ソファの隣に腰掛けた。
「ね、あなた、名前は?」
「……」
「名前は、何ていうの?」
幼子に諭すような問い掛けに、少女は、ゆっくりと、口を開いた。
「……しのぶ」
「しのぶ、ちゃん、ね」
「……ん」
「歳はいくつ?」
「……」
「言いたくないの?」
「……」
「そう。ずっと、あんなことしてるの?」
「え…?」
「ああやって、お金もらって、生活してるの?」
「……ぅん」
「家は?」
「……」
「…そう。じゃあ、しばらく、ここにいてもいいわよ」
「え…?」
「行くところはないんでしょ?じゃあ、いいわよ、ここにいても」
「……でも」
「何か、最初と雰囲気違うわね。金くれ、って言ってたのに」
「いいよ。あたし。メシ食わしてもらったし。それで、充分」
「心配しなくてもいいわ。警察になんか連れていかない」
「え?」
「あなたが、自分で話すまで、身元も訊かない」
「…」
「あなたが、話してくれるまで、あたしは何も訊かない。あなたは、しのぶちゃん。それでいい。だけど、ここにいて。心配だから」
「……ど…うして?」
「ただ、心配なの。それだけ」
しのぶは見入られるように由起子の目を見つめた。そして、由起子が頷くのに合わせて、こくりと頷くだけだった。
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