第6話 すべての人の心に花を-6
今朝の園長室で由起子は訴えた。どうか、しのぶを仮編入させて欲しいと。園長はいつものように寛大な態度で由起子の訴えを聞いていた。しかし、仮編入には、それなりの理由が必要だった。いじめによる登校拒否、帰国子女のため日本の学校に馴染めない。何か明確な理由がある場合に認められる、仮編入制度。身元不明の家出少女のしのぶを、受け入れてもらうには理由が少なすぎた。身元保証人もいない。単なる非行少女と見なされても、反論できない。それでも、由起子は言い切った。すべての責任は自分が取る。だから、しのぶを編入させてほしい、と。園長は、由起子の態度に軟化した。そして、仮編入のための審査を兼ねて、とりあえず由起子のクラスに編入させる、ということだった。由起子もそれで快諾した。これで、苗字のない「しのぶ」という少女の仮々編入が認められた。
しのぶは、今、朝夢見に笑顔で挨拶している。朝夢見も、何の違和感もなく受け入れている。その光景は、由起子にとって、何よりも期待していた光景だった。
*
「あたし、清水朝夢見。よろしく」
「あたし、西野和美」
「古木まゆみです。よろしくネ」
ホームルームを終えた由起子先生が出ていくと、立て続けに挨拶されてしのぶは困惑してしまった。こんなにも、あっさりと、自分を受け入れてもらえるとは思っていなかった。しどろもどろになりながら、
「あ…、岩崎…しのぶ、といいます。…よろしく」
と答えてしまった。
朝夢見は、しのぶの様子に委細構わず、机を寄せて、
「教科書ないんでしょ?一緒に見ましょ」と言ってくれた。しのぶは、どきまぎしながらも、素直に頷いてしまい、昨夜由起子にしたように、朝夢見に身を寄せた。
訳もわからないまま一日が過ぎた。由起子の作ってくれた弁当を頬張りながら見回すと、気さくに話し掛けてくれる周りの少女たちに、いつしかしのぶの顔からは笑みが消えなくなった。
放課後、朝夢見と和美とまゆみの三人は、しのぶを連れて校内を案内してあげると誘ってくれた。中央階段を下りて一階の掲示板前に降り立つと、小さいながらも、活気の感じられる校内はしのぶの目には新鮮に見えた。北校舎の視聴覚室から、図書室、クラブ活動の盛んな体育館を回って、音楽室や校庭グラウンドへと回る間、三人は気さくに説明をしてくれた。しのぶは、今日会ったばかりにもかかわらず親切すぎる三人に、気後れしてしまい、なぜか自分が自分でないようだった。三人に連れられ、見るものの新鮮さを感じる以上に、三人に感動している自分を感じていた。
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