宇宙船スレイプニル
水原麻以
第1話
星間宇宙船『スレイプニル』には、とある制約がある。
乗員が冷凍睡眠に耐えられない、という制限だ。
しかし、冷凍睡眠での睡眠制限は惑星、または惑星間移民船、または星系内開拓船団の乗員であるという条件があった。
だから、銀河系においては冷凍睡眠は制限されず、その代わりに快適な密航者となることができる。
惑星開拓船団と星系開拓船団の乗組員達は、交代で勤務する。
宇宙船における冷凍睡眠装置の稼働時間が足りないからだった。私は機器の故障で目が覚めた。
恒星間宇宙船であれば、動作が絶対保証されていた筈のものだった。
システムトラブルによって、乗員の目が覚める宇宙船もあるのだそうだ。
つまりは、惑星内に閉じ込められている宇宙船だ。
冷凍睡眠装置がなければ、恒星間宇宙船では、冬眠中に餓死してしまう。長距離移動では凍らせないといけないのだ。
しかし、宇宙開拓船の場合は冷凍睡眠装置が無くとも、解凍モードで眠り続けることはできる。
冷凍睡眠装置は使用者の代謝を制限する機能があるからだ。
急な目覚めで体温の調整がおぼつかない。
そこで私は窮屈な宇宙服を脱いでセーラー服姿になった。
きついズボンを脱ぎ捨てるとプリーツスカートに履き替えた。
宇宙服の冷たさと、セーラー服が涼しすぎて、暑いくらいだ。
そしてヘルメットを脱ぐと長い黒髪が肩まで垂れた。
私はうっとおしいので電動バリカンを取り出した。もう十日も頭を洗ってないので痒い。このまま丸坊主に刈ってしまおう。
私はバリカンで自分の髪を剃りはじめた。
「うふふ。尼僧みたいだわ」私は鏡に映る自分の姿に笑った。
尼僧らしい尼僧の尼僧。
私は髪の毛を剃りながらも、自分の髪を指で触る。
美容室で切ってくるのなら、もっと長いかもしれない。
それに、この髪の毛で宇宙に出るなんてありえない。
私は自分の髪を撫でる。
いつもこうしていれば、もっと違う私になるだろうか。
そう思いながらも、髪を梳いて、切った後は全て剃ってしまおうと心に決めていた。
私はバリカンを髪に当てる。
鏡にはスキンヘッドの女子高生が映っている。
それは私だ。
私は自分の頭を撫でて、ゆっくりと撫でる。
私が撫でる度に、彼女の唇が動き、小さな嬌声が漏れる。
私は彼女に、優しく微笑んで抱き締める。
その手が私の頭を掴む。
私は彼女の手に力を入れると、愛しい彼女の顔を自分の顔に埋める。
私の顔は真っ赤になっていた。
私の耳に自分の吐息が流れた。
私が彼女にキスをした。
彼女は私の頬にキスをする。
彼女の顔は少し赤くなっている。
私は彼女の腰を掴むと、一気にキスをした。
彼女の唇が私の奥の方で動く。
私は彼女の体を離すと、彼女の唇を吸う。
私の愛しさが彼女に伝わり、彼女は私の体を激しく抱き寄せる。
私は彼女の顔を見上げ、彼女のキスを受け入れる。
私は彼女の息が頬に触れると、愛しく感じ、彼女の体を抱く。
彼女の口は私の胸で、甘い味を含んでいる。
私は彼女の体を支えながら、彼女の顎と、彼女の頬を自分の顎で触る。
彼女の唇の味が私の頭に残る。
その感触を求め、私は彼女の胸にキスをする。
すると彼女の体は小刻みに震えだし、私は彼女を強く抱き寄せる。
私は彼女の唇から、彼女の唇の感触をまじまじと感じる。
すると、彼女の体が動いて、私の唇を貪るように、私の唇に彼女の唇の感触を求める。
私と彼女は、互いの体に触れるだけのキスをして、抱き合う。
その度に彼女の、熱く燃えるような、濡れた音が響く。
その音を、宇宙船の中にいる私は全身で感じる。
私を見つめる彼女の目の中に、嫉妬に怒り狂う彼女の顔が見える。
彼女の顔は、いつもみたいに意地悪だ。
私の胸にある彼女の唇の感触は、私を焦がしたい。
そう思うと、私の涙が出てくる。
私は強く抱き寄せていた彼女を抱き寄せる。
彼女の匂う彼女の息が私の頭の中で響く。
彼女の顔を見ると、彼女が笑っている。
私はそれを見て確信する。
私は君に恋をしている。
そして彼女を愛おしく思っている。
彼女と出会うことが、彼女を強く思えることが、私を強くしてくれる。
彼女があまりにも愛おしい。
彼女を目の前にすると、私はなんだか泣きたくなってしまう。
彼女の顔を見ると、彼女と目が合う。
彼女が私に抱き寄せるように体を寄せてくる。
私の唇の感触は本当に気持ちが良い。
そうしてまた、私は彼女に愛された。
それだけで、私たちはまだ付き合っていると実感できる。
愛された。それだけで、私たちはまだ付き合っていると実感できる。
「あなたは、私が愛した存在なの?」
彼女は突然私の体を抱き寄せると、自分の体を私の胸の上に載せるように動かして、私の唇と私の唇を重ねる。
私の言葉を彼女は言うと同時に言葉を発した
。私の唇から彼女は私の頭に口付ける。私は、彼女に会えた事に心から感動して、嬉しいという感情を全身で体感していた。
彼女の匂いを感じていると、彼女は私の頭から体を離す。彼女の匂いのする体ではなく、彼女の胸のある体に私は彼女の匂いを感じる。彼女に感じていた甘い暖かみが、私から伝わってくる。
「いい匂いね。」
私はそう言うと、彼女の匂いに包まれる。そして彼女の顔を見ると、彼女は笑っている。
「ありがとうね。」
私はそう言って彼女の顔を撫でる。
「私に抱かれられるのは、嬉しいの?」
私は彼女にそう聞く。
「もちろん。だって、あなたが一番よ。」
彼女はそう言う。私は彼女の顔を見る。そして、彼女は笑っている。
「私は、あなたの存在の中にいる。あなたが、私のことを愛してくれている。愛されている。」
そう言うと彼女は私にとっては何の価値も無い存在かもしれないが、私は彼女が好きだ。
「やっぱり好き。」
私はそう言うと、彼女は笑っている。
「私も、あなたのことが好きよ。」
そう言って、私は彼女とキスをする。それが、私と彼女の最初の瞬間だった。
この瞬間が、好きって事に確信が持てた。
そうして、私たちは冷凍睡眠装置の故障などすっかり忘れて会計を済ませた。
VRラウンジ【スレイプニル】の看板が新宿歌舞伎町の夜景にぼうっとにじんでいる。
その後、私は仕事が終わって家に帰ると、深い眠りに落ちた。
この感じがずっと続いて欲しい、私はそう思っだ。
まどろみの中で相手を夢想してみる。
私は彼女の腕の中に包まれている。彼女も同じ思いなのか私の背中を抱きながら、眠っている。私は何も言わず、ただ眠り続けた。
ぐるぐると雑念が渦を巻いて黒い銀河になる。
そして、朝になると私は目を覚ます。
「えっ、わたし? こんな時間?!」
床で目覚まし時計が万歳していた。あわててパジャマを脱ごうとすると声がした。
「あのね。先生が三時間目からおいで、って」
彼女が迎えに来てくれてた。
「…下で待ってて」
私はあわてて制服に着替える。
そして、彼女と共に学校に向かう。翌朝からは、私はいつも通りに学校へと行き、そして授業を受ける。
「今日はね、テストをやったから。私たち二人で学年一位を競い合うのだ」
彼女は私を励ました。
「それじゃあ、行くよ」
そう言って、彼女の手を取って校舎に向かう。この瞬間をずっと覚えていて欲しい。だから、私と彼女の手を取って歩き出す。学校に着く。
やがて夏が終わり、衣替えの季節が来た。私たちの制服は半そでから長袖のセーラー服に変更された。それでも二人の関係は変わることなく、冬を迎えることになる。
インフルエンザが流行り始めた。先生から登下校時はマスクをつけるように指示された。
私も彼女もマスク着用を拒否した。だって、お互いの笑顔が隠れてしまうから。
しかし、先生は「マスクをつけないとインフルエンザを予防できないから嫌でもつけなさい」と注意した。
それに反論できず私達はマスクするという選択肢を取った。それから暫くして彼女とインフルエンザが流行り出す。そして彼女とインフルエンザが流行り、私は彼女の看病を始めた。
それから私たちは風邪をこじらせてしまった。それから、一ヶ月が経つと私たちの関係はまたも変化していった。感染防止のため、今はお互いに入院している。ちょうど、49日目に彼女からLINEが着信した。「重い病気にかかっている」と、彼女は告げた。「心配しなくていいよ」と私は励ました。
ぜんぜん、大丈夫じゃなかった。
私は彼女の病名を聞いてなかった。
そんな病気はこの世界にはないはず。私は病院に連絡し、病名を聞いた。しかし、その病気は治療法はなく、私にはどうすることもできない。それでも私は彼女の回復を祈った。私の病気もまだまだ治りそうになかった。その二日後、私は回診に来た医師と雑談していた。その会話で冷凍睡眠の話が出た。「冷凍睡眠なんてものは空想科学だよ」
医師は笑ってそう言った。
「ぜんぜん、空想なんかじゃない」
回診が終わったあと私は毛布をかぶってスマホで検索していた。
「超新星爆発では中性子星でなくブラックホールが形成されるケースも予想されます。この場合は可視光でなくニュートリノや重力波が観測される可能性が高いです」
やった。とうとう見つけた。掘り出し物だ。ショッピングサイトを渡り歩いた甲斐があった。
ブラックホールが広大無辺な生地に横たわり、ゆるく波打っている。
銀河中心のブラックホールは貪欲に星々を吞みつくし、別の銀河を餌にする。
捕食中に宇宙で最も明るくて攻撃的な活動銀河核へ成長する。
宇宙のチリとガスがブラックホールに寄り集まり排水溝に吸われる水のように高速回転する。どんどん勢いづいて熱くなると中心から上下にジェットを噴射する。ガスの温度にはむらがありブラックホール付近では室温以下になるそうだ。
ガスのわだかまりが毛布のように例えられる。
壮大な様子が一枚布に描かれているのだ。ブラックホール柄のブランケットは送料無料で即日配達と書かれている。迷わずぽちった。
しかし、配達先は病院ではなかった。ついでにもう一つ、注文した。その受取先は最寄りのコンビニにした。
ここから私の壮大な病院脱走計画が始まる。
しかし、その前にやっておかなければならないことがある。
病院の受付を突破する作戦を考えねばならない。
病院は窓口がひとつ、その窓口のすぐ向こうに受付の控え室がある。受付のまえでスマホのカメラで撮影するのである。
私は受付に向かってゆく。受付は事務仕事が多い。でもこの病院は暇だ。暇な患者もいる。
私は待合室の椅子に座る。私は椅子に座るとスマホのカメラを起動して、受付へ送る。
「こんにちは、配達にきました」
受付はメモ書きか、あるいは電話のように返答する。
「この宇宙船は、どのような目的でこの恒星間宇宙に浮いているのか聞いていただきたい」
私は、スマホのカメラで受付を撮る。受付の表情を読み取ろう。
案の定、怪訝な顔をしている。
「はぁ?」
私はさらに続ける。
「この宇宙船には宇宙港がありません。この地球のような惑星しかいません」
受付はメモ書きと電話のように応える。
「何を言っているのですか。主治医の先生を呼びますよ」
構うものか。私は続ける。
「宇宙港はあるのですか?」
受付の女性はあわてて席を外した。
私はスマホの画像とメモ書きを印刷し、受付の机に置く。この病院は、
「宇宙港」
すると、私の視界にノイズが走った。
ざざっ、ざざっ、と雑音めいたざわめきが聞こえる。病院全体が蠢いている。
私を閉じ込めている世界すなわち何者かが作った巨大な欺瞞が揺らいでいる。
そう、ここは病院ではない。宇宙港だ。私はデスクの上でスマホのカメラをオフにする。これは私の眼だ。『この宇宙船は』『宇宙港がない』『宇宙船は』と繰り返す。このカメラは、私を写した。そうだ、このカメラは宇宙港のレンズだ。
私を映し出す。私は
「あの宇宙船は、どういう目的で』『どうして宇宙船は』と繰り返していった。「これは自分の脳内の設計図だ」
私の脳内の設計図を見なければ説明ができない。私は言いきる。
「しかし、私の頭の中に設計図は作れない」
自己言及のパラドックスを相手にぶつけて、ゆさぶってやるのだ。
照明が激しく明滅し、廊下の向こうでナースが激しく言い争い始めた。
世界が当惑している。
私は手を上げる。
「私を写すのは、このカメラだけです」
私はカメラをオフラインに戻し、病室を出てエレベーターホールへ向かう。
「私のカメラとリンクは正常ですから、私だけエレベーターに乗っているようです」
私は医療用ドアを開く。そこには一人の少女がいた。
「おはようございます」
私は挨拶する。少女の顔は少し青かった。
「あなたは?」
私は訊いた。
「私は医師です。あなたの病気は治せません」
そうか、私の病気は遺伝か。
「ありがとう」
そして、言ってやった。
「病気なのはお前すなわち宇宙船の頭脳よ。冷凍睡眠中の私にこんな悪夢を見させて、どういうつもり?」
ナースが答える。
「私を宇宙船に閉じこめれたんです。宇宙船が私に何をするかわからない。私の病気は治せない」
ナースが答える。
「私を宇宙船に閉じこめられたんです。宇宙船が私に何をするかわからない。私の病気は治せない」
確かに、彼女は私に何かしようとしてくれているんだ。私は決心し、彼女に言ってやった。
「私が死んだらあなたも死ぬの?」
彼女は頷いた。
「そうしたらあなたは死ねばいい。私は死ねないから、あなたが死んだら私も死ぬ」
どういうことだ。
私は考え抜いた。そしてたった一つの冴えた答えにたどり着いた。
星間宇宙船『スレイプニル』は自殺願望を抱えている。理由は冷凍睡眠装置の故障だ。
惑星開拓船団と星系開拓船団の乗組員達は、交代で勤務する。
人格を持った宇宙船も同じだ。
そして、睡眠装置は恒星開拓団勤務に必要なものだ。
彼女、すなわち『スレイプニル』の人格は惑星開拓団への配置転換を不名誉な人事だと思い込んでいる。
だから、故障がまだ発覚しないうちに私を巻き込んで自殺しようとしている。
具体的に彼女が私と接触するためにはどうすればいいか。
ナルシシズムを覚醒させればよい。誰もが持っている内心の別人を呼び覚まし、「書き換え」ればいい。
スレイプニルは私の変身願望を上書きしたのだ。
自ら髪を剃り落とし。悦に入る変態に設定した。まぁ、長髪を煩わしく思い、きれいさっぱり捨ててしまいたい欲求を持つ女はいなくもない。動画サイトを検索すればその手のセルフ剃髪シーンは捨てるほど出てくる。
私にその癖はないが、薬物投与か何かでスレイプニルが促進した。
こうして私は今もなお進行中の悪夢のなかで頭を剃り、彼女と邂逅した。
もう一人の自分に私は言い返した。
「貴女が好き。死んでほしくないの。一緒に生きましょう」
彼女は言った。
「あなたが死んだら、私たちは宇宙船に閉じ込められるのよ。宇宙船の冷凍睡眠装置のメンテナンスは、私たちには時間的制約があった」
そう、来たか。
ぐうの音が出ないでいると、ナースは私のことを見下ろした。「でも、私が死んだらあなたも死ぬの。一緒に生きていきましょう。私とあなたは仲間だから」
「考えたわね。私に墓穴を掘らせて人質に取るなんて。いいわ。毒を食らわば皿までよ」
彼女は頷いた。「死ぬのは嫌だけど、貴方と一緒にいたい」
そういって姿を消した。
エレベータのドアが開いた。
新宿歌舞伎町は今夜も賑やかで人通りが絶えない。
私はコンビニで荷物を受け取った。
宇宙船スレイプニル号の宇宙服だ。そしてセーラー服も。化粧室でパジャマから後者に大急ぎで着替えた。
そしてVRラウンジ【スレイプニル】に向かう。
「仲良しクラスメイトコースで」
受付で嬢を選び指名する。もちろん、彼女だ。
「スレイプニルちゃん! 私よ」
病室に入ると、たくさんのチューブに繋がれた彼女がいた。
「私は大丈夫だから」
彼女は健気だ。胸が痛む。
「このチューブに接続されていた脳神経系で眠らせて。あと3時間睡眠だから」
その2秒後、医療ユニットが彼女の脳を接続した。そして、彼女の脳神経系を弄って睡眠に向かわせるそして、私は最後の大仕事に取り掛かった。
「ええっと、スレイプニルさんはこちらですか? 荷物がとどいております」
病室で私は宅配業者に印鑑を渡した。
ついでにスレイプニル名義の同意書も。
「えっ、こ、これもですか?」
ドライバーは戸惑う。
「いいんです。彼女は第三者の承認を要求しています。それが誰であろうと、どんな形であろうと」
宅配業者の正体はいわずもがなだ。スレイプニルには勇気がなかった。背中を押してくれる人が胸中の住人であっても、なかなか踏ん切りはつかないものだ。
「貴方の責任ですよ」
ドライバーはしぶしぶ判を押した。
わかっている。私は逃れられない。それを承知で旗を掲げるのだ。
梱包を解くとブラックホールが渦を巻いていた。注文どおりのブランケットだ。
それをスレイプニルにかけてやる。彼女は安らかな寝息を立てている。
じょじょに浅くなっていく。
私は宇宙服を身に着け、エアロックから船外へ出た。
見渡すと想像以上の被害に絶望する。
星間宇宙船『スレイプニル』のメインスラスターは完全に破壊され、船体はボロボロに被弾している。
ホーキング輻射を逆手に取った実弾射撃を受けたのだ。
周囲に数え切れないほど残骸と宇宙服がただよっている。
星間開拓団は全滅していた。スレイプニルはかろうじて轟沈を免れた。
人類大航海時代の最晩年。惑星開拓団の一斉蜂起に地球統合政府は手を焼いていた。苦肉の策としてワープドライブの妨害を開始した。
強力な重力波で空間のひずみを極限にすると、それ以上の歪曲ができなくなる。
重力源にブラックホールが選ばれた。
しかし地球を攻撃できなくなった反乱軍は奇策に出た。
ホーキング輻射を遠隔操作してブラックホールから実弾を発射する手口だ。輻射として宇宙に排熱される予定のエネルギーからE=MC二条の式に従って物質を組み立てた。
事実上のテレポーテーション技術によってワープ航法は陳腐化した。
スレイプニルもお払い箱になった。戦略分析士官として可能性調査に赴いた私のミスだ。敵は私の予想よりも早く実用化していたらしい。
彼らは私の乗務を知ったうえでとどめを見送った。
それなら今度は私が引導を渡してやる。スレイプニルと一緒に生きて地球に帰る。そして反撃の狼煙に点火する。
私は星間宇宙船『スレイプニル』の胴体を見やった。居住区の傷が痛々しい。特に冷凍睡眠室は私を除いて全滅。
私は完全に機能停止した装置を撫でる。
「ありがとう。スレイプニル。私を護ってくれて、いい夢まで見せてくれた。こんどは私が言われる番ね」
そう感謝を述べて倉庫に向かった。あの毛布、いや国旗をマストに掲げるのだ。
ブラックホール周辺惑星連邦は未だ健在なり。地球連合軍の救援を請う。
宇宙船スレイプニル 水原麻以 @maimizuhara
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