帰郷②
フィーナの家をお邪魔した後、両親の墓参りを済ませた俺は武器屋へとやって来ていた。
以前お世話になったゲンリュウさんに挨拶する為だ。
因みに、フィーナとは別行動だ。
親子水入らずの時間を持ってもらうために。
俺やリリアが側にいたんじゃ、気を使わせてしまうからな。
「お久しぶりです」
「おう!アドルじゃねぇか!!」
店に入るとゲンリュウさんがカウンターから飛び出してきて、ゴツイ両手で俺の肩をバンバンと叩いた。
「話は聞いてるぜ!まさかあのパッとしなかったお前が、この短い期間に世界を救う勇者になっちまうなんてよ!全く、事実は小説より奇なりとはよく言ったもんだぜ!!がはははは」
俺が世界を救った事をゲンリュウさんが知っているのは、教会と国が正式に発表しているためだ。
もっともその内容は邪神の復活と、それを女神に選ばれた
女神を奉じる教会としては、実は女神が世界を滅ぼそうとしてましたとは言えないので、まあ仕方がない事である。
国がそれに乗ったのも、余計な混乱を避けたかったためだろう。
正直、ンディアが女神として信奉され続けるのは少しモヤッとするが、仲間だったセイヤさんの顔を立てる意味で、俺達はその真実を飲み込んでいる。
「おやおや、おさわりは厳禁ですよ。握手やサインは、マネージャーである私を通してくださいな」
「相変わらず面白い嬢ちゃんだな。まあ握手はともかく、サインは貰っとこうか。飾って勇者アドルの行きつけの店って事にすりゃ、うちにも箔が付くってもんだ」
「そ、そうですか……」
勇者と呼ばれたり、サインを求められるはやっぱり慣れない。
首都でのパレードもかなりこっぱずかしかったし、表に出て脚光を浴びるのは性に合わない様だ。
「それで?何で街に戻って来たんだ?」
「実は世界を色々と見て回ろうと思って。で、その前に一旦故郷に帰って来たんです」
蘇生したフィーナの帰郷と、両親の墓参り。
それと世話になった人達への挨拶をしてから、本格的に世界を見て回る予定である。
「そのついでじゃないですけど、お世話になったゲンリュウさんに挨拶して行こうと思いまして」
「ほぉ……世界を救った勇者なんかになったら大なり小なり増長するもんだが、謙虚なもんだな。俺なら絶対威張り散らしてるぞ」
「ははは」
あの戦いは皆の、得にリリアの力があっての勝利だ。
正直、俺自身が何かしたって実感はなかった。
流石にそれで増長できる程、厚かましい神経はしていない。
「まあ立ち話もなんだ。中に入ってくれ。バンス、店番は頼んだぞ」
「へーい」
ゲンリュウさんは息子さんに店番を任せ、俺達を店の奥――居住スペースへと案内する。
「あ、お茶は高級品で構いませんよ。勇者の持て成しには金粉入りの超高級品が常識ですけど、知り合いって事でそれでまけてあげますんで」
「あー、すいません。リリアの言う事は気にしないでください」
「おう、そうさせて貰うぞ。なにせうちには安物しかねぇからな。がっはっは」
お茶を出され、以前街を出る時約束したダンジョン攻略の話や、偽の邪神討伐の土産話をゲンリュウさんにする。
その際、以前尋ねた呪いの話も混ぜて。
「俺に聞いた呪い云々は、邪神の呪いだった訳か。そりゃ人には話せねぇだろうし、元聖女のピアカスでもどうしようもねぇわな。で、呪いは消せたのか?」
「ええ、邪神を倒した事で解けてます」
女神を倒した後、邪神に全てを捧げた際に回収された。
というのが真実なのだが、まあそこは話せないから脚色だ。
「そいつはよかったな」
「はい。この後、ピアスカさんにも報告を兼ねて挨拶に伺おうかと思ってて」
「ああ、あいつは今巡回してるからこの街にはいねぇぜ」
「え?そうなんですか?」
「元聖女で、一応人気者だからな。ちょくちょくあっちこっち呼ばれるのさ」
「なるほど」
ピアカスさんへの挨拶はまた今度だな。
その後、他愛無い話をしてからゲンリュウさんとは別れて俺は冒険者ギルドへと向かう。
ティクに挨拶する為だ。
「おお!アドルじゃないか!」
ギルドに入ると、俺に気付いた冒険者風の男が声をかけて来た。
顔は見た覚えがあるが、名前は知らない相手だ。
「お!まじか!?帰って来たのか!」
それを皮切りに、周りにいた冒険者がワラワラ寄って来る。
もちろんその中に親しい人物などいない。
なのになぜ寄って来るのか?
謎だ。
「いやー、エビルツリーを一撃で倒した時からただもんじゃねぇと思ってったんだよ!」
「あん時は助かったぜ。やっぱ勇者は他とは違うよな!」
「お前は俺らの誇りだぜ!」
「邪神討伐の話を聞かせてくれよ!」
「なあ!聖女様紹介してくれ!すっげー美人なんだろ!」
声のでかい野郎どもに囲まれて正直ウザい。
身動きが取れず、どうした物かと困ってていると――
「ウザいので固まっててくださいな」
急に全員の動きがピタリと止まる。
どうやらリリアが何かした様だ。
彼女の方を見ると――
「動きを止めただけなので、お気になさらずに」
――すまし顔で、そう俺に答えた。
何の動きもなく周囲の人間の動きを止めるとか、神業なんだが?
「いつの間にそんな芸当を覚えたんだ?」
「リリアちゃんは超可愛い天才な上、天使ですからこれぐらい余裕です」
可愛いかはともかく、天才なのは疑いようがない事実だ。
更にティアの体を乗っ取って手に入れているので、今では生身の天使にまでなっている。
なら、こういう芸当が出来てもおかしくはない。
「ないとは思うけど……悪戯とかには使うなよ?」
「マスター……私を信じてくれないんですか!?リリアは悲しいです!後、そのお約束は絶対できません」
「する気満々じゃねーか」
「その辺りはご想像にお任せします」
「全く……」
まあ悪事に使ったりはしないだろうから、心配自体はしていないが。
「えーっと……」
動かなくなった奴らの間を抜けてカウンターへと向かう。
だがそこにいたのは見知らぬ女性だった。
「ティクに挨拶しに来たんだけど、彼女は今日休み?」
ギルドに来たのは、彼女に挨拶する為だ。
「あー、私の前の人ですか。その人でしたら、結婚して退社されましたよ」
「あ、そうなんですか……」
ティク、結婚したのか。
まあそういや別れ際に彼氏がいるって言ってたもんな。
「連絡先とかは、いくら勇者様でも教えられないんですよ。ギルドの決まりですから。すいません」
「ああ、気にしないでくれ。以前世話になったから、ちょっと挨拶しようと思っただけだから」
一々居場所を探し出すのもあれだし、まあティクへの挨拶は諦めるとしよう。
「女心と秋の空」
ギルドから出ると、リリアが唐突に意味不明な事を言葉を口にする。
「そんなフワフワしたビッチ共とは、次元の違うきらりと光る真実の愛。そう!真実は何時も一つ!リリアちゃんの愛だけです!」
「急に何言ってるんだ?」
「あらやだ、分かりませんか?リリアちゃんを独り占めできる事を、幸福に思ってくださいって事ですよぉ」
「あーはいはい、そうだな。俺は幸せだな」
リリアの冗談を俺は軽く流した。
まったくこいつは相変わらずで困る。
「本気でそう思ってるなら、三回回ってワンって鳴いてくださいな」
「また今度な」
「約束ですよー」
色々と予定が飛んでしまったし、取り敢えずリリアと買い物でもするとしよう。
スキル【幸運】無双~装備が揃ったパーティーから俺は追放されてしまう。幸運の揺れ戻しでドロップがノーマル固定になって資金繰りが厳しい?しるか!俺は自由にやってるんだ!今更あやまってももう遅い! まんじ @11922960
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