帰郷①

全てが終わったら世界を旅して周る。

それはリリアとした約束だ。

俺はその約束を守り、旅に出た。


リリアとフィーナを連れた三人で。


「フィーナ!」


旅の最初の目的地は生まれ故郷だ。

街についた俺達は、まずはフィーナの両親の元へと向かった。


説得されたとはいえ娘を手放し教会に預けた人達なので、正直、俺は余り好ましく思っていなかった。

どんな理由だろうと、自分の子供を手放した事に変わりはないのだから。


だがそれでも、フィーナにとっては実の両親に他ならない。

だから教会で修行していた時も、女神の天秤に参加した後も、フィーナは両親と手紙のやり取りをずっと続けていたそうだ。

そのお陰か、離れ離れであった両親との関係は良好と言える物となっている。


「お父さんお母さん!」


フィーナ親子が玄関先で強く抱き合う。

女神の天秤の壊滅による死亡の報を受け取っていた彼女の両親は、生きて戻って来た娘を抱きしめ喜びの涙を流している。


「良かった。本当に良かった」


「ごめんなさいね、フィーナ。あたし達が貴方を教会に預けたりしなければ……」


「そんな事気にしなくていいんだよ。女神の天秤に所属し続けたのは、自分の意思なんだから。だから気にしないで」


抱きしめ合うフィーナ達を見て、少しだけ羨ましく思う。

俺の両親はもういないからな。


「ん?」


腰のあたりをツンツンされ、視線を横に立つリリアへと移すと――


「抱きしめてくれていいんですよ?」


――彼女は両手を広げ、笑顔で意味不明な事を言う。


「何でそうなる?」


「羨ましそうにしてらしたので、私がマスターのご両親の代わりでも務めようかと」


俺の表情からそれを読み取ったのなら、そんな物をリリアに求めない事も読み取って欲しいものだ。

いくら何でも、子供の背丈程しかない人物を死んだ両親に見立てるなど無理がある。


「ありがとう。気持ちだけ貰っとくよ」


まあ気を使ってくれたのだろうと判断し、一応礼を言っておく。


「甘やかして欲しい時は、何時でも言ってくださいな。なんならリリアママって呼んでくれてもいいんですよ?」


「それは死ぬ程遠慮しとく」


「あら、そうですか。ざーんねん」


リリアは相変わらずである。


「アドル君、貴方になんてお礼を言ったら。本当にありがとうね……」


フィーナから離れた彼女のお母さんが、俺の両手を握って深く頭を下げた。


「頭を上げてください。フィーナを蘇生できたのは、単に運が良かっただけですから」


面と向かって礼を言われると照れ臭い。

なんて答えたものかパッと思い浮かばなかったので、運が良かったと返しておいた。


まあ実際、運が良かったというのは間違いではないしな。

【幸運】と言うスキル。

それにリリアや仲間達との出会いがあったからこそ、この結果に辿り着けたのだから。


「立ち話もなんだ。さあさ、家に入ってくれ」


「お邪魔します」


「本気でお邪魔しますねぇ」


「おい、変な事はするなよ」


「やですねぇ。冗談ですよ。じょ、う、だ、ん」


もちろん冗談と言うのは分かっている。

だがそのままスルーすると、それを分かっていないフィーナの両親に変な風に思われてしまうので注意しただけだ。


「うふふ、面白い子ねぇ。このこがリリアちゃんね。本当にフィーナの子供の頃にそっくり」


フィーナの両親はどうやらリリアの事を知っている様だ。

まあ手紙のやり取りをしていた様だし、その辺りの事も伝えていたのだろう。


「いえいえ、寧ろリリアちゃんの方が超絶美少女ですよ。同じように見えてしまうのは、きっと想い出補正って奴でしょう。昔の思い出が美しく脚色されるあれです。もしくは親の欲目か」


「何と言うかその……ほんとに面白い子だな」


「そ、そうね……」


感動の再開の雰囲気が、リリアの一言でどこか遠くへ飛んで行ってしまった。

ご両親は若干引き気味だ。


連れて来たのは失敗だったか?

とは言え、馬車で待ってろという訳にもいかないしなぁ……


「ふふ。リリアちゃんはちょっと癖があるけど、凄くいい子なのよ。アドルの事、ずっと支えて来てくれたんだもの」


「マスターと私は一心同体なので、当然の事です。それと私の事は、偉大なるリリア様と気軽に呼んで下さいな」


どう考えても気軽に呼べる呼称ではない。

後、一心同体になった覚えは……いや、エンゲージしてた間はそうとも言えなくはないのか?

一応繋がってた訳だし。

まあもう解けてはいるが。


因みにリリアはティアの肉体を奪って自分の物にしているので、現在はヒロインドールではなく生身の肉体を得ている。

なので、もうエンゲージで俺と繋がる事は出来ない様になっていた。


「あ、すいません。こいつ冗談ばっか言うタイプなんで、軽く流して貰えると有難いです」


「そ、そうみたいね」


「ま、まあなんだ。取り敢えず中に入ってくれ」


「偉大なるリリア様が気に入らないなら、この際超絶美少女リリアたんでも構いませんが?」


取り敢えず、リリアの戯言を無視して俺達はフィーナの家に入った。

そういや、フィーナの家に入るのって10年ぶりくらいだな。


「分かりました。じゃあここは大天使リリアちゃんで妥協しましょう!」


「いやもうそういうのは良いから、さっさと来いよ」


「はーい」


相変わらず手のかかる奴である。

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