エンドコンテンツ
「し……死ぬ……」
「きゅ、休憩を……」
「やれやれ……」
目の前で倒れる仲間達を見て、私は溜息を吐く。
まあレベル差があるのだから仕方がない事ではあるが。
「そんなんじゃ、ダンジョン攻略は夢のまた夢だよ」
横に立つドギァが、倒れているアインやレスハーを蹴り飛ばした。
「鬼かよ」
「いや、悪魔だな」
ここは女神の天秤のホーム。
広い訓練場を擁した、比較的大型の屋敷だ。
まあメンバーは若干様変わりしてしまっているが。
何故再結成したのか?
その理由は簡単だ。
女神討伐後、休止していたダンジョンが全て復活した為である。
しかもリリアが言うには、最下層以降は既存とは違う作りになっているそうだ。
最下層以降。
つまり、最下層よりさらに先が出来たという事である。
一度はクリアしたダンジョンだが、先が出来たらそれを踏破したいと考えるのが冒険者という物。
その
「誰が鬼で悪魔だ!あんたらはレベルが遅れてるんだから、死ぬ気で訓練して鍛えな」
邪神討伐後、ダンジョンの復活に伴い人類には新たな力が齎されていた。
それは‟クラス”。
それまではユニークスキルとしてだけ存在していたクラスと言う能力が、全人類にデフォルトで齎されたのだ。
リリア曰く――
『きっとダンジョンもこれも、グヴェルの仕業でしょう。クリア後のエンドコンテンツのつもりじゃないですかね?あの邪神は女神と違って生粋のゲーム好きですから』
――エンドコンテンツだそうだ。
私にはなんの事かさっぱりわからないが、リリアが言うには、ダンジョンをクリアしてももう以前の様な事にはならないとの事。
「にしても……何ですかこのふざけたクラスは、全く。リリアちゃんのクラスはどう考えてもスーパーヒロイン一択でしょうに」
リリアのクラスは【MVP】という謎な物で、彼女は不満を漏らしていた。
かくいう私のクラスは【剣姫】——周囲からつけられた二つ名がクラスになっている。
新しく齎されたクラスはユニークスキルと同じ効果を持っており、今まではダンジョンで魔物を倒す事でしか上げられなかったレベルをそれ以外の努力で上げられる様になっていた。
だからこうやって女神の天秤のレベルの底上げのため、私達は激しく訓練しているという訳だ。
「おーい、こいつら動かなくなったぞ」
緑色の、筋肉質な巨体をした女性が、少し離れた場所から担当していたメンバーを担いでこちらへとやって来る。
「まったく、根性のない奴らだ」
女神の天秤の新メンバー、ガートゥだ。
「おいおい、死んでないだろうねぇ?」
「そんなへまするかよ」
蘇生後、ガートゥは元の世界に帰されている。
その彼女が何故この場にいるのかと言うと、リリアが召喚アイテムであるゴブリンを呼ぶ笛を作ってくれたからだった。
『壊れた時用にとっておいたデータから復元しただけなので、変なのが出て来ても文句は言わないでくださいな』
何て言っていたが、こうやって無事ガートゥを呼び出せているのだからやはり彼女は優秀だ。
「他の奴らもへばってるみたいだし――」
私やドギァが訓練を担当していたメンバーを、ガートゥがチラリと一瞥する。
「手合わせしようぜ、レア。俺達のレベルも下がっちまってるからな。ガンガン上げてかねーと」
ガートゥの言う通り、私達のレベルは下がっていた。
正確には、元に戻ったと言った方が正しい。
月に向かう際に得たレベル分の経験値が、復活時にグヴェルによって回収されたためだ。
リリアが言うには、あの塔でのレベルアップは女神ではなく邪神からの施しだったらしい。
「良いだろう」
なのでパーティーメンバー達もそうだが、私自身のレベル上げも必須だ。
そしてレベルを上げるにはより強い相手とギリギリの戦いが必要不可欠なので、ガートゥの申し出を断る理由はない。
これ程訓練に適した相手もいないからな。
「行くぜ!」
ガートゥと実戦に近い形で剣を交える。
今頃フィーナはアドルと世界を旅して周っている事だろう。
彼女は女神の天秤を手伝おうとしてくれたが、それは私の方から断っている。
そしてアドルとリリアの旅に付き合うよう、私の方から勧めたのだ。
これまでは二人は色々な理由でずっと離れ離れだったのだから、これからは一緒にいるべきだから。
まあリリアには悪いが、私はフィーナの応援をさせて貰う。
彼女が嫌いという訳ではないが、やはり大好きな人の幸せを優先的に考えてしまうのが人情というもの。
「戦ってる最中に考え事とは余裕じゃねぇか!遊びは終わりだ!本気で行くぜ!!」
ガートゥが覚醒を使う。
その巨体が細身の美しい姿に変わっていく。
ガートゥのフルパワー時の形態だ。
「すまない、集中する」
意識を切り替え、私はブーストを使ってそれに対抗する。
フィーナ、頑張れよ。
リリアは手強いぞ。
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