第42話 取引
「よかろう。クリア報酬を受け取るがいい」
グヴェルの体が上昇していき、遥か頭上で止った。
奴が両手を大きく開くと、その全身から凄まじいエネルギーが放出される。
「うっ……く……」
そのあまりに膨大なエネルギーに吹き飛ばされ、俺は月面へと叩きつけられる様な形で着地する。
別に攻撃されている訳でもないってのに、今の俺でも受けきれない程のとんでもないパワーだ。
「終わったぞ」
グヴェルの全身から放たれていた圧が消え、奴が一瞬で俺の横へと移動する。
奴が指を鳴らすと――
「――みんなっ!」
――俺の目の前で光の柱が上がり、そこに死んだ仲間達の姿が。
レア、セイヤ、テッラ、ベリー、ドギァ、ガートゥ。
それにリリア。
慌てて駆け寄って確認すると、皆微かにだが呼吸をしているのが分かる。
「みんな……」
本当に生き返った。
その事実に、胸の奥から熱い物が込み上げて来る。
「もうしばらくすれば目覚めるだろう。因みに――」
グヴェルが仲間の近くに倒れている二人の人間を指さす。
アミュンとエターナルだ。
「元々は女神側だったが、切り捨てられて死んだ訳だからな。一応そいつらも蘇生しておいた。まあ力は奪ってあるから、気に入らなければ煮るなり焼くなり好きにするがいい」
エターナルはともかく、アミュンには最後に助けられているからな。
何かをする気はない。
エターナルの方は……
まあ力を失っているなら、国にでも引き渡せばいいだろう。
正統な法の元、奴には裁きが下されるはずだ。
「ん?ガートゥ!?」
倒れていたガートゥの体が急に輝きだしたかと思うと、影も形も残さず、まるで大気に溶けるかの様に消えてしまう。
驚いてグヴェルの方を見ると――
「安心しろ。奴は元々異世界の生物。召喚アイテムが壊れているから、元の世界に帰っただけだ」
「そうか……ありがとう。ガートゥ」
お別れや感謝の言葉を伝えられなかったのは残念だが、まあ仕方ない。
彼女がこれからも、勇者として勇猛に生きていく事を願うばかりだ。
「地上の生物の蘇生も完了している。お前の願いは叶った。これで、クリア報酬は終わりだ」
「あり……」
感謝の言葉を口にしようとして、俺はその言葉を飲み込む。
そもそも皆が死んだのは、半分はこいつが原因だ。
礼を言うこと自体あり得ない。
「くくく……まあ礼の言葉はいらんよ。感謝もだ。そもそもこれは、ゲームのクリア報酬だからな」
グヴェルが俺の心を読んでか、楽し気に口の端を歪めて笑う。
「……」
「さて、余興はここまでにしておこうか」
「余興?」
「そう、本題はここからだ」
グヴェルの四つの瞳が鈍く輝き、大仰に両手を開く。
そして――
「さて、悪魔の取引と行こうじゃないか。いや……俺は邪神だから、この場合は邪神の取引と言った方が正しいか」
――奴は俺に取引を持ち掛けて来た。
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