第35話 最高の褒美

「鬱陶しいわねぇ!」


私の攻撃の直撃を受け、アドルが吹き飛ぶ。

だが奴はすぐさまそのダメージを魔法で回復してしまう。


手加減無しの攻撃だってのに……


リリアの能力を吸収したアドルの力は相当高まっていた。

私の本気の攻撃を受けて、素早く回復して立て直せてしまう程に。


生贄吸収の阻害が出来なかった事が本当に悔やまれる。

完全にリリアに上手い事やられてしまった形だ。


とは言え――


「あんたじゃ私には勝てないのよ!」


アドルに向かってエネルギー波を放つ。

それは直撃し、あいつを吹き飛ばす。


――私が負けるほどではない。


リリアの言いつけを守ってか、相手が防御主体だから梃子摺っているだけだ。

慎重に攻撃を続ければ、いずれその魔力が尽きて回復出来なくなるだろう。

そうなれば回復が出来なくなり、ジ・エンドである。


問題は――そこまでもっていくのに時間がかかってしまう事だ。


ティアを天使にする際に与えた魔力の回復能力もあるので、このまま無難に戦ったのでは結構な時間耐えられてしまう。


「あんたの相手はもう飽きたのよ!さっさと死になさい!!」


フェイントからの掌底。

相手が少しの仰け反った所に回し蹴りを入れ、最後はエネルギー波で吹き飛ばす。


だがアドルは再び回復して即座に体制を立て直してしまう。


「ああもう!うざったい!」


こいつの相手ももう飽きた。

思うようにいかず、本気でイライラする。


私は女神だ。

その女神である私が、なぜこうも虫けら如きに煩わされねばならないのか?


それもこれも全部リリアのせいだ。

あの親不孝者のクソガキめ。


「死ね死ね死ね死ね!!」


アドルに向かってエネルギー弾を連射する。


もうさっさと終わらせたい。

だがだからと言って、終わらせるために無理筋な攻撃をしかけたら手痛い反撃が飛んでくる可能性がある。

さっきまでならともかく、今のアドルは雑に相手をするのは少々危険だ。


……本当に死ぬ程面倒くさいわね。


「俺は負けない……絶対に世界を守ってみせる……」


私の攻撃を耐え凌ぎながら、アドルがそう漏らす。

遠く離れた場所の微かな呟き。

しかも私の連続エネルギー弾を受けて、爆音が響く中の物。


だが女神である私の耳にはしっかりと届いた。

その言葉を聞いて、私の頭にピーンと名案が浮かぶ。


「あらあら、そう。世界を守りたいから頑張ってる訳ね」


仲間を全て失ったアドルが何故、勝ち目もないのに必死に頑張るのか?


答えは簡単である。

自分が負ければ、世界が私の手で滅ぼされてしまうからだ。


だからアドルは世界を守るため、歯を食い縛ってありもしないチャンスを待っているのだ。

なら、背負う物が無ければ頑張る理由自体が無くなる。


「いい事思いついちゃったわ」


私は右手を上げ、上空に浮かぶ世界の卵を指さし告げる。

ちょっと芝居ががった口調で。


「汝アドル。女神である我相手にここまで粘った褒美を使わそう」


神の宣告という奴である。

そう、私は女神である私相手に頑張ったアドルに対する御褒美に――


「最後の人類として、世界の滅びる様を眺める栄誉を与える」


「――っ!?」


私の言葉に、アドルの表情が固まる。

ちゃんと意味が伝わった様だ。


――世界の卵を始動させる。


そうなれば、瞬く間に地上の虫けら共の生命エネルギーは卵に吸収されて枯れ果てるだろう。


「ふ……ざけるな……ふざけるな!」


「あははは!ふざけてなんかないわよ!私は大まじめ!!」


世界の卵を起動させる。

そして地上の様子が良く分かる様に、私達の頭上に広範囲のスクリーンを生み出す。

当然、世界が滅ぶさまをアドルに見せつける為だ。


「さあ褒美よ!堪能しなさい!!」


私をイラつかせた罰である。

更に心まで折れれば、正に一石二鳥。


我ながら名案すぎて、惚れぼれするわ。


流石が女神。

さすめがよ。


「おおおおぉぉぉぉ!!」


先程まで亀の様に防御に徹していたアドルが、必死の形相で突っ込んで来て一転攻撃を仕掛けてけてきた。

私はその攻撃を捌きつつ下がる。


「うふふ、世界が滅びるまでに私を倒せるかしら?」


「やらせるかぁ!」


アドルが狂った様に攻撃を仕掛けて来る。

その荒々しい動きは隙だらけで、カウンターを入れ放題だ。

だが、そんな無粋な真似はしない。


だって、必死に頑張る愚か者の姿を眺めるのが楽しくて楽しくてしかたがなんだもの。


今度は私が守りに入る番よ。

さあ、崩してごらんなさいな。


「ほらほら、皆ドンドン死んで行ってるわよ。早く頑張って倒して見なさい。うふふふ」


まあ仮に私を倒せても、世界の卵は止まらないんだけどね。


旧世界の生命力を凝縮させた、新しい世界を生み出す卵。

言ってみれば、それ自体が独立した生命だ。

だから私が死んだからと言って、その動きが止まったりはしない。


ま、私が倒される事なんて絶対にないから意味のない過程ではあるが。


「くそっ!くそぉ!!」


アドルががむしゃらに攻撃を繰り返す。

だが私には届かない。


「あはははは、もう半分以上は死んでるわよ!もっと頑張りなさい!!」


世界が滅びるまでには、そう時間は必要ない。

所詮地上にいる者達は、虫けら以下の路傍に転がる石ころレベル。

数こそ多いものの、生命エネルギーの搾取に真面に抵抗できない以上、その搾取は瞬く間に完了する。


「あらら……」


私はアドルの攻撃を受け止め、そして彼を弾き飛ばした


「ざーんねん、タイムオーバー。世界……滅びちゃったわよ。見て見なさい」


「そんな……」


上空のスクリーンは、滅びた都市などの映像を次々と映し出す。

そしてそこに映る人間体は全て、生命力を抜かれミイラの様に干からびて死んでいる。


「俺は……」


その様子を目の当たりにしたアドルが、力なく膝から崩れ落ちる。

綺麗に心が折れた様だ。


「馬鹿ねぇ。女神である私を煩わせなければ、こんなもの見ずに死ねたってのに」


まあだが許そう。

最後の必至な顔。

そして今の絶望に膝を屈する姿は、哀れなピエロっぽくて最高に楽しめたから。


「さて、それじゃあ死んで――ん?」


絶望に沈み、心が折れて動かなくなったアドルに止めを刺そうとして違和感を感じる。

アドルから感じる物ではない。


それは頭上。

世界の卵の方から感じる物だった。


気になった私は、振り返って卵を仰ぎ見て――


「なっ!?」


――眼を見開いた。


なぜなら、本来純白であるはずの卵の一部が黒く変色していたからだ。


そしてそこから感じる力の波動は――

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