第33話 全てのピースは揃った

「ふん!」


女神ンディアが、私の放ったエネルギーの塊を片手で受け止める。

炸裂時の強烈な閃光が視界を覆い隠す。


「この程度の攻撃、私に――っ!?」


ンディアの表情がギョッと固まる。

閃光を隠れ蓑にして迫った、自身の目と鼻の先に迫った赤い針を見て。


「くっ!?」


女神はそれを咄嗟に体を捻って躱した。


そう――



「我が娘ながら、とんでもない真似してくれるじゃない。まさかあの針で私を生贄に捧げようだなんてね。流石に一瞬ヒヤッとしたわよ。でもざーんねん、外れちゃったわ」


「……」


私はしかめっ面で女神を睨みつける。

その心の内でしている、ガッツポーズを悟られない様に。


針は女神に刺すために投げたのではない。

むしろ、刺さって貰っては困るのだ。


何故なら、仮に刺さっても針は刺さった部位周辺の肉ごと抉れば問題なく処置できる。

もしくは、生贄に捧げられてしまう前にマスターを殺してしまとか。


どちらにせよ、女神に刺さったのでは私の目的は達成されない。

それは防御なんかで弾かれても同じ。

私の目的は、女神が回避してくれて初めて成立する。


そう、これで……全てのピースは揃った。


後は扉を開くだけである。

尤も、それを開くのは私ではない。

マスターでも。


扉を開くのは、女神ンディア。

彼女のその傲慢さと愚かさだ。


「ふふふ、言っておくけど……今更謝ってももう遅いわよ」


「く……針はもう一本あります。気が早いですよ」


「うふふ。種がバレた攻撃を今更私が喰らうとでも?」


もちろん、女神に針を刺すのは不可能だ。

だが全く問題ない。

そもそも、この針を刺す相手はンディアではないのだから。


「マスター!最後まで諦めないでください!」


少し離れた場所にいるマスターに、私は語り掛ける。

女神の声はどれ程距離が離れていても聞こえるが、私はそうはいかないのでハッキリと聞こえる様に大声で。


急に大声で語り掛けられマスターは一瞬驚いた顔をするが、直ぐに真剣な顔になって私の方をじっと見つめてくる。


「いいですか!どんなに苦しくても勝利を信じて!防御に徹して最後までしぶとく粘るんです!!」


これが私から、彼に対してかけて上げられる最後の道標アドバイス


もっと分かりやすくハッキリと伝えたかったが、そうすると女神に勘づかれてしまう恐れがあったので出来ない。

けどまあ大丈夫だろう。

何故かはわからなくてと、きっと私の言葉通り最後まで諦めず戦い抜いてくれる筈だ。


何故なら、マスターは私を信じてくれているから。

そこに疑いはない。


「あらあら、酷い事を言うのね。あの死にぞこないに最後まで希望を持って戦えなんて……もっと苦しめなんて、私でも言えないわよ。さっすが私の娘ね」


「ええ、貴方と同じで、性根が腐ってますんで」


――最後にマスターと色々話したかった。


未だ余裕を見せる女神相手なら、それも出来なくはないだろう。

だが駄目だ。

私にその資格はない。


マスターを生かす。

その一点だけの為に、私は彼と共に過ごした仲間達の命を布石に使っている。

そして世界の全ても。


そんな罪深い私に、彼と最期の時を取る資格はない。

ましてや自分の気持ちを伝えるなどもっての外だ。


そう、これは慎ましやかながらも私自身への罰だ。


もちろん贖罪には遠く及ばないが、それでも……


「あら、女神である私は清らかさの象徴だと思うんだけど?」


「寝言は寝てから行ってくださいな。リリアちゃんバスター!」


私は魔力を込めた一撃を女神へと放つ。

当然これも先程と同じく、ただの目くらましだ。

この後、針を使う。


但し、針の先端の向かう先は女神ではない。


私はンディアに見えない様、長いスカートの裾をめくって自らの太ももを露わにする。

そして覚悟を決め、自らの太ももに――


針を深く刺した。


自らの全てを、マスターに捧げるために。

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