第24話 好機

体が軽い。

今までとは比べ物にならない程の力を感じる。


「はぁっ!」


「あら怖い」


だがそんな俺の攻撃を、ンディアはふざけながら容易く躱してしまう。

レアやセイヤの攻撃も。


……なんて速さだ。


女神の動きに技術的な物はない。

しかしそのスピードは驚異的だ。

俺達の攻撃を躱した女神は、とんでもない速度で俺の目前へと迫る。


「くっ!」


その首に向かって咄嗟に剣を振るう。

だがそれは掻い潜られ、女神の両手が俺の顔面に迫った。


……不味い!


とても回避は間に合わない。

その手が俺の顔面を――


「必殺猫騙し!なんてね……」


――捕らえる事無く、その直前で両掌が打ち合わされた。


打ち合わされた両掌からは、パーンと乾いた音が響く。

だがそれだけだ。

驚きはしたが、とくに此方にダメージはない。


「うふふ、ビックリしちゃったかしら?」


へらへらと小ばかにした様に笑いながら、女神が俺から素早く離れた。


……完全に遊ばれている。


本気を出すまでもないと言っていた通り、奴は手を抜いたまま戦う気の様だ。

本来なら怒りを覚える行動ではあるが、今この時においては有難いとしか言いようが無い。


現状でこれなのだ。

本気を出されれば、冗談抜きで勝ち目が無くなってしまう。


とは言え、このままでは本気を出していない女神相手ですら勝機が見えない。


だから俺は――


「舐めるなよ」


――分身を生み出す。


精神への影響を考えれば、分身を生み出すのは危険な行為と言える。

分身すればその分、精神への負荷が大きく増すからだ。


だが問題なかった。

何故なら、今の俺は【神殺しチートスレイヤー】による負荷を一切感じていないからだ。


理由はテッラとベリーが生み出してくれた剣にある。


どうやらこの剣には、邪神の力による精神汚染を防いでくれる効果がある様だ。

そのため以前の様に制限時間や、分身による過重負荷を気にする必要がなくなっていた。


「分身して大丈夫なのですか?」


「問題ない!一気に押し切るぞ!!」


「分かった!」


「あらあら、がんばってねぇ」


俺達三人と生み出した分身とで、へらへら笑いながら反撃もせずふざけた回避を続けるンディアを四方から攻め立てる。


くそ、分身込みでも……


相手の回避は隙だらけの適当な物だ。

だがそれでも全く捉える事が出来ない。

スピードが更に上がり、余りにも相手の動きが早すぎるのだ。


実力差が大きいのは分かってはいたが、手加減されてなお此処まで差があるってのかよ。

なんとかしないと……


ふざけ半分での回避をいつまでも女神が続けてくれるとは思えない。

何れ本気の反撃が飛んでくる事になるだろう。

そうなれば勝機を見出す事すら難しくなる。


――そんな状況を打破すべく仕掛けたのはレアだった。


「――っ!?」


戦闘中、俺と目が合った瞬間女神の背後にいた。

そしてティアからも死角となる位置にいた彼女の姿が、突如として消える。


これはあのスキル……そうか!


彼女の目的を一瞬で察した俺はスキルを発動させる。


――【超越種の咆哮ドラゴン・ハウリング】だ。


「「「―――――――――――っ!!!!!!!!!!!」」」


分身を合わせた3人分の声が衝撃波へと変わり、周囲を強く震わせる。


これは自分よりレベルの低い相手を行動不能にするスキルだが、もちろん女神には効かない。

俺よりレベルが低いなんて事はありえないだろうし、そもそもレベルという概念すらあるのかすら怪しい相手だからな。


だが問題ない。


何故ならその目的は、まだレアが消えた事に気付いていないンディアの気を引くためにだからだ。

求めているの派手さのみ。


「あらあら、急に大声なんか出しちゃって。まさかそんなスキルが、一か八かで効くとでも思ったの?」


「ちっ、駄目か」


俺は敢えて悔しそうな表情を作る。

女神を騙してその意識を俺に集中させるために。


「ふふふ、必死過ぎて笑えるほど可愛いわねぇ」


「舐めるな!」


間髪入れず、俺は女神に攻撃を仕掛けた。

時間が経てばいくらこちらの事をムシケラ程度にしか考えていない女神でも、レアがいない消えた事に気付くだろう。


その前に、彼女の消えた位置に女神を誘導する。


「はっ!」


セイヤさんが俺の動きに合わせてくれる。


彼女……いや、彼か?

まあどっちでもいい。

とにかくセイヤさんも、俺と同じ考えに至っている様だ。


そのまま二人で連携し、なんとか女神を誘導する。


「あら?そう言えば一人足りないわね?」


女神がやっとレアの居ない事に気付いた。

だがもう遅い。


お前がいる場所は―――


「はぁ!」


――レアの居る場所だ!


「なっ!?」


突如姿を現し、斬りかかって来たレアに女神は驚愕の声を上げる。


レアが姿を消すために使ったスキル。

それは【路傍の石】だ。


かつて彼女が双極黄金蜘蛛ゴールデン・ジェミニスパイダーの生み出した異次元で発現させたユニークスキルで、周囲の認識を外し、自分を識別を出来なくするスキル。


動くと解けてしまうが、逆に言えば動きさえしなければ女神でさえ認識できなくなる強力なスキルでもあった。


「くっ!」


二刀流であるレアの刺突がンディアを襲う。

いくら素早くとも、突如現れた奇襲の一撃には流石に対応できないだろう。

彼女の突き込む二刀を、躱せないと判断した女神は咄嗟に両手でそれぞれ掴んで受け止めた。


素手で掴んではいるが、恐らくダメージは殆どないだろう。

だが十分だ。

女神の動きさえ止まれば――


「「マジック・フルバースト!」」


俺の分身二体による、両サイドから放つ必殺の一撃。


レアの突きを握り止めている状態で、その攻撃に完璧に対応できる訳もなく。

ンディアは苦し紛れとばかりに、無理やり後ろに飛んで躱そうとする。


だがそれよりも早く。

両サイドからの俺の分身のオーラを纏った刃が、女神ンディアの左右の手の肘から先を切り飛ばした。


「わ……私の腕がぁ!!」


両腕を失った女神の表情が苦痛に歪み、その動きが止まる。


ここだ!

ここで決める!


ティアの乱入を許せば、傷は瞬く間に回復させられてしまうだろう。

女神を倒しきるなら、この瞬間しかない。


「「マジックフルバースト!!」」


聖・彗星脚ホーリー・コメットクラッシュ!!」


俺とレアのスキル発動が重なる。

セイヤさんも迷わずこの瞬間に、必殺の足技を仕掛けた。


「これで終わりだ!ンディア!!」


俺は剣を振り上げ、渾身の一撃を女神ンディアに叩きこもうとして――


「――っ!?」


――目が合う。


その肉体はフィーナの物だ。

当然その顔も。


このまま攻撃すれば、フィーナを完全に殺す事になる。

そう思うと一瞬力が抜けそうになってしまうが、俺は覚悟を決めて歯を食い縛り、渾身の力を込めてを剣を振り下ろした。


ごめん、フィーナ……


俺達三人の攻撃は、両手を失い無防備になっていた女神ンディアに直撃する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る