第25話 勝てない
「そんな!女神である私が!!」
俺達の必殺の攻撃が、ンディアに直撃する。
そして女神は――
「くっ……」
「馬鹿な……」
「……」
――微動だにしない。
腕が痺れる。
俺は剣を振り切る事が出来なかった。
攻撃を防がれた訳ではない。
確かに俺の剣は、渾身の一撃は女神の体を確実に捉えている。
レア達の攻撃も。
だがそのどれもが――
「ふふふ、ひょっとして……勝てたと思っちゃった?ざーんねん」
――女神にダメージを与えられずにいた。
「言ったでしょ?貴方達じゃ私には勝てないって。だって貴方達の攻撃……非力すぎて私にほとんど効かないんだもの。そりゃ勝てる訳ないわよねぇ」
女神が愉快気に、意地の悪そうな笑顔を浮かべる。
パワー不足で俺達の攻撃が効かないだと?
だが直前に、半分の力しかない分身が奴の腕を切り裂く事には成功している。
攻撃が一切効かない訳が――
「ああ、これね」
俺達の視線に気づき、女神が肘から先のない両手を上げる。
「実は斬られた訳じゃないのよ。斬られた風に見せかけて、分離したの。その証拠に、血が出てないでしょ?言ってみればトカゲのしっぽ斬りって奴よ。あとそれと、言うまでもないとは思うけど……その子が消えたのには、ちゃんと気づいてたわよ。女神を騙せると思った?」
女神がレアの方を見て、口の端を歪める。
「……」
言葉が出なかった。
俺達がチャンスだと思った物は、チャンスでも何でもなかったのだ。
女神が俺達を揶揄う為だけにやった演出。
ただそれに踊らされていただけ。
「ま、ないと不便だから治しとこうかしら」
女神の両腕が輝いたかと思うと、肘から先が一瞬で回復する。
「回復魔法……」
それもとんでもなく超高位の。
「当然でしょ?私はリリアやテッラのお母さんなのよ?何より、慈愛の女神様なんだから回復魔法はお手の物よ」
ダメージはまともに通せない。
しかも相手は、失われた両腕を一瞬で回復する程の回復魔法まで使う。
こんな奴に、どう勝てばいいってんだ?
「うふふふ。良い顔ねぇ。その顔よ。その顔が見たかったの。女神である私に逆らったんだもの……しっかり絶望の底に沈んでもらわないとね」
醜悪な、悪意の塊の様な女神のその笑顔を向けられ俺は思わず後ずさった。
「ふふ、怖くて後ろに下がりたいの?だったら下がらせてあげるわ。吹き飛びなさい」
「ぐぁっ!?」
ンディア徐に腕を突き出す。
その瞬間、凄まじい衝撃波に俺は吹き飛ばされてしまう。
「ぐ……く……」
全身に鋭い痛みが走る。
何気なく放たれた攻撃ですらこのダメージ。
分身も消し飛ばされてしまった。
「想像以上だな」
「ええ。私達の攻撃所か、まさか今のアドルさんの攻撃まで効かないなんて」
レアとセイヤさんが、吹き飛ばされた俺の元へ駆け付ける。
どうやら二人は衝撃波を躱す事が出来た様だ。
俺だけビビッて回避はおろか防御も出来なかったとか、我ながら情けない……
「直ぐに回復します」
「すいません」
セイヤさんが回復魔法で俺のダメージを回復してくれる。
その様子を、女神は遠くから楽しげに眺めるだけで此方に手を出して来ない。
お前が回復しても、何も変わらないとでも言わんばかりの行動だ。
実際そうなのだろう。
それ程までに、俺達とンディアとの間には隔絶した力の差がある。
くそ、どうすれば……
「安心しろ。まだ手はある」
レアが俺の肩に手を置く。
どうやら彼女には、まだ奥の手がある様だ。
「覚悟を決める時が来たようですね。使わずに済めばと願ってはいましたが、こうなったら仕方ありません」
セイヤさんにも何かあるみたいだ。
こんな状況下でも落ち着き、奥の手まで持ち合わせている二人が頼もしくて仕方ない。
贅沢を言うなら、奥の手や切り札とかは事前に教えといて貰いたい所ではあるが。
「それで?二人とも一体どうするつもりなんだ?」
「アドル。お前に全てを賭けるよ」
「私の全てを貴方に託すんですから、簡単に負けないで下さいよ」
「賭ける?託す?」
二人が何を言っているのか分からず、俺は首を捻る。
「簡単な事だ。私達の力を」
「生贄に捧げます」
二人がそれぞれ、同じような赤い針を取り出す。
それは俺の手にしている剣とそっくりな、血の様な赤い色をしていた。
「生贄?それに、その針は……」
俺が尋ねると――
「アドル。フィーナやドギァ、ガートゥの敵討ち……頼んだぞ」
「へ?」
「もしこの戦いに勝てたなら……世界を救うために命を賭けた偉大な聖女として、私の名を世に広めてくださいね」
「セイヤさん?レア?」
――まるで遺言の様な事を口にし、二人は手にした赤い針を自分達の体に突き刺した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます