第18話 準備

限界突破オーバーロード


それはヒロイン・ドールの力を、限界を超えて発揮させる力。

その代償は大きく、使えば間違いなくその躯体は崩壊してしまう。


一度っきりの、私の切り札の一つ。


「リリア……お前まさか……」


スキル発動と同時に、体から赤いオーラが立ち昇る。

マスターはそれを見て目を見開く。

私が何をしたのか、直ぐに気づいたのだろう。


「このままやられるのもしゃくなんで」


そう答えながら、反撃結界カウンターを頭上に広範囲展開してティアの光線を跳ね返してやる。


「ポンコツの癖に小癪な真似を!」


自分に戻って来た攻撃を弾きながら、彼女は頭上の光――光線攻撃の元――を消滅させる。

跳ね返って来る攻撃を続ける意味はないから、まあ当然だろう。


「ここから先は、好きにはさせまんよぉ。姉の偉大さを、再度知らしめてあげましょう」


此処からは私のターンだ。

ティアには、思惑通り踊って貰うとしましょうか。


「吹き飛んでくださいな」


「くっ!?」


蓄積してあった魔力に、私の魔力をプラスしてティアラからビームを放つ。

それはティアを直撃し、遥か彼方へと吹きとばした。


が、余りにも高出力だったためか、ティアラの方も嵌まっている宝玉ごと粉々に砕けてしまった。


「あらら。折角マスターから貰った物なのに、壊れちゃいましたねぇ。すいません」


「そんな事はどうでもいい。それよりリリア、それを使ってしまったらお前の体は……」


マスターが眉根を顰め、沈痛な表情を私に向ける。

私の事を心配してくれているのだろう。


「安心してくださいな。体が崩壊しても、【生命力Lv2】のスキルで復活出来ますから」


「それ……嘘だろ」


私は笑顔で問題ないと嘘を吐く。

だがその嘘を、マスターは一瞬で見抜いてしまう。


【生命力Lv2】は、死んだ際に完全回復して蘇生を行うスキルである。


そう、蘇生させるのは死んだ者。

死者だ。


私は女神の魂の一部を込められて生み出されているとはいえ、所詮は人形にすぎない。

当然そこに命は宿ってなどいない。


――言ってしまえば、私は武器屋防具と同じ。


そして壊れた道具は、【生命力Lv2】では再生しない。

だって、死んではいないのだから。


その事にマスターも気づいていたのだろう。


「いやですねぇ。良い男ってのは、女の嘘を笑顔で受け止めるもんですよぉ」


私は冗談めかして、軽くそう言う。


「無茶言うなよ……リリア、他に手はなかったのか?俺の力だって、まだ残ってたんだぞ」


「マスターはびっくりする程当てになりませんからねぇ。ま、もう使っちゃいましたし、今更後戻りはできません。だからあの根性曲がりの妹の事は、リリアちゃんに丸投げしちゃってくださいな」


任せてください。

私が必ず、貴方の勝利を齎しますから。

どれ程の犠牲を払ってでも。


「面白い冗談ですねぇ。まさか、お母様から力を頂き天使になった私に勝てるとでも思ってるんですかぁ?」


吹っ飛ばしたティアが、背中の翼を羽搏かせて飛んで戻って来た。

ダメージはほぼない。

まあ仮にあったとしても、回復魔法で回復されていただろうが。


「自分の全てを掛けたぐらいで勝てると思ってるのなら、その下らない幻想を……ティアちゃんがズタズタに引き裂いてあげますよ」


ティアの言う通りではある。

自身の崩壊と引き換えに手に入れた力ではあるが、これだけでは彼女には届かない。

戦えば、まず間違いなく私が負けるだろう。


けど――


「まあそう焦らないで下さいな。本番はここからなんですからねぇ……」


私は腹部に収めてあった物を口内に移し、口を大きく開いてティアに見せつけてやった。


「――っ!?それは……」


私の咥えた、暗い紫色の光が宿った玉。

それを見た瞬間、ティアの顔色が変わる。


そう、それは――


「おや、気づきましたか?そう、これは……貴方の大好きなお母さまから頂いた龍玉のレプリカです」


私はそれを再び飲み込み、ニヤリと笑う。


龍玉には、死者を蘇らせる程の力が宿っている。

これはレプリカなので、そこまでの力はない。

だがそれでも、そこに含まれるエネルギーは膨大な物だ。


「今の私の力に、このレプリカの力が加われば――」


そのエネルギーを、私は吸収する事が出来る。

そうなれば、私の力は今のティアすら凌駕する事になるだろう。


まあその分、躯体からだの崩壊は加速度的に早まるが……


どうせここでダメになるのだから、まあ誤差だ。


「させるかよ!」


ティアが焦って突っ込んで来た。


が、もう手遅れである。

彼女に見せた時点で、エネルギー吸収の準備はもう終わっていた。

のん気に、妨害の隙を与えると思ったら大間違いだ。


「ふふふ……」


体に更なる力が急激に満ちる。

私はそれを示すかのように、全身から強い光を放った。


これは意図的だ。

これからやる事を、天井から眺めている女神に見えづらくするための小細工。


まあ光で視界を完全に遮ったとしても、当然女神は私の動きを捉えてしまうだろう。

だが問題ない。

重要なのは、細かな部分を把握させない事だから。


「無駄ですよ」


飛び掛かって来たティアの腕を両手を掴み、背負う形で彼女の体を投げ捨てる。

ある方向に向かって。


――それは気絶いしている、エターナルのいる方角。


究極結界アルティメットバリアー!」


そして私は高速で詠唱し、最強クラスの結界を展開する。


私とティアとエターナル。

そして、それ以外の仲間達を隔てる形で。

転移などの逃避を阻害する結界を。


これでティアに逃げ場はない。


――を除いて。


きっと目聡いティアなら気づくだろう。

そして……まさか一緒に始末すると見せかけて、実は彼女が盾に使える様に私が結界内に一緒に閉じ込めたとは考えないはず。


さあ、準備は整いました。

では頂くとしましょうか。


その体を。

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