第14話 一対一
「私は神らしく、上から眺めさせて貰うわね」
女神がそう告げると、その体が急上昇して行き、あっという間に俺達の視界から消える。
高みの見物っていうのは、正にこういう事を言うのだろう。
「セイヤさん、マスターの封印解除を」
「分かりました」
リリアの指示に従い、セイヤさんが俺にかけてあった封印を解除する。
これで
勿論、その分精神への負担は大きくなるが。
「アドル!貴様に主人公の座をかけて、一対一の勝負を申し込む!!」
エターナルが剣を抜き放ち、その切っ先を俺に向ける。
主人公云々は相変わらず意味不明だが、奴がこうも俺に執着するのは、以前の戦いでの結果のせいだろうと思われる。
皇帝という立場の人間だけあって、プライドだけは無駄に高そうだからな。
「この状況下で、そんなふざけた勝負を通すと思ってるのかい?寝言は寝てから言いな」
エターナルの申し込みを、ドギァさんが一蹴する。
まあ当然だ。
此方は七人で、相手は二人。
数で勝っている俺達が、一対一を受ける謂れなどない。
だが、リリアは俺がエターナルと一対一で勝負する事になると言っていた。
なら……
「雑魚どもが……ティア、邪魔なゴミ共を排除しろ!」
「やれやれ、人使いが荒いですねぇ……」
ティアの羽が白く輝き、そこから突風が巻き起こった。
「――っ!?」
「うわっ!」
「くぅ……これは……」
凄まじい風圧に、危うく拭きとされそうになる。
見ると俺以外のメンバーは、突風に大きく弾き飛ばされていた。
そしてその色のない筈の強風が白く輝き――
「
俺とエターナル。
そしてそれ以外を隔てる壁――結界へと変わる。
「くっ!分断か!!」
「吹っ飛ばすべ!」
「ふっ!」
「オラァ!」
「はぁ!」
結界に、テッラ達が一斉に攻撃を仕掛けて破壊しようとする。
だが、その全てが弾き返され――いや、これは弾き返すというよりは吸収に近いか。
音もなく、結界はその全ての衝撃を飲み込んでしまう。
「くそっ、全く効いてねぇ。レア!こうなったらデカいのを――」
「皆さん。落ち着いてください」
ガートゥがレアと共に必殺技を放とうとするが、リリアがそれを制した。
その顔を落ち着き払っている。
きっと彼女には、最初っからこうなる事が分かっていたのだろう。
「この結界を無理に破壊しようとすれば、かなり消耗させられてしまいますよ」
「だとしても、アドルが分断されてしまってるんだぞ」
「大丈夫ですよ。マスターはあんなボンクラにやられたりはしませんから」
そう自信満々に、リリアは宣言する。
皆の攻撃を完全に無効化出来る結界を一瞬で張ったティアのパワーアップは、相当なものだ。
ならばそれと同じ様に女神から力を貰ったエターナルの能力も、出鱈目に上がっている筈である。
にもかかわらず、彼女は俺が勝つと疑っていない様だった。
それでも、元々あった力の差で押し切れるって事か。
ひょっとしたら天使(?)に生まれ変わったティアに対して、エターナルはそれ程パワーアップしていないのかもしれないな。
「強力な結界の維持には、当然それだけの魔力が必要になります。ですので……私達は余計な事をせず、力を無駄に垂れ流して頂くとしましょう」
リリアが挑発的な眼差しを、結界を言指示ているティアへと向ける。
「まあ……維持が辛い様なら、いつでも解除してくれて構いませんけどね」
「ふん。あんたじゃあるまいし……お母さまから力を頂いて天使になったティア様が、この程度の結界の維持でヘタる訳ないでしょ。いいわ。今の私とあなたの力の差、見せつけて上げるとしましょうか」
ティアはリリアの目的を知って尚、結界を維持する事を宣言する。
自分の力に相当自信がある様だ。
「姉として、可愛くない妹が吠え面かかない事を祈ってますよ」
「お母さまを裏切ったポンコツ風情が……偉そうに姉を気取らないでよね」
二人の間に、緊迫した殺気に近い空気が流れる。
どうやら仲が悪いのは女神に命じられたからふりをしていたのではなく、正真正銘の犬猿だった様だ。
「ふん、脇役共の小競り合いなど下らん」
そんな二人のにらみ合いを、エターナルが鼻で笑う。
奴にとって、自分のこと以外どうでもいい事なのだろう。
「さあ、始めるぞ。どちらが主人公に相応しいか――いや、この俺こそがその座に相応しいと証明する為の戦いを……な」
そう告げると、エターナルが武器を構えた。
リリアの様子から、俺が負ける様な事はないと確信できる。
呪いの影響によるタイムリミットも、気にしなくていい様だ。
だが、一つだけ気を付けなければならない事があった。
それは奴を誤って殺してしまわないようにする事だ。
実力差が大きくあるのなら、それほど難しくはないだろう。
だが、流石に簡単に戦える相手だとは思えない。
そう考えると、それはある意味ただ殺すよりも難しい注文と言えた。
「ま……難しかろうが何だろうが、勝つためにやるだけだ」
俺は自らの剣――アドラーを構えた。
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