第9話 反抗期

「やれやれ……折角機会をあげたってのに、みんな揃ってあの世行がお望みだなんて」


私は小さく溜息を吐く。

これは従わなかったという事よりも、無駄な事に時間をかけてしまった徒労に対するものだ。


なんとなく、昔聞いた事のある『赤信号。皆で渡れば怖くない』なんて言葉が頭に浮かぶ。

ま、今の状況とは似て非なる者だとは思うけど。


「エターナル。ひょっとして貴方も、世界を守るために戦うなんて馬鹿な事言い出さないわよね?」


答えは聞くまでもなく分かり切ってはいるが、一応聞いておく。

お馬鹿さんにも。


「くだらん。真の支配者しゅじんこうである俺が、古い世界にしがみ付く様なみっともない真似をする訳がないだろう。それよりも、新しい世界は俺が支配するに相応しい世界なんだろうな?」


「うふふ、それは出来てのお楽しみよ」


私は私にとって、楽しめる世界を作る。

そこにエターナルへの忖度を入れるつもりはない。


まあ気に入らないと駄々をこねる様なら始末……


いや、待てよ。

いい事を思いついたわ。


私は楽しい事を思いつき、心の中でほくそ笑む。

それはエターナルが、新しくできた世界に文句をつける事がなくなる名案。


「エターナル!帝国はお前の国だろう!!」


アドルが怒りの形相でエターナルを見る。

自分の国を当たり前の様に切り捨てる、彼の事が気に入らないのだろう。

ほんっと、無駄に良い子ちゃんねぇ。


「ふ……帝国の皇帝などという物は、しょせん俺を彩る為の道具せっていにすぎん。使えなくなった物を捨てるのに、何を迷う必要がある」


そんなアドルを、エターナルが鼻で笑う。

彼の主張は一貫して、自分が良ければそれでよしである。


考え方は完全に私と同じ。

まあ女神である私と、私に力を貰ってイキっているだけの皇帝ピエロとでは、存在としての有りように天と地程の差があるけど。


「沈む船にしがみ付く。そんな貴様に、我がライバルたる資格はない。そう、やはり私こそが唯一無二の主人公なのだ!!」


イキっているピエロに。

沈む船にしがみ付く甘ちゃん。

私から言わせれば、ライバルにピッタリだけどね。


「ふふふ、さっすが私の選んだ転生者よ。貴方には、アドルとどちらが真の主人公かを神の名の元に決させてあげるわ」


アドル達を殺すのは簡単だ。

だがムシケラ如き、女神である私が態々手を下すまでもない。

彼らの始末は、リリアとティアの2体に任せればいいだろう。


ん?

エターナルはアドルと戦うんじゃないかって?


勿論、戦わせてあげるわよ

そしてそこでエターナルは証明する事になるの。


――真の主人公ピエロが、誰かって事をね。


あれだけ偉そうにイキリ散らして、その癖ライバル相手に負ける。

エターナルがどんな風に無様な姿ピエロを演じてくれるのか、楽しみだわ。


「さて、それじゃあ――」


始めるとしましょうか。


「審判の時よ」


女神っぽく、おすまし笑顔で私は大仰に両手を開く。

ついでに背中の羽も輝かせて、虹色の光の輪っかを背後に演出してみた。


ぶっちゃけあんまり私っぽくないが、ラストバトル位は厳かな感じにしてあげようという配慮である。

私の為に頑張ってゲームをクリアしてくれた、間抜けさん達へのね。


「リリア、ティア、エターナル。偉大なる女神の名において命じるわ。貴方達に使途たる力を授けるから、その力を持って私に従わない愚か者達を滅しなさい」


私の敵ではないとはいえ、邪神の加護を受けた今のアドルの力は強力だ。

その仲間達も、生物にしては中々の物である。

今のリリアとティアの力では、彼らを始末する事は出来ないだろう。


だから彼女達には、新たな力を授ける。

女神である、私の使徒――天使に相応しい力を。


あ、もちろんエターナルにも上げるわよ。

今のままじゃ、アドルと戦っても一方的にボコボコにされるのは目に見えているもの。

やっぱりライバル同士の戦いは、ある程度接戦じゃないとね。


そしてその上で負ける。

その程度の力を、私はエターナルには与えるつもりだ。


「それは……マスターを殺せって事ですか?」


リリアが何故か下らない質問を投げかけて来た。

それ以外の意味があるのなら、逆に教えて欲しい物である。


「ええ、そうよ。貴方のマスターは女神である私に反旗を翻した。なら、その罪は命で償うべきでしょ?」


「そうですか……でしたら――」


リリアが反抗的な、鋭い眼差しを此方へと向ける。

そしてその口から、ありえない言葉を発する。


「マスターを守るため……私は貴方と戦います。私の全てをかけて!」


「――っ!?」


創造主に対する叛逆。

操り人形リリアには決して許されない言葉。


その絶対にありえない彼女の言葉に、私は驚きのあまり両眼を見開くのだった。

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